『原発のウソ』

原発のウソ』という本をご紹介。著者は小出裕章京都大学原子炉実験所の助教)さん。小出さんは原子力にはメリットよりもデメリットが大きいことを本書で説きます。以下、面白いと思った5点。

4月19日、文部科学省福島県内の学校の「安全基準」を提示しました。それによれば、1時間あたりの空間線量率3.8マイクロシーベルト未満の学校には、通常通り校舎や校庭を利用させるとのことです。年間の積算被曝量を20ミリシーベルトを定め、子どもが1日8時間屋外にいることを前提として、そこから3.8マイクロシーベルトという数値を導き出したと言います(注、1ミリシーベルト=1000マイクロシーベルト)。
年間20ミリシーベルトという値自体がとてつもなく高すぎます。日本で一般の大人が法律で許されている被曝量は年間1ミリシーベルトです。大人よりはるかに放射線に敏感な子どもが、なぜ20倍の被曝をうけさせられるのか。年間20ミリシーベルトとは、原発作業員が白血病を発症した場合に労災認定を受けられるレベルです。
さすがに原子力安全委員の一部委員も「子どもは成人の半分以下とするべきだ」と指摘しましたが、文部科学省は「国際放射線防護委員会は大人も子供も原発事故後には1〜20ミリシーベルトの被曝を認めている」と開き直っています。結局、原子力安全委員会はろくに検討もせずに文科省の決定を追認しました(pp85-86、一部省略)。

(P92)

それだけではありません。原発二酸化炭素よりも直接的なやり方で地球を破壊(注、温暖化)しています。
今日の標準的な原子力発電所発電所は100万㎾ですが、それは電気になった部分だけの話です。実は、原子炉の中では全部で300万㎾もの熱が生み出されています。そのうち3分の1だけを電気に変えて残りの3分の2は捨てているのです。
どこに捨てているのかというと、海です。海水を原子力発電所の中へ引き込んできて、それを温めてまた海に戻すことで原子炉の熱を捨てています。どのくらいの量かというと1秒間に約70トン。1秒間に約70トンの海水を引き込んで、その温度を7℃上げ、また海に戻しています。
「温度が7℃高い」とは、どういうことでしょうか。お風呂に入った時に温度を測ってみて、7℃温度を上げたらどうなるか試して下さい。そのまま入っていられなくなります。
日本には現在54基の原子力発電所がありますが、そこから流れてくる7度温かい水は約1000トンです。これで「環境に何の影響もない」というほうが、むしろおかしいと思いませんか。現に日本近海は異常な温かさになっているのです(pp118-121、一部省略)。

実は、日本は海外に原発を売り出せるだけの技術力を持っていません。
第二次世界大戦以後、敗戦国の日本は核兵器に転用しうる原子力研究を禁止されました。
日本に原子力開発が許されたのは、1952年のサンフランシスコ講和条約発効以後です。しかし、その時には手遅れでした。核先進国から何周も遅れた状態で、これから原子力開発に着手しても間に合いません。
残された手段は、海外から原発原子力技術を買ってくることでした。現在の日本で使われている技術は、アメリカから買ってきたものです。
(注、日本は)原発を増やしたものの、アメリカの技術のコピーにすぎないので、致命的なトラブルが起こると自力で対処できません。福島第一原発の原子炉はGEとその技術をコピーした東芝・日立によって造られましたが、日本の原子力業界では事故に十分に対応ができなかったことは見ての通りです。
日本はれっきとした「原子力後進国」なのです(pp165-168、一部省略)。

原発を止めたとしても、実は私たちは何も困らないのです。
確かに日本の電気の約30%は原子力ですが、発電所全体の量から見ると、実は18%にすぎません。なぜその原子力が発電量では約30%に上昇しているかというと、原子力発電所の「設備利用率」だけを上げて、火力発電所を休ませているからです。
今回の地震津波で、原発が止まって電力不足になったような印象がありますが、実は違います。火力発電所が被害を受けたことが大きな理由です。
原子力発電を全部止めてみたとしましょう。何も困りません。壊れていた火力発電所が復旧し、その稼働力を7割まで上げたとすれば、それで間に合ってしまいます。原子力を止めたとしても、火力発電所の3割をまだ止めておけるほどの余力があるのです(pp170-171、一部省略)。

原発のウソ (扶桑社新書)

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