アヤベジュン(39歳)

職安の敷地の外で取材を続けていると、白いポロシャツにスラックス、クッション性の運動靴を身につける職安の中年男が「ここで取材をされるのは迷惑です。警察呼びますよ」と僕を脅す。職安の敷地内でポルトガル語を話す人たちが僕らのやりとりを見ている。僕は職安から少し離れる。数分後、職安から出てきた猫背の男がナイロン製のボストンバックを左肩にかけて、前を通りすぎる。彼の後姿はバランスの悪い。バックが重いのだろう。僕は男に声をかける。「僕はライターで求職の動向を調べてます。お話を伺えませんか」。男は数秒、僕を眺め、「私でよかったら」と答える。僕は男の髪の毛に目がいく。髪の毛が整髪剤のためか、皮脂のためか、よくてかっているからだ。

(今日、職安に来た目的は?)目的は雇用保険の申請をすることと、あとは何か求人がないか探して。まあ、あれなんですけどね。前職は登録派遣社員をやってて、去年の年末に「派遣切り」とかいろいろありましたよね。あれの流れで私も年末解雇されまして。年明けまでは会社の寮で暮らしてたんですけども。1月から登録制のアルバイトに登録させて頂いて、仕事やってたんですが、この6月から仕事がゼロになってしまって。ほんで、寮を出されたんですわ。今日も雇用保険の申請で、雇用保険証書だけじゃ駄目で、職安の方から「前の職場から申請の書類をもう一枚もらってほしいんです」いわれて。でも、私、住所がなくなってしまってるから、郵便物届く場所が今、ほんまないんで。田舎の住所になると、私の田舎が和歌山県なんで、お金がないからそこまで取りにいけないし、どうしたもんかと。勤めてた会社の電話番号も全部分かるんで、会社に電話して「この書類が欲しいんです」いうて「どこに送りましょう」いわれて、「いや、住所が今ないんで」としかいうしかない(平静を装う僕は男の話しに興奮する。僕は男がボストンバックを肩にかけていた理由を、髪の毛のてかりを理解する。男はまさに典型的な「大物」なのだ。僕は男の次の言葉に期待する)。
早い話、私、ホームレスですね。今日はどうするんか検討もつかないです。職安の方が何かしてくれるわけでもなくね。ま、この雇用保険もかけるだけかけて、結局、「書類ね、そろえなかったら手続きさきに進みません」っていわれて、「何のために雇用保険をかけてたん」っていう話でね。雇用保険ちゃんとかけてるんですよ、2年以上にもさかのぼってね。でも、その申請に何か3か月なんやかかるって。まあ、最後の職場が最後解雇になってるんで、「申請1週間あれば手続きできます」いうてましたけども。まあ、早い話、1週間生きていくのもきつい(笑)、ほんまにっちもさっちもいかんような状態になってしもうてですね。職安におっても、これ以上話が進まないんで、とりあえず駅まで戻ろうかなと。

(前職は?)前は派遣で積水化学行ってたんですけどね。自動車業界が傾いて、その影響あっちもこっちもしわ寄せくるみたいで、最後はまあ…。その前に、日研創業で、ダイハツ自動車へ行ってたんですけども、そこももろにね影響食らって。あの、派遣切りって騒動がなるもう2か月ぐらい前から、ちょっとずつ派遣会社は雇用切ってたんですよね。私らダイハツ赴任してから日が浅かったんで、やっぱり日の浅い人から雇用を切ってたんで。「解雇という形ではなくて、更新ができなくなったんで」みたいな感じで話されて。年末になって騒がれだして、「ああ、やっぱりその流れやったんやなあ」と当時の自分の状況を分かったんですけども。

私、雇用保険の申請が初めてなんですよ。そんなに今まで職を辞めたとしてもすぐに仕事が見つかってね。こういうの申請する必要もなかったんで。再就職した時点で、こういうのが使えないことは知ってましたんで。会社都合ですね、もう年末いっぱいで仕事もなくなって。まあもう完全に解雇ですよね。離職票ちゅうかな、「それを一緒にもらってるはずなんですけど」っていわれて。でも、そういうのは一切もらってないんですよね。最後の給料明細書と雇用保険者証書ってあるじゃないですか。それを返してもらっただけなんです。でまあ、そういうの郵便物、送る宛があったとしてもね、すぐに送るいうたかて日数も空きますしね。もうちょっと早うに手続きやればよかったんですけど。まさか「こんなに傾くとは」思いませんでしたね。最後、その登録アルバイトで1か月にひどい時やったら5日も出勤日数ないようなとこですわね。まあ、それでもね、寮へ住まわして頂けるんで、住むとこなくなるわけにはいかないんで。それでしのいでたんですけどね。

