カワモトアイ(30代)

僕が女に取材を商店街のアーケードで申し込むと、女は戸惑いながら歩く速度を緩め、最後に立ち止まり、取材に応じてくれた。たくさんの人々が行きかう商店街。行きかう人々の視線が僕らに刺さる。

私の話はすごい特殊ですよ、いいんですか。旦那の両親が経営してる食品の卸売りで2年間、従業員として働いてました。旦那の親はすごい勝手やから、それで「もうお前なんておらんでいい、辞めてくれ」っていわれて、一方的に5月に辞めさせられたんですね。旦那の親との関係は悪くなったけど、旦那との関係は全然大丈夫です。旦那は「一方的やな」とはいってましたけど。会社都合の解雇だから、雇用保険はすぐに出ましたけどね。

(ハローワークで仕事は見つかりました?)自分が働きたい仕事は見つからないですね。「フルで働きたい」と思うこともあるし、「パートで探したほうがいいのかな」って思うこともあるし。でも、そこまでして時給安い時給で働くのも体によくないかなって。体にストレスが出やすいんで。

(雇用の条件は何ですか?)雇用の条件?(笑)、うーん、ストレスの少ない環境で、上司とも職場の人とも仲良く仕事ができたら、それが一番自分の望んでることなんですけど。その次にお給料です。自分が好きな英語を私は話せるので、英語を使える業種でストレスを発散できるかな(笑)。あんまり業種にこだわりはないですね。だから、お金とか雇用形態とか休みのあるなしもあるけれど、自分の力を発揮できる会社で働くことが一番望ましいですね。

(理想と現実のギャップに対する葛藤はありますか?)「このご時世、社会に自分から何かを求めるのが逆におかしいのかな」って。自分から「じゃあ何か起業するなりなんなりしたほうが、自分のためでもあるし、社会のためでもあるんかな。そういうふうに切り替えたほうがいいんかな」って。旦那が働いてるし、家計は大丈夫ですから。そんなに切羽詰まってるわけではないですけど。自分で何かしとかな、今後何があるかわからないので。

私は旦那の両親の元で従業員として働いてましたけど、従業員として見られてなかった。嫁としても見られてないし。家族経営の会社やのに、変に私を他人扱いしたりとかそういうのにはびっくりしましたね。私は間違ってると思ったことに「間違ってる」っていうタイプの人間なんですよね。私が「これは違法ですよ」とか「これはダメなんじゃないですか」とかいうと、別に偉そうにいってるわけでもないし、笑いながら柔らかくいうんですけど、それでも徐々に邪険にされました。でも本人たちは「『辞めてくれ』とはいってない」っていうんですよ。なんか旦那を通して、「本人から辞めるようにもっていくようにしろ」とか、そういう感じで(女は声を上げて自虐的に笑う。自虐的だが楽しそうな笑いである)。すごい変な人たちですよね。普通やったら、離婚してますよね(笑)。でも、主人は別に悪い人間じゃないので。

(世間にいいたいことは?)いいたいことはないかな。私もおかしいかもしれんけど、日本社会がおかしい。政治もおかしけりゃあ、変な事件も起こってる。日本が狂ってきてんのかなって(笑)。将来に対して不安はなくはない…どうやろ(女はしばらく思案して、笑う)。こういう雇用の状況が悪い時代やから。何も守られてない。別にクビ切られないなんていう保障は何もないですし。不安のない安定した生活が送れるような何かを持っておきたい。常に不安がってたり、イライラしてたり、そのストレスとはお別れしたいな。