サトウキュウジ(39歳)

僕がベンチに腰かけていると、突然、180センチぐらいの痩せた男が話かけてくる。男はスラックス、シャツ・ネクタイ、革靴を着こなす。コーヒー缶を片手に持ち、タバコをまさぐる。男は営業マンか近くのホテルの従業員だろうか。男は休憩のために公園へ来ているのだろうか。

暑いなあ、(男は近くにある自動販売機を指して)飲むか?(男は僕の存在にかまわず話しだす)ここ来て、2年になるわ。37の時から。目的はもう毎日、職安通いで、ほんで、面接行っても全然決まらへん。20件ほど面接行ったけど、100件行こうが200件行こうが、「ほら絶対決まらへん」と思う。なんでかいうと、1人の採用人数を、20人、50人、60人行ったら若い子とるさかいに、絶対に。

で、僕、生活保護もらってるんやけどね。普通に就職活動やってたら決らへんということで。どういうたらええの、障者年金?ももらいだしてん。全然、どこもおかしいとこないのやけども。ただ金ほしさに、そうせな生活できひんさかいに。障害者でつえ持ってる人、耳の聞こえへん人、ああいう人は一級で仕事はぎょうさんあんねん、なんでか知らんけど。産業廃棄物の仕分け作業で、20日で締め切って、月末払いでな、給料14万もあってん。「俺この仕事行くわ」いうてん。でも職員は「いや、これはねえ、耳の悪い人とか目の悪い人しか行けへん」いいよんねん。「仕分けだけで給料14万あったらええなあ、やっぱり1級やな」と思たわ。僕もそんなん6万だけじゃたらへんさかいに、「1級にしてくれ」いうてんけどね。「それしたら運転免許証返してもらう」、「そんなんあかんわ、2級でええわ。もらえるだけましやし」いうて。ほんまは嫌なんやで、これ。プライバシーあるし、プライドあんもん。仕事決らへん、貯金もね、底をついてきた。そんなん、かなんさかいに、生きるための手段として「もらうもんもろとこか」って。皆いうとんねん、「お前ええなあ、年金もうて、前までそんなん違うたやんけ。1日1000円でやってたやんけ。嫁はんがおってええのお」いうて。向こうのケースワーカー児童相談所のやつと知り合いやったからよかってん。

僕、中学の時、1とか2とかで成績悪かったんや。それもあったから障害者手帳取れたん、2か月に1回の支給で6600円やな。簡単なテストやって、10回名前書くとか、全部間違えたら具合悪いし、3回ぐらいはちゃんと書くんやで。それで、面接して、「ああ、うう…」とか適当にいうてな。運がよかったわ、知り合いじゃなかったら、あかんかった。「頭おかしいねんけど」いうて、行ったら、知らん顔されて、はじき飛ばされる。

ここ職安の4階の障害者の担当の女がものすご、頼りなかって。もう障害者になってからね、どういうたらええんかな。下で求人を4階に上げて、そやったら、よその会社が嫌がらはるんですわ、「障害者」って聞いただけで。「ほんまにこんなんにできるんか?」いうて。「僕はなあ」いうて、よう喧嘩してるんですわ。「今まで普通にやってきてん、ただ金ほしさにそういうことをな、やってもうただけであって」っていうたんですわ、「はあ、そやねえ」担当の女はいうて。普通にね、障害者として紹介してもらうやんか、求人が来よらへんねん。「こんなんしたら、普通に紹介してもらわれへんのと違うの?」いうて、「そうです」いうて女の職員いいよったさかいね。

僕、西陣で知ってる職員に仕事紹介を頼んだん。担当がその男の人に変わってから、応対が全然ちゃいますよ。ものすご親切でねえ。もう僕ここにおったら、ちゃんと下まで降りてきてくれはって、「会社に電話しましたし」ってちゃんというてくれはる。その人は40回り下やねけどね。ものすごちゃんと丁寧にしてくれはるさかいにね。その女の担当は話にまったくならへん。そいつは伏見の職安の2階の失業保険の全然役に立たへんとこ、行きましたわ。僕ね、腹立ったんはね、3月1日にね、日産自動車、車の洗車・納車、正社員で給料15万で、そこから社会保険、厚生年金引かれて、20日で締め月末払いで、基本給13万の求人があったんですわ。それで、その女が「月曜日に電話します」って僕にいいよったんですわ。ほんで僕、月曜日に来て。そしたら、そいつおどおどしとるんですわ。「お前、今日、何で俺ここに来たかわかるけ?」いうたら、そいつ考えよんねん。ほんで4階で、電話すんのか、してへんのか知らんけども。そいつ「仕事なくなりました」いいよんねん。僕、「お前なめとんのか」いうて、それらボロクソ怒るようになってね、信用できひんさかいに、「担当の人変えてくれ、変えてくれ」いうてね。いうてる間に、5月20日ぐらいになって、「もう、あれ転勤になるさかい」聞いて、「ラッキー」思て、ほんでボロクソにいうて。「ほんなんあかんでえ」いうのもあかんさいね。「公務員によって、対応にえらい違があんねんな」と思て。