(寮を出たのはいつですか?)退寮が6月1日です。わずか5万ぐらいのお金があったんでね、あちこち求人あたれる会社をあたって。職安通してたら、時間がかかるんで。求人誌で求職活動して。やはり、ねえ、野宿て今までしたことないんでね。そういうの、ようしないんで(僕は次第に迷いだす。この後、僕は一人の人間として男に何かをすべきなのだろうか。今の僕に何ができるのだろう)。ネットカフェとかで、ちょっとずつお金も減っていくし。今、お金ってほとんどないような状態ですので、ご飯も食べてない状態です。逆にもうあんまりおなかも空かないんで、あれなんですけど。精神的にきついんでね、食事どころやないちゅう状態なんで。田舎の兄弟に連絡をしようにもね、連絡つかないんですよね。姉の携帯電話の番号聞いてたんですけど、それも変わってですね。私も、田舎の兄弟にあまり連絡もしなかったんが原因ですけども(男は自嘲的に笑う)。田舎の役場に問い合わせても、個人情報保護法案ってあるじゃないですか。あれの影響で、「兄弟でも個人情報の問題でお教えできません。相手が教えたくないいう場合もありますから。保護法案ってね法律ですから、法律違反になるんで」なんていわれるんですよ。

唯一、友だちには連絡つきますけど。なんぼこう同級生で友だちいうても、「お金貸して」なんて話もなかなかねみっともないから。そんなんをいうてる状況じゃないんですけど、(男は小声で)いえませんしね。誰も彼も困ってるでしょうからね。で、今日も面接の結果あったんですけど、結局「3日待ってください」いわれたとこを、「何とか1日で」というたんです。「急かしたぶん、あかなんだ」と思うんですわ、駄目でしたね。もう待ってる余裕がないんで、本当にね。「待つ」って今でも私には待つ場所がないんで。「住むとこもなくなりゃあ、誰でも不安になる」と思うんですよ、ねえ。

(いつの間にか僕はネタ欲しさの装いをやめている)このまま何も決まらなかったら、ほんまにそれこそ…ホームレスですわね。「公園やなんやかやで寝泊りしてる人らと同じようにね、この年齢でなっていってしまうんやろうか」と。長浜市にあった派遣会社の面接で、面接担当の人間が、「来てもうたら、すぐに面接して、決まり次第、すぐにでも入寮して頂いて、仕事もすぐにもできますし」というてたんで。派遣で職場が3か所ぐらいあったんですよね。(男は急に早口で)最近では派遣でも日払いとか週払いとかありますから、とりあえず1日でも働いて出勤できたら、私もね、わずかな金ですけど、そっからね、立て直していくこともできたんで。最後、なけなしのお金で長浜市まで東近江市から電車で来たんですけどね。

(ご両親は?)両親はもう亡くなって、いないんですわ。さっきいった役所の対応もあるって、もう、お手上げ状態ですよね。友だちとかにもうちの家族、兄弟が「どこに住んで引っ越したとかわからへんかな」とか聞いても、わかるわけないですよね。田舎いうてもそんなに狭いわけありませんし。ご存知じゃないですかね。肉親が見つからない場合、どこへ問い合わせたらいいんですかね。警察行ってもね、多分「同じようなにいわれる」と思うんですよ。個人情報でどうのいうて。そういう公共施設に関わらず、誰も答えてもくれやんし。

今年の年明けの頃は都心では派遣村ができて、人が求職中の人を助け合いしてたりとかね、話を聞いてですね。失業してですね、実際に今もう困ってるんで、「救済処置みたいな何かないんですかね」って長浜市の職安の方に聞いてもですね、全くありませんしね。私も登録アルバイトで何とか食いつないできたんで、ズレたですけど時期は。多分、ただテレビやみんなが騒がんようになっただけで、この数日間、求職してみた感じでは、「もっと状況はヒドなってる」と思うんですよね。求職募集を出してる会社でも、面接で人、集めるだけ集めて、たった数名であるにも関わらずですね、人が殺到するらしいんですわ。以前と比べて、なんてことない仕事なんですけどね。そんな中からやはり、もっといい人材、例えば、免許ない人間よりもある人間とかね、いろいろくるじゃないですか。もう選り取り見取りなんで。もう普通の経歴じゃとてもじゃないけど、雇うてくれるような状況じゃないんです。ほんまに、ねえ、履歴書代と交通費だけで、お金がどんどん飛んでいって。宿泊もせないかんですし、あんなん野宿なんてやったこともないんでね。所持金は今、もう200円ですね。

