アラタフトシ(34歳)

男の身なりは十字架クロスのネックレス、ジーパン、そしてⅤネックシャツ。男は中肉中背の筋肉質で、片手に求人の用紙を持ちながら、職安の周りを行ったり来たりしている。

(今日の仕事探しの手ごたえは?)今日の求人はなんもなかったですね。前職は営業職、業界は食品関係です。失業した理由は会社がなくなった(笑)。2年ぐらい前に倒産した。そのあと、契約社員とかで転々としとったんやけど、正社員やないとどうもブツが悪いから。賞与もなければ待遇も悪いし、この先がないしね、昇給もないし。(男はボイスレコーダーを見て)これ必要なの?(笑)

内心焦ってるのはものすご焦ってるけどね。でもそれを表に出してると受かるもんも受からへんし、家族に迷惑かけるし、平静装ってるかな。蓄えがあるから生活は困ってへんけど、世間みてたら不安だらけやね。この先、まともな仕事があるのかないのか。ほんで、募集している会社は求職者の足元見てるような会社しかないし。具体的には給料とか待遇面やね。職安の求人票に書かれていることはウソっぱちばっかりやしね。

(どういうことですか?)じゃあ、この職安自体のことを取り上げてもらえたら、うれしいけどね。職安の担当者の方もやっぱり親身になってくれる、励ましてくれるものすごい良い方もいれば、あくまで「とっととどこでもええから就職したらいいのに」とかいう方もいる。前に、「前職の待遇がよかったから、今回、見つからへんの違いますか?」とかいわれんねんけどね。「前職、潰れてるのに、潰れる会社が待遇良いわけないやろ」っていってる。で、「こっちは家族もいるし子どももいるから」といっても、「最初の給料が低いの当然ですよ」とか、「何を選り好みしてるの、働けたらいいと思わな」とか、「そこは頑張り次第でしょ」とかいわれてもね。いくら頑張っても、手取り12万が20万になるじゃわけないし。「働けたらいい」っていうても手取り14、15万じゃ、生活ができないですよ。あの人らは17時半で帰らはるからいいけどね。こっちは19時、20時まで働いて、月14、15万やったら一生涯、借家暮らしですよ。そんなんじゃもう、子どもにすらオモチャ買ってやれへんし。家賃払って、小さい車持って、生活費払って、残るものなんて微々たるもんやしね。「一生、負け組みで生きていけ」っていうようなもんやから。こっちはある程度の最低ラインを決めて、探してるんやけど、それが全然ないね。面接行って、給料の話するとまず断られるし、不採用通知が来るね。もうなんか最近は給料のこと聞いたらタブーみたいな感じやね。

契約とか準社員とか上手いこと準社員として、正社員よりも待遇悪く上手いこと扱われるね。「会社からは問題があるから辞めてくれ」とはいわれへんけど、辞めざるを得ないような状況にもってかれますね。その正社員と同じ分量の仕事をこなしてても、そうするとどうしてもこっちもやりがいなくすしね。「なんで同じ仕事やってんのに」って思う。あとは車に至っても、正社員は営業用の車あるけど、こっちは「空いた車、トラックもしくは自分の車で行け」いうことになってくるし。そうなってくると「なんでここまで差別されんのや」となってくるし。必然的にこんなんやったらこの先見えてるから、他に行こうとなってくる。嫁は「正直、家にいてくれるほうがいい。仕事してくれな困るけど、そんな急いで探さんでもいい。別に食べるのにも困ってないし。長い人生やから、妥協してもまた2、3年後にどうせやめなあかんのやったら、今、半年、1年でも職安通いしてでも、ちょっとでもいいとこいったら」と。

なんとかね、労働者というか弱い立場のもんが手を組むことができたらいいけどね。会社に翻弄されっぱなしの人生じゃなくて。それと、市役所の職員とかに振り回されるようなあれじゃなくて。子ども預けるにしてもね、仕事してへんかったら、なかなか預けられへんし。預けたとしても、居心地悪いし。弱いもんの居心地が悪い状態をなんとかしてほしいですね。