僕らの年齢の人、39とか40代の人「全然仕事あらへん」って、毎日ここ来てはりますわ。前、僕は名古屋で派遣行ってたんですわ。ほんでそこで派遣切りになる前に、ホンダ行ってたんやけど、もう帰ってきたんですわ、もう2回辞めてんねけどね。「最後、もう決まらへんかったら、もっぺん、鈴鹿で世話してもらう」思てるねんけど。

(どれぐらい求人に応募しましたか?)2年求職してて、100件以上応募しに行きましたね。でも、あんまりにもね「どうでした?、どうでした?」って聞かれるから、「そんなもん不採用に決まっとるやんけ。そんなん決まるわけないやろ」っていうて。もうずっとその繰り返し。政治家が悪いのやね、これね、小泉政権のあれでね。

毎日、仕事する振りして、こういう格好して、毎日ここに来てるんですけど。近所のモンに格好悪いしね、マンションやからね。「あの人、何してはんのやろ」思てね。変な目で見よるさかいね、朝9時から職安通いでね、西陣行って、烏丸御池行って、最後はここに来る。毎日、その繰り返しですわ。たまにこれ、月に1回ほど仕事見に来た近所のおばはんに1回会ってん。「ああ、かなんなあ、こいつよそでいいよるなあ」思て。土曜日も烏丸御池とここやってますけども、僕は家でヘタってますわ。これはもう、こんだけ人間があふれてたら、決らへんのやろ。どこの職安に行っても、滋賀県行こうが、何しようが。求人も同じ求人ばっかりで。介護の仕事とか僕ら経験あらへん土木のね裁断の溶接とか、そんなんばっかりですわ。

ある日、1号線沿いの久御山の王将の派遣が決まって、作業服きて、行って。「えらいすんなり僕の連れと雇てくれはんな」思てん。1日だけ一緒に働きにいってん。ほんならな、全員中国人や、王将。中国人はそんでかまへんかもしれんけどな、俺ら日本人や。ものすごこき使いよるねん、あいつら日本人を目の敵にしてんねん、中国のあれでな。「こらあかんわ」思て、ものすごハードやさかいね。日本人僕ら2人だけ「1日ももたんわ」いうて、2時間で僕らトンズラしたもん。「あの派遣はひどいな」思たもん。派遣切りで、派遣の募集って全然雑誌に載ってへんやんか、「あれはえぐい」思た。職員の人もいうてはるしね、「派遣は行ったらダメですよ。知ってるよ、ピンはねしよるし」て。僕もね、基本給ね、どういうたらいいんか、「20万とか25万とかはっきり無理や」と思てるもん。月12〜13万あったらええ、社会保険とか年金引かれて、毎月20日で締め切って、月末払いで。僕。能力低いさかいね。「そんでええわ」思て。高飛車になってもね。ところが、もう4階の求人は、ほんまもう人おちょくっとんねん。月末で締め切って、2か月遅れ支払い。そんなんばっかやもん。そんでみんな行きよらへん、「もうずっとその求人、載っとるやんけ、そんなもん誰が行く」いうて。

そんで、面接行くんはええねんけども、もう僕、最初に聞いてもらうんですわ。前はそれ聞いてへんかってん。「募集は男性も女性も平等でいけんのか、俺、39歳でもいけんのか」いうて、「大丈夫やでえ」答えよる。ほんで行くんやけども、行ったら何や難しそうな仕事でね、「募集は女性だけ」とかそんなんばっかりなんですわ。嫌、嫌になってもう。で、仕事みたら、変なやつおるやん、意地悪そうなおばはんね、弱いもんに対して、わーわーいいよんねん。「あ、これあかんな」思て、自分でそこは断ったです。かなんもん、バーっといわれたら。あとは和菓子の製造、出荷とかね。そこに面接行って、社長みたいなんが「あのお、これ実は女性だけなんです」いうて。「お前それやったら、最初にいうとかんけ」いうてね、和菓子1個ね、もらって、帰ってきたことがあるんです。

