オザワタモツ(33歳)

体格がよく、威圧感のある男がベンチに座り、腰をかがめて、求人表を眺めている。男の身なりは新しい。茶、赤、黒色のチェックのネルシャツ、キャメル色のスラックス、茶色の革靴。

(今日の仕事探しの手ごたえは?)今んところは、仕事ないですね。まあまあ、今33歳なんです。それまでは全く違う仕事をしてて。あの僕自身は畑違いの鮮魚の調理の仕事探してて。この間、ここで一回、面接来たんやけど。まあ、左利きやからね、面接不採用になってもうたんやけどね。それで、まあ、僕は建築業を自営で社長をやってたんやけど。まあまあね、「一生に一度やからやりたいことやってみようかな」って。ほんで、まあまあ、あきらめんと、そういう仕事を探して、ここに来てますね。別に、その不景気やからとか、去年の10月まで社長やってたんやけどな。まあまあ、前から鮮魚の調理業をやりたかって。魚にすごい興味があってね。16歳から建築やってきて、その間にね、「建築だけが仕事かな」って思いだして、ずーとそのまま来てまして。しかし、まあまあ、みんな生活のために仕事やってる人がほとんどなんですけど。そうじゃなくて、自分は自分の人生でもあるし、それで思い切って、廃業して、やってみた。まあ、「戻ろう」思たら、いつでも戻れるし。

(魚の何が魅力ですか?)いや、なんせ魚が好きやからでしょうね。魚をとりあえず、魚に携わる仕事なんで、僕自身も一回、建築で、小さい個人でも何にしても僕は上に立って仕事してきたんですよ。だから魚を下ろすんだけに興味を持たんと、あの、いろいろ携わる仕事ですよね。その中で自分自身がやっぱり、まず覚えとかなあかんことって、魚さばくことですよね。そこから、魚に携わるいろいろな仕事をしていって、将来はいうても、30半ばやから、あれやけど、まあまあ、将来は水産関係ですよね。例えば、卸業とかですよね。そういうなんを立ち上げてみたいなと。なんせ魚が好きなんでね。自分も趣味としてアユ釣りやってるんですわ。それで、結構、トーナメントも出たりして。成績はね、まあまあ、テレビに映るほどでもないんやけど。アユのマーケットってほんまに売られてるけど、養殖ばっかりなんですよね。あんなん見てて、まずくはないけど、おいしくもないと。天然のアユを食べたことあるけど、食べたことない人もいるわけで。そういうなんを自分でお客さんに提供して、「天然アユこんなにおいしいんや」といってもらえたらうれしい。その目標というか想いがすごくあるんでね。

(社長を辞めてまで、魚の仕事に携わることに葛藤はありましたか?男は声をうならせるように太い声で)葛藤はねえ、しましたよ。したけど、そこで立ち止まってても、しゃあないしね。一回思たら、いったんそっちへ向かう僕はタイプやから。そやから、「失敗恐れてたら、何もできひんしね」、そう思て。どんななるかね、まあまあ、やってみんとわからへんし。

(その判断に対するご家族の反応は?)家族には今いった通りのことをいいましたけどね。誰も反対しいひんし、まあまあ、「やりたいことをやってくれ」と。

(就業の条件は何ですか?)やっぱりねえ、僕自身、違う職を探してる状況なんで、そのお金とかもう全くこだわってないですね。最低いうたかって、そらある程度はね、京都やから、時給にしたら700円ナンボ以上とかありますやん。お金がほしいんやったら、調理の世界も職人の世界やからね。そやからや、「右も左もわからへんのに、お金をくれ」っていう立場ではないからね。だから、その辺は全然。こういう求人やらを見てたら、やっぱり社員で平均ね、大体、月20万、18万からって書いてる。別にそれで不満な金額ではないですね。ただ、僕以外にもいろんな人がいるから、経験者の人やったらね「安いな」とか不満はあらはるやろうけど、僕自身はないですね。就業形態にもこだわりはないし、パートとかアルバイトから入っていってもいいですし。休みもこだわりないですね。やっぱりね、飲食業、そういう世界はいうたら、一般の人の逆になるからね、どうしても。やっぱり、一般のサラリーマンの人とか家庭の人は休みが日曜日で、日曜日に買い物とか行くんで。休日がもうけ時っていうか、忙しい時になるから。

(ハローワークの職員に対する評価はいかがですか?)あのね、面接の準備で職員さんにお世話になったんやけど。職員さんがどうこうじゃなくてね。求人を出してる会社とか、この間面接に行った会社もそうなんですけど。僕自身はやっぱり、面接の前に相談員さんが僕の目の前で相手の会社に電話かけてくれはってね。確認したいのが、やっぱり、お客さんに提供する商品もんやし、僕の経験もそんなないしね、「左利きでもよろしいですか」って聞いたんです。そしたら「かまいません」っていうことで、面接に行ったんやけど、不採用の言葉が、理由がね、「左利きやからあかん。右利きしか教えられへん。左利きやろ魚の繊維が傷つく」と。そういうね矛盾、筋通ってないことに、気分悪いな。「左利きの何が悪いねん、差別やん」と思てね。あの、会社の面接の人から電話がかかってきた時には、いわしてもうたんですよ。「事前に僕が左利きであることを聞いてるやから、その時に断ってくれはったらよろしかったのに」と。だから、そういうなんは不満はありますけどね。やっぱり求人表に書いてあることに対して、きっちり筋通して、やってくれ。「働く、仕事探してる人も大半は真剣に仕事探して、来てはるんやから、そういう人に対してきっちりそういうようなことをやってもらいたい」と思いますね。

(将来に対する希望と不安、どちらが強いでしょう?)将来の希望と不安でいうたら、希望が強いですね。っていうのは、そら多少、不安はあるけど、自分にとって、何ていうんですかね。やったことのないことでも、俺はやるんや、そういう信念持ってね。左利きでアカンかったら、左利きなりに工夫すればいいし、その気になれば右で練習すればいいし。逆に燃えますよ。この仕事はやった時に独立性も絶対あるから、職人のそれも世界なんでね。まあ、僕は夢を現実にするように先を描いて、いずれ独立する。そういう想いでやってるから希望がすごいありますね。

(今おっしゃった夢とか想いは経済的な余裕、家族の応援という背景があるからですか?)確かに、それはあります。家庭の支えですね。僕も離婚してましてね。で、まあ、実家に息子といるから。そやからやっぱり、ここまでできるかもしれへんけどね。それがなかったらね、家賃も当然いるし。「それはある」と思います。