情感を揺さぶる

僕は中島みゆきの音楽を中学のころに初めて聴いた。当時の僕は彼女の人気になんとなく追従していたが、どちらかといえばその歌声が怖かったから実はあまり好きじゃなかった。彼女のラジオ番組はおもしろくて、よく聞いていたが。

十数年たち、僕は彼女の音楽を改めて聴いて、情感を揺さぶられた。いい音楽だと思った。情感を揺さぶられるのはなぜなのかといえば、僕が楽観主義者だからだ。この楽観主義者はその実、不安でおびえている。おびえて生きるのはしんどい。だから、僕は分厚い楽観的なるもので不安を隙間なくみっちり覆った。露出しないように、注意深く。僕は物事を考えることをやめたし、ほとんど流れに身を任すようになった。平たんな感情で過ごしていると、生きやすい。

時々、楽観的なるものがつるりとむける。サラリーマンが自分の子どもをうれしそうに語る声を聞いたとき、母親の丸くなった背中を見たときに。心がざわついて、感情が揺れる。平らなものが平らでなくなる。多くの人々が中島みゆきを支持する理由は、僕と同様、奥にしまった自身の情感を彼女の音楽を通じて、人々が見つめるからだと思えてくる。