毎日、家から出る時にね、「ほんまもう、毎日こんなんしたない」思てんねんけど、しゃあないさかいにね、家おったらうつとか病気になったりするさかいに。こういうとこ来て、知り合いとかも仰山おるから、「情報やなんか仕事あらへん?」とか話してんねんけどね、ため息ばかりですわ。月にいうたら、10万ぐらいの収入になんねんけどね、障害者年金と生活保護で。でも、そんなんあってないような金やさかいね、すぐなくなるさかいに。

どこの職安の職員も楽し過ぎてんのかな。毎日来てたらね、ここの職員が「また毎日来てるわ」みたいな感じでね、変な目で見よるんですわ。新聞のチラシとか見て、面接に行ってもダメですね、あれねえ。書いてあることと全然違うんですね。「給料20万」って書いてあるのが、最初の3か月は10万円とかねえ、そんなんいいよるさかいね。八条の油(あぶらの)小路(こうじ)に、ジャスコみたいなところフード関係とか入るらしいけど、「なんか倒産するでえ」という話、新聞に載ってますやん。ほんで、4階の障害者のところで「25人募集する」いうとんのですけど、それも決まるか決らへんかわからへんしね。1000人ぐらい募集に来よったらね、そんなん宝くじみたいなもんやしね。九条通りの京都テルサあるやろ。そこであの、障害者だけの就職の説明に行ってんけど、年に2回あんねんけどね。2回ともダメでしたわ、障害者1000人来とんねん。耳の悪い奴らとか僕ら普通みたいなやつが来とんねんけどね。あれは受からへんわ、採用人数1人か2人。「ほらあかん」思たもん。それやったらもう、この下の職安で通して、ほんで4階で申請してもらう、「そのほうが早い」思たもん。

僕、1年半ほどは水商売の仕事しとって。でもう、人相が悪いさかいに(男は小顔で面長、小さな垂れ目、そして唇が厚い)、「仕事が多分決らへんのやろう」と思うのやけどね。面接の人ね見てはるところは見てはるさかいね。そやから髪の毛とかねえ、「おろしてちゃんとしなあかん」と思ってるけどねえ(男は短い黒髪を軽く立てている)。僕が水商売飛んだ時にね、飯食えへんかって。で、親もおるけど、頼れへん。ほんで、20日ほど飯食うてへんかって、細ほそなってね、顔こんななってね、ベルトがウエスト70もあらへん状態で、53ぐらいでなってしもうてね。ほんでフラフラで職安に来ても、どういうたらええの、電話が解約状態で、「ほんなら紹介できひん」と職員にいわれたんやね。僕、「電話はほんなら、ここでやってくれ」というたんやけど、職員が「いや、それは規則でできひん」はっきりいうたし。「これでは面接いってもアカン」僕、思たもん。マンションの隣のオバちゃんがええオバちゃんなんやけど、よう「お金1000円貸して、もう500円、こんだけしかあらへんねんわ」とかいうてたんですわ。ほんで「生活保護もうたらいいんちゃうか、いっぺん行ってみ」いわはって、36歳の時、申請したんやけど、すぐには、20日ほど出えへんで、ほんでその足らへん分、「1日1000円の計算で15000円な。その代わり、自分若いさかいに3か月の間で仕事決めなさい」いわれて、それから生活保護が八万円ほど下りましたよ、うれしかったもん。で、プリペイの電話にしてね、「仕事探そう」と思て、ここで探して、新聞のチラシでも捜して。

日刊の求人の「an」の本ありますやん。「住み込みの仕事行こう」思て、鈴鹿行って。そこで話聞いて、1日8000円やねんけども、毎日3000円、日払いでくれはりましたもん。ほんで毎日ええ飯が食えましたよ、白いご飯が。「よかったなあ」思て。1か月済んだら、週払いで、1日8000円の計算で、月・水・金が支払日やから、24000円ほどもらいましたよ、僕。ほんで、半年ほど三重県鈴鹿で、家賃は45000円で引かれるけども。どういうたらええの、名古屋セイコウの警備員やってましたよ、資格も何にもいらへんから。結構楽な仕事でね。「この仕事で1日8000円もらってええんかな」思たもん。それから半年して、僕ね、ホンダの仕事がしたかったんですわ。梱包の作業、車のパーツ、倉庫内作業の仕事とかの仕事をしたかったから、警備員の契約が半年で切れるから、「やったー、ホンダ行けんねんな」思てたんですわ。そやけども、名古屋の警備の人が「まだ警備の手が2人足らへんさかいに、もうちょっと残ってくれ」いうて。それで僕、嫌になって、飛んだんですわ。そこは社会保険もなんもあらへんしね、「かなんな」思て。

