ホシユキ(39歳)

華奢なフレームのめがね、スニーカー、ブルージーンズ、Tシャツ、そして新しいトートバックという格好の女が小さな女の子の手を握り、職安から出てくる。女は公園の自動販売機で飲料水を購入し、女の子に手渡す。求人表を眺める男たちが集まるこの公園で、彼女たちの姿は目を引く。

(今日、ハローワークに来た目的は?)私は職業訓練の抽選にきました。経理職業訓練です。抽選の結果は出たんですけれども、この子を保育所に入れるので、その結果を役場に出さないといけないんですよ。それをお役所仕事ということでうまく書いてもらえないので。その相談をしてるんです。

(前職は何を?)私、今回の職業訓練の内容と全く違う仕事をしてたんですけど、子どもがいるので、残業とか全然できないんですよ。その職種は残業がすごいあるので、全然違う職種で残業のないような仕事に変えようかなって。

(なぜ、ご主人も子どももいるのに職業訓練校に?)主人はいますけど、職業訓練校に行くのは、今はそんなん関係ない。私もずっと働いてきて、主人の転勤でこっちに来て、私も向こうの仕事を辞めてきたので、やっぱり仕事は続けたい気持ちはあります。前職はコンピューターのプログラマーをやってました。SEの職とかパソコンで探したらありますけど、必ず残業がついてまとうんですよ。子どもが生まれる前からそこに行ってたので、短い時間で雇ってもらえたんですけど、こっちはなかなかツテがないので。「やっぱり残業ができない」っていうのと、あと逆に足元を見られて、「子どもがいるから残業できない、それでもいいですよ。その代わり時給をすごく下げますよ」と。私が経験した中でそういう募集があるんです。で、扶養内で働きましょう、そうすると会社は一切、雇用保険以外出さない。健康保険とか社会保険とか入れなくていいじゃないですか。すごい時給さげて、一週間ですごい短い時間しか働けないと。もう、やむをえずですね。この先、ずっとこの業界でやっていくのはつらいものがあるので、もう全く違うところに入って。

(業界を変えることに葛藤ありましたか?)業界を変えると、今までの知識・経験を生かしにくくなりますから、その辺の葛藤はありますね。「やっぱり前の仕事をしたい」っていうのはすごいありますし。「この年で」っていったら悪いんですけど、新しいことをやって、例えば私と若い人のスキルが同じであれば、「どっちを採るか」ってなると、「やっぱり長いこと職場にいてもらいたいから、若い人を採る」っていうのがあるんです。もう、やむにやまれずですね。

(職業人としての私と母親としての私の間にある葛藤は?)葛藤は常にありましたけど、私も仕事がすごい好きなので。「じゃあ長い間仕事辞めて、一緒に子どもといたらいいのか?」っていうと、私はすごいストレスもたまるだろうし。そしたらやっぱり子ども離れてても、近々で接する時は「温かく愛情を持って」っていうので。それは働いている女性はみんなそれで割り切るしかないんですね。だから、「一緒にいれなくてかわいそうやね」っていう考えの人とは、(女は早口になる)折り合えない、それはもともと感覚が違うので。こっちに引っ越して、私の仕事が続けられない時に、この先、私が違う職場で認められるかどうかは置いておいて、「違う仕事をしてまでも、仕事したいのか」っていう葛藤は今でもありますけどね。前の仕事をしてた夢とか、前の職場の人の本当に働いてる具体的な姿みたいなものが夢に出てくるんで、「やっぱり前の仕事が好きなんだな」っていうのがありますけど、なかなかうまく、(連れてきた女の子もを見て)この子がいると、こう、葛藤で。「残業なし」っていう求人がないので。

(就職に対する希望と不安は、どちらが強いでしょうか?)やっぱり不安は不安ですね。引っ越してきてから、ハローワークにすごい来てるし、インターネットで検索したり、派遣会社に何件か行ったんですけど、「やっぱり厳しいなあ」って。「労働市場が一番厳しい時に、ここに来たんじゃないか」っていう気持ちはあります。もうちょっと待って、職業訓練校でのこの経理を生かしつつ、前の仕事もなんか、こう、プログラマーっていっても、そればっかりじゃないので。パソコンのスキルはあるから、それをうまいことアピールして、「自分のしたいことができたらな」っていうのはあります。ちょっと私、関東にいたんで、時給も全然違う。やっぱり私も年齢もあるので、ここで検索してても、時給が最低ラインのちょっと上みたいなところに、ガーっと人が殺到するんですよ。私も何件が応募したんですけど、やっぱり全然事務の経験がないので、事務職になるとなかなか厳しい。仕事を選ばない、例えば製造とかいったら、ま、力もいるんですけど、人が欲しい会社だと、「募集してますよ」っていわれるんですけど、やっぱり自分の中でそれをやると「何のために働いてるの、お金のためだけなの」みたいな感じで。「製造もすごい大変だ」と思うんですけど。そういう自分の満足いく、いい条件で求人はないように感じてます。

(就職条件は?)必ず土日に休みたいですね。仕事の開始は9時から17時、18時ぐらいで残業がない。「時給は低くてもいい」っていう感じで。最初は「時給2000円ぐらい」って思ってたんですけど、そういうふうにいってたらもう絶対にないので。1000円ぐらいもらえたら万々歳。もう800円ぐらいになってたりする求人もありますね。

(離職後、家族関係に変化はありましたか?)仕事を辞めて、こっちに来てから家族関係が変わったとかはないですね。主人は「今はこういう時代やから、やりたくないことはやらんほうがいいよ」とか、私が「こういうのあるんやけど」いうと、「ほんまにしたい仕事なの?今までやってなかった仕事で、『とりあえず働く』みたいなことをしないほうがいいんじゃない」みたいな。

(世間にいいたいことは?)いいたいこといっぱいあります。自分のすごい狭い範囲のことでいうと、子どもを持つお母さんにも枠を広げて、仕事しやすい環境にしようと。広い範囲でいうと、企業がワークシェアリングをなかなか受け入れられないんですよね。それをやってほしい。でも、ワークシェアリングができない理由はすごいわかるので、ワークシェアリングってなかなかいいづらいですね。私、バブルの頃に学生だったんで、売り手の時の企業の姿勢と買い手のそれが全然違うんですよ。「いつか売り手市場の時に私らの痛みが返ってくるぞ」って思いますね。強い力を持ってるのは雇用される側よりも雇用する側やし、そういうことを頭に入れて、どんな大きい会社でもどんな小さい会社でも人を人としてみてほしいですね。