(「え!?」僕は素っ頓狂な声を上げる。住む場所がない、両親は死んでいる、親類と連絡が取れない、職がない、所持金が200円の男。僕は男から生じうるトラブルから逃げたい。だから僕は適当な理由で取材を中断したいと思う一方で、もっとこの人から話も聞きたいという欲望の中にいる。僕は自分の態度を決めかねている)それまでは南草津駅まで面接行ったりしてたんですよ。南草津駅からここまでの運賃950円で結構高いですよね。もう、寮出て、南草津駅のネットカフェで寝泊りしながら、1週間以上たちますから。やはり「外で野宿でもしとけばよかったんかな」と思いますけど。まだ恥とか気にするほうなんで、あまりにも落ちぶれたくもないんでね。公園で寝ててね、何か知らん人に見られたらそれこそもう…まあまあ、そうなんです、実際ほんとにホームレスなんですけど。私みたいな状態で生活保護って受けれるんですかね。

私なんか、まだ生易しいもんかもしれませんよ。でも、外国人労働者の方にいっちゃ悪いんですけど、「今は外国人よりも日本人を助けてくれよ」と思えてくるんですよね。外国の方もね、大変な思いして、こっち来てるから、「そうじゃないんだ」いうのはわかるんですけどね。自分も「ここまでひどくなるとは」思いませんでしたしね。体は五体満足ですよ、どこも悪くない。仕事先さえ見つかればね。今はほんまに雇うてくれるんやったら、時給100円でもいいですよ(男は自嘲的に笑う)。「現金つかもう」思たら、それしかないんでね。犯罪とかは全く頭によぎりませんけどね。田舎の友だちは冗談でね、「何か悪いことして捕まったら、刑務所でご飯食べさしてくれるよ」いうけど(笑)、「そんな無茶苦茶なことするぐらいやったら、飲まず食わずでホームレスしてるほうがまだましやわ」いうて、笑い話にしてたんですけどね。

(僕らは職安から駅前のうどん屋に向かう。男はカレーうどん定食を、僕はうどん定食を食べる。僕は男の存在に再び興奮を覚える。男の話の引き出しをもっと開けたい、もっともっと。僕は正義を装う自分の言動に気が付き、そして驚く。実は僕は不幸が大好きで、この人たちを飯のタネにしている。僕は「こんなあほな状況はないですよ。僕の名刺に支援団体の電話と名前書きます。それからお金を渡します。就職できたら、お金はいつでもいいので返してください」と男にいう。僕が男の命運を握っている。それを知ってか知らずか、男は僕の後を遠慮しながら歩き、うなだれ、平身低頭である。40になろうとしている男がだ)

(貯金はしていたのですか?)貯蓄は20万あるかないかぐらいやったですね。それでですね、今年の1月から登録アルバイト行きだしたんですけど、そのさっきいうたように、月5日とか最悪そんなんしかない日があるんですよね。5日働いても生活費が足らないんですよね。食費も全然足らない。そこから、自分の貯金崩しながら生活してたんですけどね。ほんで、先月は珍しく16日ほど出勤させてもらったんですけど。20日になって、ちゃんと働いた分のお金が振り込まれるか不安ですよね。もしそれが振り込まれなんだったら、どういえばいいのかもね。そういう状況にもなったこともないんで。労働基準局にでも行けばいいんかもしれないんですけど、どこにあるかも分かりませんし。その…私、20日になるまで生きていられるか分からんような状態ですし。