今、嫁はんと一緒にいて、子どもは施設に前から預けてんねんけども、ちゃんとした仕事が決まったら、子ども引き取って、「一緒に住もう」思うてるんですわ。月に2回ぐらいは連れの車で子どもに会いに行ったりしてるんですわ。施設は無料ですわ、京都市のあれやから。僕、収入あらへんさかいにね。嫁はんが働いて、10数万もろうとるさかいに、ほんで僕もあの、月にいうたら10万あるさかいに。ほんで支払いとか、電気代とか、家賃は分譲で入ってるから、18000円の家賃払ったら、それで何とか4万ぐらい残りますし、それを貯金してんのやけど。

(世間にいいたいことはありますか?)サラリーマンとか見てたら、「自分さえよかったらそんでええ、わしは絶対に失業せえへん」と思っとんねん。逆に、若い奴、フリーターとかで親とかおって、「飯食うていこうか」と思ってるんちゃいますかねえ。「失業してる奴をあほちゃうか」と思てる。僕らは若者に対して、あいつらは定職につかんと、結局、親頼りで、フリーターで、若いさかいにずっとやっていけよるんやな。「なんで正社員でね、働かへんのやろ」と思いますわ。「親がよっぽど金持ちでね、資産家とかそういうなんでやっていける」と思うんですわ。もうちょっと失業者増やさんと、採用人数とか1人とかにせんとね、50人ぐらいとかにしたらええ。近所のモンの息子とかと、僕らは同じ年やけども。ウチの息子はちゃんと働いてんのに、あの人なんやっていう視線やね。で、どういうたらええの、「自分らも無職になったら、リストラになったら分かんねん、普通免許だけ持っててね、資格とか持ってへんかったらな、就職できへんねん」いうことを僕、いいたいねん。ここらの求人でも「同じもんばっかり出してんと、違うとこも出せ」いいたいわ。失業者あふれて、ここも朝からいっぱい。「紹介状もらおう」思ても、「夕方の4時、5時までかかる」いいよる。ほんで水商売の仕事はあんねん。河原町とか行ったらな、「明日から来てくれ」とか。そんなんしたないやん、保険もないし、ややこしいし。やっぱ、普通に入って、倉庫内の軽作業とかしたいねん。

(将来に対する希望は?)希望いうんも、あんまり薄れてきたねえ。こんだけ面接に行っても決らへんし。希望いうのはね、車をね…、安うで中古で軽乗用車でいいさかいにね、「欲しいなあ」思てますねん。バスとか地下鉄とかタダで手帳あるさかい乗れるけどね、やっぱり車乗りたいねん。土日とか休みの日とかね。そのために仕事せんとあかんさかいね。(男は僕に求人表を見せて)ここでも早いこといきたい。保険引かれて、毎月12万くれるいうとるし。でね、貯金して、「車を買おてこよう」思てるんですよ。それが希望ですわ、夢、ただそれだけ。もうぜいたくはいわんわ。20万の仕事は絶対、あらへんもん。

(僕らの前を若い女が通りすぎていく)今、ここ出やった子も職業訓練校を5回ね、ここで受けてますわ。そうせえへんかったら、仕事受からへんいうてますもん。(男は顔見知りの男を見て)あの人もな、名古屋のトヨタ行って、派遣切りで帰ってきはってん。今は親と住んでるけどな、飯が食えるさかい、ええけど。親がおったらね、みな頼りよるやん、飯食うていけるやん、僕ら違うもん。

(男は少し離れた場所で弁当を食べてる女を見て)この女の人もおかしいねん、この女の人ねブツブツ1人でいうてね。「あの子はもう障害者ちゃうか」と思うけどね。「年金もろてる」思うけど、多分。

(ベンチに座るスーツ姿の中年男を見て)サラリーマンとかあそこにいますけどね、仕事探しにきてる、格好悪いさかい、ああいう格好して。西陣に僕の知り合いとかぎょうさんおるけどね、あほばっかりですわ、タバコ吸う場所でね、「もうこの世の中はあらへん」いうて同じことばっかりずーっとしゃべってね。

保険の外交員が職安の周りに立っとるやん。毎日夕方の5時頃、男と女がここ来て、ジュース飲んでな、6時から7時までここでスカウトしよんねん。あんなん「あほちゃうか」いいたい、税金の無駄使いや。そいつらは職安から出てきた女性が嫌がってはるのにね、伊勢丹まで追いかけていかはんねん。ほんで利用者から苦情が出て、所長が外交員を怒らはって。ほんで2か月してから、そいつらまた来とんねん。車もね、路上駐車。僕よう警察に電話してたもん。市の人が来はったら、さけるフリしよんねん。いなくなったら、また車止めとんねん。ほんでまた僕いうねん、切符切られとったけどな。横着なことしよんねん。「あんな仕事で金もらえんねんな」思うもん、楽な仕事やで、あいつらここで時間潰してな。