なんで休憩時間まで休日日数に入れられなあかんのやろ。この間、正社員で就職したところは、「正社員で来てくれ」っていうことやったんやけど、土壇場で電話かかってきてね、「やっぱりアルバイトにしてくれ、1週間、様子見させてくれ」いうんですわ。ほんで入社するやんね、「なんでそういうことになったんですか?」って聞いたら、「前きた2、3人が仕事役にたたへんから、辞めてもらった。本人が怒って辞めた。だから正社員として取るのは怖いから、安全策としてアルバイトで取らせてもらう」とか。こっちは入社したから、「真面目に1週間で仕事覚えたい」と思って、残業もしたんですわ。「地理も覚えたいし、得意さんのことも覚えたいし、この仕事片づけてから帰ります」と。そしたら「残業代払うんはこっちやのに、勝手に残業するんやったら困る。辞めてくれ。もう、来週からこなくていい」と。会社は社員に仕事を覚えてもらって、早く活躍してもらうのを望んでいるのか。経費をなるべく抑えたいのか。それで「正社員の話はなかったことにしてくれ」と。こっちはずっと、仕事を早く覚えるために、朝から晩までメモとって、地図覚えようとして。休みの日に車でね、その地図通りに走ろうとして、そのための地図をコピーしようと残業しとったのに、「自分の意思で残業するんやったら、帰れ」と。その期間は朝の6時半ぐらいから21時半まで働いて、疲れきっとんですわ。そこでアルバイト期間の最終日に会社からパーッといわれて、「こっちが悪かったんやな」としか思えへんかった。もう眠たいし、疲れてるし、「そうですか、ご迷惑かけました」といって、帰ったんやけど。一晩休んで、次の日考えたら、「なんで辞めさせられなあかんのやろ」と。ほんで労基とか行って、職安にも行って。「なんで真面目に働いるのに、辞めなあかんのやろ」というてたら、そんな話になって。

正直、頭にきますね。労働基準局も職安も訴えに行ったけどね、ダメやね。「そういうとこもあるわ。気にせんとき」で終りやしね。労基署でも結局、「雇い主が誰か、どういう状況でそうなったのか、状況証拠がどうか」とか、まあ、動く気は一切なかったですね。「ご自分で全部調べあげたもんを持ってきてくれはったら、こちらも注意できますけど」という感じ。結局、「みんなそうなる」と思いますよ。ほとんどの人間が求人票でだまされたり、行ってからだまされたりが多いけど。みんな思うんは、そこで会社ともめてるより早く次の職場探さなが先決でしょ。もめてても一銭の得にもならへんしね。それでもめるのにどうせ一週間とかかかるしね。こっちもその会社で面接して、結果待って、もう一度、二次面接行って、結果待って。「いついつから入社してくれ」、「わかりました」その間準備して、入社して、1週間バイトして、「残業するんやったら辞めてくれ」と。それで1か月無駄になったからね。その1か月どうしてくれるの。その1週間分のお金はもらったけどね。そこから「ご自分で訴える準備をしてくれ」といわれても、こっちは1か月無駄にしてるんやから、「もうええわ」なってくるしね。これほとんど愚痴やけどね(男はため息をつく)。

ほんまに、ますます働く意欲がなくなるんやけど、困る人がますます増えていくんと違います?今このひどい長い列が職安前に朝からできてあるけどね。結局みんな、仕方なしに入社して、仕方ないし働いて、仕方なしに辞めていく状況がある。会社も個人を大事にする気はないしね。以前は一つの会社入ったら、「ずっとそこでやっていこう、そこで技術磨こう」と思てたけど、今、この状況やったら多分、もう将来頼れるのは自分だけやから。あかんのやろけど、仕方なしに会社入って、ちょっとでもいい条件の会社に移る。あとは「自分でなんとかするしかない」と思ってるけどね。会社には頼られへんな。倒産した会社も「絶対に潰れへん、絶対、大丈夫や」といってて営業所、ポンってなくなったから。信用はできひんね。「自分でなんとかせな」いうのばっかりがあるけど。とりあえず毎月の安定した収入がない限りは、どうしようもないから。

友人も就職活動しとったけどね。周りも30歳、40歳の人間もいるけど、嫁さん子どもがいて、朝早く、夜遅くまで働かして手取りが15万とかもらっとったらね。一昔前の高校生、大学生の初任給と変わらへんからね。結局、1、2年で「やっぱり無理や」と辞めていきよるから、だんだんだんだん失業者が増えていくんは当たり前やと思うね。それで友達が京都の職安いったら、僕は大阪に行って情報交換。京都には京都にしかない求人があるし、こっちにはこっちにしかない求人があるから。その友人も入社したら話しが違ったと。そいつは僕よりもっと年上なんやけどね。それでも手取り16、17万いうて。「それでどうやって生活していくんやろう」と。今、「最低賃金をどうのこうの」いうてっけどね、もう少し最低のレベルをなんとかしてほしいね。会社側も一般人が生活するのに、大体どれくらいかかるかを大の大人やったら分かってるやろ。過去、今まで人雇ったことない、いうんやったら分かるけど。今まで創業何年ってやってきてんねんやから、「大体、一家3人がいれば、これぐらいの賃金は必要や。これぐらいの賃金やなければ、人はもたん。これぐらいの労働時間じゃないと不満も出てくる」というのがわからへん。これは愚痴になるし、僕の見解やけどね。そんな感じですわ。