『原発社会からの離脱』

原発社会からの離脱』という本をご紹介。著者は首都大学東京教授で社会学者の宮台真司さん、環境エネルギー政策研究所所長の飯田哲也さん。本書は3.11以後のエネルギー政策と政治をめぐる対談です。以下、面白いと思った3点。

飯田:世界では原子力の建設コストが飛躍的に高くなっています。理由のひとつは、世界的に安全基準が厳しくなっていること。世界的に原子力技術を支える産業界の屋台骨が劣化してきていることも挙げられます。日本でもおなじことが起きていて、六ヶ所再処理工場のステンレス製プールがボロボロに水漏れをしていた、とか。技術者のレベルがあまりにも落ちてきている。
一方、太陽光発電風力発電などの小規模分散型の自然エネルギーは、パソコンや携帯や電話、液晶テレビがそうであるように、作れば作るだけ性能が上がりコストが下がる、典型的な大量生産型の商品です。
原子力発電はいま第三世代と言われています。この第三世代は、いまから30年前に設計されている。その第三世代がいま建設されているという技術の古さです。太陽光発電などは日進月歩で世代交代している(pp43−44、一部省略)。

飯田:世界では自然エネルギーへの投資額が毎年30パーセントから60パーセント程度伸びています。10年後には100兆円から300兆円に達する可能性がある。20年後には数百兆円、いまの石油産業に匹敵する可能性がある。
日本にはこの投資の1〜2パーセントしか占めていません。日本は「グリーンエコノミー」の負け組なのです。新しい経済を生み出す側で負けてしまっている。
一方で日本は化石燃料を年間23兆円、GDPの約5パーセントを輸入しています(2008年)。石油、天然ガス、石炭です。中東のジャスミン革命によって石油価格が上昇しているのですが、ファンダメンタルズ(基礎的諸条件)でいうと、石油は遅かれ早かれピークアウト(生産量の崩落)するという問題がある。経済成長を続ける中国のエネルギー消費量の急増で、石炭価格はすでに急上昇しつつあります。
この2つが、今後、貿易黒字を縮小させるなど日本経済の負担になってきます。新しい経済の側でどんどんチャンスを失い、しかも日本の電力は石炭だらけですから、その石炭代と、それで増えたCO²を減らしたことにするためのクレジット代でますます電気料金が上がる。原子力はコストパフォーマンスがきわめてお粗末ですから、新しい原子力はできず、稼働率は低く、事故だらけ。それをまた石炭で補う、という極めて暗い未来像になります(pp45−46)。

宮台:田原総一郎さんもよく「反原発脱原発というけれど、代替案を示さないのは、無責任じゃないか!」という。「ちょっと待ってください。代替案は示しています」ということです。すでに代替案は示しているのに、人々は「見えない」と言う。どういうことなのでしょう。
たしかに、僕が見る限り、去年あたりからイタリアのスローライフが日本のテレビ番組で紹介されるようになっていて、たぶんそれは日本の今の経済状況とか、共同体の空洞化などが背後にあって、オンエアされているのだろうとは思います。でも相変わらずスポンサーシップの問題があって、雑誌にしろテレビにしろ、作ることができない内容がいくつもあります。
自然エネルギーによって村が再生した」という番組も作れないし、オランダをはじめとするヨーロッパの都市では自動車が途中までしか使えず、そこから先は自動車か公共交通を使うという仕組みができている、という番組もオンエアできません。
よほど関心をもっていなければ、つまり新聞やテレビからふつうに情報を得ている限り、ヨーロッパの自然エネルギーの盛り上がりについての情報は入らない(pp50−51、一部省略)。