マツイユタカ(34歳)

男は白色のポロシャツにチノパンを着用している。髪の毛が短く、頭は少し薄い。街頭で生命保険の勧誘をしているスーツ姿の男がこの男に話しかける。男は手を振って「求人する側ですねん」と答えると、男は「すいません、間違えました」といい、男は男の定位置に戻る。

(今日、ここに来た目的は?)募集してるほうの求人を。業界は高齢者福祉。一時と比べたら、求人の数の増加はあるかもしれんね。ただ、5、6年前と比べて、こんなんいうたら申し訳ないけど、「こられる方のレベルが低い」っていうか。だから、こんなんいうていいかわからへんけど、例えば、その5、6年前やったら面接来られて、「まあまあ、この人はちょっと」いうような方でも、今は「とりあえず採ってみようか。もちろん、どうかわからへんけども。もしかしたら変わるかもしれん」と。5、6年前と比べたら、僕らの採りたい側の求人の選択の幅がなくなってきてるというか。そういうので採ってるところもあるね。

(福祉業界の人材状況は?)そうやねえ、とりあえずこの業界の人材が不足してる、でまあ、メディアでも結構、「きついし、しんどいし、給料安いし」っていうのが前面に出てるなかで、未経験でも、ほんまに志があって来てるのではなくて、ほんまこんなんいうたら悪いねけど、「しんどいやろうけど、行くとこないし」っていうような方も中にはおられる。やっぱ面接に挑む立場、臨む意識っていうかね。社会人の常識として、例えば服装であったりとか、礼儀とかあいさつとか、そういう部分なんですけど。「ほんまにこの人面接来たん、やる気あんの、心意気あるの?」よれよれの服装で来たり、ジーパンで来たりとかね。「こちらがほんま面接する時間がもったいないわ」みたいな。そういう方も昔から全くいいひんってことはなかったけども、そういうのも結構目立つね。きっちりしてはる人も中にはいはるんですけども。

(採用する側としてそういう状況で葛藤はありますか?)ありますよ、そら。どういうんかな、どうしても現場の方が人材不足いうことで、「人そろえなあかん」いうのがまずありますやん。人そろえなあかんけども、現場として「なんでこんな人、採らはったん?」っていう。どうしても面接する立場としてね、もちろんそこの現場の部署の長も一緒に立ちおうて面接してるんやけれども。僕としては、いうたら良質な人材で「この人やったら大丈夫ちゃうか」と。そういう自信をもって、「この人採ったしもういいやろ」、そういうのいえたらいいんですけど。「もしかしたら、あかんかもしれんけど、とりあえず一回使ってみてくれる?」っていってる。人事採用には当たり外れがあるから、現場からの声も出てくる。その間にいる僕の立場に対する現場からのプレッシャーは、みんなある程度、「今うちの業界がそういう状況や」っていうのを理解してくれてるんで、だからそこまでプレッシャーはない。そら、ありますよ、ほんまによっぽどひどい人やったら、「なんでこんな…」いうのはありますけれども。現場の責任者が、まあまあ、何とかうまいことやってくれてるとこですかね。

今、どうなんかな。本当に昔に比べて、みんな働くことについての意識が変わってんのかなっていう感じがするね。いいたいことはいろいろいう。例えば、「時間はこうやないと」とか「残業は嫌です、夜勤とかかないません」みたいにね。いいたいことをいうて、やることはやってもらえへんとこはあるかもしれんね。意識はそやね、「昔に比べたら低い気かな」っていうがするね。昔がもしからしたら、おかしかったんかもしれんとは思いますけどね。昔と今の業務内容はそんなにそんなに変わらない…ま、変わらないことはないかな。介護保険入って、それに付随して本当にいろんな業務が出てきてる。ほんまに現場だけでやれるっていう状況じゃないかもしれない。現場の職員は他の事務作業であったりとか、付随していろんなもんが出てきてるからね。保険法にそって、「こういう書類そろえなあかん」、「ああいう書類そろえなあかん」とかあるんでね。だから、そういう部分では本当に現場に没頭できひん。

