『「かわいい」の帝国』

『「かわいい」の帝国』という本をご紹介。著者は古賀令子さん。古賀さんは文化女子大学教授で、近現代のファッション史家です。本書は戦前から現代にかけて日本ファッションに展開する「かわいい」イメージを巡る概説史です。以下、面白いと思った3点。

(1980年代の)『JJ』などのカタログ雑誌を教科書に、「ニュートラ」や「ハマトラ」などブランド志向の和製トラッドで身を固めた彼女たちは、新しい女子大生像を社会に認知させ、いくつかの文化/風俗を生み出した。「ウッソー、ホント、カワイイ」の三語しかないと揶揄されたが、「カワイイ」が女の子たちの価値基準の言葉として多方面に用いられ、普遍化したのはこの時期である。彼女たちのファッションは、一見大人っぽいお金のかかったものだったが、過剰なまでに男性の視線を意識したファッションの振る舞いは、「かわいい女の子」のある一面を誇張した「ブリっ子」の台頭につながっている(pp52−53、一部省略)。

日本の「かわいい」モードの、あるいは日本のポップ・カルチャーの代表のように取り上げられることもあるのが「ロリータ・ファッション」だ。ロリータ・ファッションが広く世間に認知されるようになったのには、2004年公開の映画『下妻物語』によるところが大きい。この作品は、当初は40館規模の公開予定であったものが評判を呼んで150余館での公開に拡大され、フランスでは邦画としては過去最大の100館規模で上映されるなど、各国でも公開され、話題となった(pp102−104、一部省略)。

ファッション誌に「かわいい」という言葉がかつてない程に多様されるようになった2005年は、現在の「かわいい」モードを象徴する「東京ガールズコレクション」の第一回が開催された年でもある。また、その年には「萌え〜」という言葉が流行語になり、秋葉原のメイド・グループが流行語大賞を受賞した。そして、翌年には、「エロかわいい」が流行語になったように、「キモかわいい」、「カッコかわいい」、「大人かわいい」……などの「〜かわいい」といった表現が、褒め言葉として使われるようになる(p124、一部省略)。

本書は様々なファッション雑誌が作り出す「かわいい」イメージを各時代の社会的な背景と織り交ぜなら、描きます。本書は終章において断定に対する根拠の不在が見られますが、日本ファッションにおいて「かわいい」イメージの展開を知るために、道具的に使える本です。

「かわいい」の帝国

「かわいい」の帝国