コガヤスオ(40歳)

細身の男は色落ちしたケミカルウォッシュのジーンズを履き、通りに背を向けて、ベンチで求人表を眺めている。

(今日、ハローワークに来た目的は?)今日の目的は仕事場探しです、仕事はなかなかない。

(求職期間は?)2年ちょっと求職してますね。もうずっと貯金崩して食ってます。前職はコンピューター関係の営業で、正社員です。

(なぜ、仕事を辞めたのですか?)実際には家庭のことと成績が振るわなかったこともあって、退職勧奨もあって、「もうちょっと考えたほうがいいんじゃないの、これからの残り人生を」って、でまあ、辞めたと。

(それはリストラですか?)間接的なリストラかどうかは微妙でね、実際。結局、決断したのは自分なので。

(それをいわれた時、何をお考えに?)それをいわれた時は、まあ、たまらんわね、うん。十数年その会社で、曲がりなりにもやってきたので、まあ、つらかったですね。上司からいわれたことと自分自身、家族のことを思った時には、「うーん、実際どうしようかな」って考えましたね。まあ、営業だったんで、「SEさんやったらまだ何とでもなるかな」と思ったけど。営業も営業に応じてもらえる企業さんに合わせた営業やったからね。ある企業が夜中まで仕事してたら、そこに合わせた営業やったら、13時間以上働くとかね、しんどかったね。でも、営業って時間じゃなくて、結局、成績やしね。雇用保険も3か月先になるから、そこらへんも含めて、実際、「何でやねん。やってられんなあ」っていうのはありましたけど、いっても仕方ないし。

(抗議は?)抗議とかはしなかったですね、組合自体もなかったし、会社ともめたところで仕方ないし。辞めた当時は「すぐなんとかなるやろ」って思ってたから。

(会社の人間に思うことはありますか?)会社の人間に対してはどうのこうのいうのは基本的にはない、うん。上司はね、ちょっと思うところはあるけど。前の会社の人間とのつながりはあまりないかな。個人的に趣味の世界で、たまにつながりがありますけど、仕事の話ではないですね。「こちらから電話をかけてみようかな」って思う時もありますけど。

求職中の2年間は結局、仕事就けなかったね。その…仕事探しはしてたけど、「全然違う製造の世界飛び込もうかな」とか思ってましたけど、なかなか正社員で雇ってくれるとこは、もちろんないし。かといって、派遣とか期間労働でそのまま正社員に流れるような求人はなかなかなかった。「自分は営業向いてないだろうな」とは思ってるんですけど、営業で今探してるところです。

(離職後、家族の中でご自身の位置づけに変化はありましたか?)妻が働いている、頑張ってくれてるので、妻の代わりに主夫?を私がやってる。でまあ、「仕事が見つかれば」と思って、動いてはいるんですけど、まあ、なかなか。年齢的なところもあるし。実際に折込の求人誌とかね、年齢が書かれなくなったこともあって、何件か電話したんですわ。そしたら、やっぱり実際には「30歳まで考えてる」というのは電話レベルでいわれますのでね。(男は饒舌になる)年齢が関係ないのであれば、聞く必要がないのにそれを聞いてくる。だからそこはやっぱり、ねえ、年齢の表示がなくなっただけで、実際には違う。その辺に対して憤りはあるっちゃあるけど、それぞれ企業さんずっと継続していかなあかんし、従業員さん守っていかなあかんから、そこは企業さんが考えることやから、まあ仕方ない。

(求職の条件は?)「自分の条件にあった会社に行きたい」っていうのがあったから、求人した数は少ない。前の会社が完全週休2日やったし、給料も少ない割にはそれなりにはもらってたんで、そこらへんの条件がなかなか崩しづらい。まあ、妥協すればね、何かしら職はあるんでしょうけど。賃金は総支給で30万弱、欲しいんやけどね。もうだいぶ貯金も崩してしもうたから、もうちょっとたまらん。あと、不安なのはこれから先、子どもも大きくなるし、もちろんローンもね、組んでたりするのでね、そこがおっつかなくなった時に、ほんと怖い。今はもう底ですね。

(逆に希望をいうと?)希望?(笑)、今はない。何とかなるだろうじゃなくて、何とかしなかあかん。

(世間にいいたいことはありますか?)どやろうね、もうちょっと国がしっかりしてほしいかな。苦しんでいる人、もっとたくさんいるから。私なんかより、もっともっと苦しい、それこそ住む場所もなくて。ほんで、実際、求人してる会社を受けてみたら全然、自分の年齢じゃ対応してくれない。そんなふざけた話あらへんしね。雇用条件をもっと明確にするようにしないと。まあ、いいところしか企業は見せたくないんで。ある程度、人と人で成り立ってるモンだから、「そこだけはもうちょっと考えてほしいかな」と思います。

後日、僕は彼と偶然、出会い、彼は言った。「一度、介護の業界を受けてみようと思うんですよ。どうなるかわらないけど」。