昔がおかしかったいうのはね、昔もっと安い給料やったけどね、みんな本当にもっとええ人が来てたからね。安い給料で働いてた時代がおかしかったんかもしれんけど。

(求職者の年齢の幅は変わりましたか?)そらね、求人にきはる人の年齢層は本当に幅広いですよ。昔やったらほんま50代はほぼ採らなかったですね。今はでも、55歳とか、58歳いわれるとあれですけども、55歳ぐらいでも採用してますんで。その分、若い子がやっぱりあんまりこんようになってるのがありますね。大体、今、若い子がこの業界目指すことが…もともとどういうの?専門学校とかありますけども、そういうとこも結構、定員割れとかで、「もう開校できひん。もう来年からは募集しません」とかいうなんがいっぱい出てますんで。だから人材集めるのはしんどい部分がありますね。

(この業界でいい方向に向かってることは何でしょうか?)どうなんやろうな。まあ、国も介護職員の処遇改善とかいうことで、いろんな上乗せっていうか、介護報酬の改定もそれがベースにあって。「ま、こんだけ処遇上げよう」とかね。実際そんな大して上がってないんですけどね。そういうもがあって、「今回も介護職員の処遇改善に対して補助金だしましょう」って、まだきっちりした約束事は出てないですけどね。そういうのに躍起になって、秋には多分きっちりしたものがでるんやと思うんですけど。でも、どうなんやろうな。10年前いうたら、ほんまにフルタイムで頑張って。ねえ、ほんまに手取りは入社して11万とか、そんなんが当たり前の世界やったから。それが、今は11万はないしね。本当に経験もあんまりないような方やったらいろいろ引かれて、手取り14〜15万とか。そういう意味では働く方にとっては、待遇は改善されてると思いますよ。

ほんで、サービス残業が、これはこの業界だけじゃなくて、全ての業界ですけども、サービス残業とかああいうふうに公にね、いっぱい出てきた中で、どこの企業でもそういうの意識もって改善していくように取り組んでるから。そういう意味では働くほうにとっては、環境は改善されていると思いますけどね。

ほんまに志をもってやったら、やりがいのある仕事やと思うんですよ。そんでやっぱ、それなりにやってもらえれば、ある程度の処遇っていうか待遇面でもよくなる。だってそうでしょ、うちの業界、「きつい」とか「汚い」とか「安い」とかいわれてるかもしれんけど、他の業界でも一緒ですやん。まあ、「汚い」はどうかわかりませんけど、きついのは一緒やし。やっぱり、自分の生活のために金もろてんねんから、それだけの仕事はやっぱすべきやし。そういう意味ではどういうんかな、ほんまに志もってきてくれたら、やりがいのある仕事やと思うし、それなりのもんはついてくるとは思いますけどね。ただね、製造業とかそういう単純作業に従事しててクビになった方が、うちらみたいな業界で働くことは難しい面もありますけどね。それとあとは面接に望む態度をちゃんとする。別にいいんですけどね、そういうので来たら、丁重にお断りするだけの話ですんで。

(求人を出す側として職安の職員に対する評価は?)職安の職員に対しては、あんまりなんも思ったことはないね。応募があった時の対応が変な「なんやねん」っていうように思うことはないですね。結構、丁寧に律儀に対応して頂いていると思いますよ。そういう変な意識、感情は持ったことないね。

(世間にいいたいことは?)僕の立場からは全然ないね。僕もいい加減な人間やから、好きなように生きてますんで。だから前向きに生きてたら、何でもうまいこといくと。「後ろ向きに生きんと、何でも前向きに考えて生きてたら、しんどいばかりの人生やない」と思てますから。「しんどいことがある分、楽しいことがある」と思ってますから。だから、別にそういう部分に関してなんの文句もないね。どんな社会でもそうですけども、やっぱり規則があって法律があって、その制度のなかで生きていかんと。それを守りながら、どう生きていくかは自分自身の気の持ちようと違いますか。自分自身の気の持ちようで変わると思いますよ、人生なんて。