昔出会った人に会いに行く

滋賀県甲賀市信楽に行った帰りに、学生時代にお世話になった陶芸家の神山清子さん宅に寄った。僕は彼女と会う約束を取り付けていなかったが、彼女は在宅中で、庭の雑草を枯らすために除草剤を配合していた。彼女は調合を失敗したと本気で悔しがりつつ、笑いながら、手を休めて、僕を縁側に案内してくれた。幸いにも僕を覚えていてくれた(と思う)。

神山さんとの出会いは3年前。当時、学生だった僕は女性の陶芸家という立場から見た信楽焼の戦後史をたどろうと(当時も今も日本の陶磁器産地の戦後史文献は豊かではない)、彼女にインタビューした。しかし、その目的は見事に脇にそれ、彼女は展覧会や産地の現状、骨髄バンクのお話しなど4時間ぶっ通しで語った。1時間ほどのインタビューを予定していた僕は思ったものだ。この人は72歳なのに、なんという体力。

こうしてまた神山さんとお会いして、お話しをさせていただいた。お仕事のこと、庭の作物、作物を食べる鹿や鳥、骨髄バンクのこと、そして信楽焼産地の現状など。彼女は相変わらず元気だったし、3年前と何も変わっていないかのようだ。3年前と違っていたことは2つ。僕が学生ではなくライターとして活動しているから、今度は彼女が僕にいくつかの質問をぶつけてきたこと。彼女は作陶にもっと時間をかけたいこと。

帰り際に神山さんは僕の自動車を見て、自動車の色が昔と比べて豊富になったと柔らかく驚く。それから彼女は除草作業を再開し、僕は彼女の自宅をあとにした。