その登録制のアルバイトも、最初電話したらですね、面接もなしに「来たら仕事あるから、来たら仕事あるから」こんな話なんですね。「果たして、行っていいもんやろか」と。前の会社もね、解雇されてますんで、「いついつまで」って会社の寮を出る日数は待ってくれますけど。ずっと寮におるわけにもいきませんしね。かといって、次の仕事が見つかるかどうかもわかりません。ほんじゃあ「履歴書持参して、行きます」いうて。その時はですね、インターネットで探したんですよね。そこは派遣社員の求人で載ってたんですよ。だけど、実際行ってみたら、登録制のアルバイト。「私は普通の派遣社員社会保険もある形で雇うてくれるんだ」と思って、そこに行ったんですけどね。ほいで、最初にいわれたのが、「仕事はないことはないんですけど、毎日はないんです」そんな話をされるんです。最初に私そんなの知ってたら、行ってないですよね。カバン一つでね、移動している人だったら、「そんならやめとくわ」いうて移動もできるんかもしれませんが、私の場合、荷物があったんで。それを便利屋さんにお願いして、移動してもうたんで。「じゃあ、やめときます」っていうわけにもいかないんでね。で、まあ、寮つき登録アルバイトで。寮費は4万5千円引かれるんですけども。共同寮ですよ、トイレもお風呂も共同。私、最初、共同寮って聞いたんで、「もっと安い寮費」と思たんですよね。「電気、水道、共同のキッチンのガスは使い放題や」といわれてても、そんなに使うもんと違うしね。実際、フタ開けてみると、仕事がなさすぎて、待機が多いんですよね。それで、私がおった地域に数十名いてるんですけども、一人の人ばかりずっと仕事に行かすわけにはいかないんですね。「あの人も仕事いかさなんだら、食費がなくなる」とかそんな状況ですよね。私ら寮費払える分の仕事の日数、目標達成出してもらったら、仕事がそのあと急に減るんです。日払いみたいな生活、一日の支給額の半分を払ってもらえるんですけど、貯蓄どころじゃないですね。ほんまに何とかこう、自分のお金をちょっとずつでもこう…使わないとどうしようもなかったですね。私、ギャンブルとか本当にそういう関係の無駄遣い一切しなかったんですけども、それでも自分の貯金は減っていきましたね。

(その時は何を考えました?)今までそういう世界を見たことがなかったんで、「これはすごい底辺まで落ちてきてしもうたんかもしれないなあ」と最初すごい不安になりましたよね。でも、気持ち切り替えて、一度、住むとこ住まわせてもらってですね。「他の人はどんな生活してんのかな」と思ってたんですけどね。1か月に一回しか出勤してない人もおったらしいんですよね。1日しか出勤してないんやったら、寮費はどうなったんのですかねえ。共同の冷蔵庫で勝手に他人のもんを食べたりする人もおったらしいんですよ。私、共同のキッチンは一切使わなかったんで、そこにモノも入れなかったから、何てことなかったんですけど。

5月27日ぐらいに「仕事がないです。6月1日までに寮を出てください。本当は次の日に出てほしい」いわれたんです。「カバン一つで来てるんじゃないんで、そんな無茶苦茶いわれてもですね」って何とかこうお願いして。まさかその頃は、「姉に連絡がつかない」と思ってもみなかったんで。私の場合、寮を出るのに待ってくれたほうかもしれないんですけど、それでも1週間。実際にああいうのって、何日待ってもらえるもんなんか、よくわからないんでね。雇用側が「次の日寮から出てください」いわれたら、その通りしなあかんのですかね。6月1日は月曜日だったんで。その1週間、次の職が見つけるために、パチンコ屋さんに面接に行って、感触もよかって、「間違いなく決まるやろ」って思ってたんですけどね。その時はそれなりのお金も持ってましたんで、その便利屋さんに「こういうお願い今までないかもしれないですけど、何とか荷物預かってもらえないですか。いくらでよろしいですか」って聞いて、「5千円もらいます」って。最初に5千円ちゃんと支払って、荷物預かってもろて、パチンコ屋さんの結果待ちでだったんですけどね、そこがダメになってですね。でもまあ、お金も全然なかったわけじゃないんで、とりあえず就職活動を始めないとダメなんで、始めたわけなんです。ほんで、近江八幡市行ったり、守山市行ったり。パチンコ屋さんの仕事経験があったんで、結構その募集も出てましたんで、そっち関係をよくあたってみたりね。今のパチンコ業って結構若い子とるみたいで、「経験がどうのこうよりも年齢的にどうなんやろうな」とか思いながら。面接だけは受けて頂けるんですよね。ほんで、カバンにも入ってますけども、なけなしの金でですね、ワイシャツとスラックス買ったんです。ネクタイは100均で買って。面接なんて第一印象が大事でしょうし。まさか自分がこんな境遇になると分かってたら、買うこともなかったんですけど。ほんで、「明日中には連絡しますね」っていった割には、2日たっても連絡なかったりとかね。多分、そんだけ間あいたらうすうす「ダメなんかなあ」って分かるじゃないですか。それでも、電話したら「今、忙しいから後でかけてください」とかいうて。こっちは結果知りたいだけなんです。

