『いのちを纏う』

『いのちを纏う』という本をご紹介。著者は志村ふくみさん、鶴見和子さんです。志村さんの肩書きは紬織の人間国宝です。鶴見さんは上智大学名誉教授で、専門は比較社会学です。本書は着物をめぐる二人の対談です。以下、面白かった3点。

鶴見 若い人は派手なものより地味なものを着ると、若さの美がより強調されるのよ(p16)。

志村 私、原則としているのは、染めるときに色と色を絶対に混ぜないんです。それで赤のところに藍、赤、藍と濃淡で織っていきますでしょう。しばらくすると紫になんです。紫はつかってないのに。視覚混合で、ここでぼうっと色が紫になっていくんです。それは隣同士が影響しあうんです。ところがそれを青と赤と混ぜて紫の色を作っても、そのぼうっとした紫は出ないんです(p38)。

志村 ルドルフ・シュタイナー。その方は『色彩の本質』という本を出しています。これがまたすごい。「緑は生命の死せる像である」といった方です。だからこの緑というのは、生命と死とをこの地上で形づくって、見せてくれているものであると、私自身は藍甕の中でそれを感じたんです。白い糸を入れて、甕から出して、絞った時は緑なのにすぐに消えて青くなる。空気にふれて(酸化して)緑は消えてしまうのです。これは生命の象徴を何か暗示しているようですけど、死の象徴でもある。だから生命と死が表裏になって、そのあわいで明滅しているのが藍から出てきた直後の色、緑(pp132-133、一部省略)。

本書は日常着である洋服をより深く知るためにも、役に立ちます。

いのちを纏う―色・織・きものの思想

いのちを纏う―色・織・きものの思想