まあね、「もっと現実的になれ」っていわれたらそれまでなんですけども、わずかな希望を抱いてですね、もしかしたら採用受かってるかもしれないし。でまあ、パチンコ屋さんもある程度回ってですね、残りの所持金も減ってきたですし。他の会社ももっとあたってたら、いける会社もあったんかもしれないんですけど。駅前に行けば、フリーペーパーあるじゃないですか。あれで募集を見たら、「仕事ないない」いってた割には、結構載ってるんですよね。電話かけたら、どこもかしこも「いついつ面接しますか」いう話になって、「明日はあれなんで、明後日でも」っていろいろあって、数件、連絡してですね。なかには「求人載せてたんですけど、いっぱいになって」断られたとこも多々あります。面接受けてみても、ほっといても人がくるみたいで、とりあえず人呼ぶだけ呼んで、良さそうな人だけ残して、ふるいにかけてるようにしか見えなかったですね。今日も一件電話したんですけどね、面接の応募がものすごいらしいんですよね。殺到してて、「面接、来週の火曜日なんですけど、いいですか」、「その日になったら私行けないと思うんで、すいませんがやめときます」っていうたんです。来週ですよね、1週間先じゃないですか。「1週間先まで人が殺到してるって、それはすごいな」って思いながら。20数件は当たってるでしょうかね、そのうちの1、2件にかけ持ちで、時間をなんとかずらしてもらって、面接行ってるんです。面接行ったら、「すいません、もういっぱいなんですけど」、「お約束入れてもうてるはずですけど、昨日、面接の約束したアヤベですけど」といってもですね、「担当のモンが今いないんで。それにもう採用人数が決まったんですよね」といわれたり、無茶苦茶や。「ここまでの電車賃払ってくれよ、面接する約束もままならんと、私こんなとこまで来たんですか」って思いましたね。その時は南草津駅から守山駅だったんで、そんなに距離はなかったんですけども。それでもね、今思ったら「わずかな小銭でも返してくださいよ」という気分ですよ。長浜市に来た時の面接の電車賃も本当、返してほしいぐらいです。電車で移動して、こんなカバン持ってウロウロできないんで、やはりコインロッカーに預けるじゃないですか。頻繁に預けたり、出したりするのが、バカにならないんですよね。一回預けて、300円なんですよね。朝にカバン預けてね、日が回るまでに出せれば、一番いいんでしょうけど。そうそううまいこといきませんし。

今回、求職活動であっちこっち多少、飛び回ってみてですね、何するんでも便利悪いですよね。公共って名前のつくもので使えたものってほとんどないですね。何かこう待ってる間でも、「利用しようかな」と思ったんですけども。草津駅に図書館があるっていうんで、行ったら、改装中で、「11日までは使えません」とか書いてあって。私らそういうとこぐらいしか思い浮かばないんですよね。時間もてあまして、ウロウロしてたら不審者に思われるしね。かといってウロウロしてても体力使うのもあれですし、「何か待つ場所でもあれば助かるなあ」思って。駅前周辺を教えてくれる案内所があったり、なかったりですね。例えば、面接で面接地に来て、電話で面接場所は聞いてますけど、もう一度、念のため案内書の地図で確認できたらなと。交番で聞けばいいんでしょうけど、「巡回中」とか変な張り紙だけして。交番って大体、おまわりさんがいないんですよね。守山駅は逆にですね、案内センターが駅からすぐ出て目につく場所にあって。他の駅にもあるのかもしれないんですけど、わからないですよね。まあ、どこの面接にしても迷わずに行けたんで、よかったんですけどね。でまあ、交通手段がないと、本当に便利悪いんですよね。電車がなんぼ通っても、乗れば、金がいるもんなんで。今回、寮出てから1週間以上たってるんですけどね、日に日に所持金が減っていくんが、目に見えてわかるんですよね。「早く何とかしなあかん、早く何とかしなあかん」ってもがくんですけどね。こういう時、何かにつけて裏目に出てですね。でも、そんなこといってたらね、あれなんで。

僕らは草津駅で下車する。僕は菓子パン、『反貧困』という本、そして1万円札を男に渡す。「この金を使ってください。これはパンで、この本に支援団体の連絡先が書いてます。何かあったらここに連絡してください」。男は「私のようなもんに…」とうめく声で、頭を下げる。僕は少し恥ずかしい。男は頭を上げ、「私のしょうむない電話番号ですけど、教えましょうか」と僕に問う。今の男にできるお礼だろう。切ない。車掌アナウンスがホームに響き、電車が近づく。僕は男の申し出を聞き取れなかったようにして、男に手を差し出す。「僕にできることはここまでです。頑張ってください。どうにもならなかったら、僕の携帯に電話してください」男は頭を垂れながら、僕と握手を交わす。電車のドアが男と僕の間を遮る。
翌日、僕の携帯の画面は留守電を表示していた。「ええ、留守電で申し訳ないのですが、昨日、助けていただいたアヤベと申します。ありがとうございました。無事に田舎のほうへ着くことができまして、頂いた本を読んで、これからこっちで何とか生活を立て直していくよう頑張ります」。