マツシタヨシユキ(40歳)

ベンチで求人表を読む男はジーンズに薄手のジャージを合わせ、小さなメッセンジャーバックを肩に掛けている。日が暮れ始めているにも関わらず、男はサングラスを外さない。無精ひげが男のほほからあごにかけて生えている。

(職安に来た目的は?)今日まあ、久々に隣のハローワークを閲覧しに寄せてもうたんやけど。まあ、どこもやっぱり厳しいみたいやね。年齢制限もあるし。それと再就職するのに、免許の資格とかでもパソコンとか。ようはワードとかエクセルなんが使えんとね、採ってくれる企業さんも少ない。「なかなか厳しいかな」と思てね。

(それでは今は失業を?)今、求職中ですよ、失業してます。ええとね、1年前に父親が倒れまして、それまでは介護の仕事をしてたんですけど、どうしてもその、「親父の病状が危ない」といわれてたんで。仕事を続けられないような状況で、母親だけに看病を任せられへんので、仕事辞めて、そっちのほうを。おかげさんで親父も回復して、自分でトイレとか食事とかフロとかできるようになったし。ある程度、家での生活の中で余裕が出てきたというか。

あとはもう、自分の就職問題ですわね。そういうなんで、まめにハローワークとか寄せてもうてね。元々、介護の仕事をしてたんで。ほんで介護の仕事は、今だいぶ福祉施設とか増えてきた中で、どこも給与面がものすご厳しいんですよ。だから国家試験の介福とって、介護福祉士ね。それを持ってても、今日(きょうび)いやらしい話やけど、毎月の給与が保険引かれて、手取り20万もらうのはなかなかない。海外からも介福を取得するために、日本に来たはる人がようきいはるなかで、日本人の僕らが介福の資格を取るのに、やっぱり時間と金がかかるんですよ。だから、そういうなとこも京都府とか京都市、おおまかにいうたら全国、国が福祉とかにもっと力入れて欲しい。そこが正直なとこですわ。いずれはみんなこの業界にみんなどんどんお世話になるさかいね。

まあ、どういうのかな。所轄とか管轄の上の人らが、役所の関係とかね、現場をもっと見てもらったほうがいい。現場に出てるケアスタッフ、ケアワーカーとか一番大変なんでね。国も手探り状態の中で、見切り発車みたいな感じで介護福祉始めはったけど、国がもっとバックアップして、さらにお金を費やしてもらって。ほんなら、高齢者、利用者さんとか現場で働いてるケアワーカー、スタッフとかも、もっと潤せるんちゃうかな。利用者さんは今まで働いてきはったなかで、わずかやけど、介護保険とか貯蓄してそういう施設でお世話になるために、来てはる方ばっかりなんでね。高齢者の方の介護保険だけで介護を補うのは、あまりにもしんどいんちゃうんかな。

(お仕事は介護職をお探しですか?)介護系の仕事を探してるけども、その中でもいわゆる総合職、パソコンも触れて、現場もタッチできて、「もっと上の資格をね、どんどん取りやすいようにしてもらいたい」というのが正直なとこ。しんどいですけどね。まず、待遇面ですわ。待遇面で改善されたら、現場で働いているケアーカーの人たちの苦労が報われる。そやね、一番いえるのは毎月のお給料。あんね、普通のサラリーマンと一緒で雇用保険とか社会保険があって、基本給があって、あと能力給があって、どこの施設でも「この子は国家試験受けて、介福取りたい」いたら、上級の試験をもっと受けやすくすると同時に、保険とか引かれて、手取り20から25万ぐらいはあってもいいんちゃう。それを国とか業界がもっと分かってほしいね。この業界ってね、他の業界と違って6勤制じゃない。週5日制。デイサービスがあって、毎週日曜日があって、それとは別に週の月曜日から土曜日の間にもう1日取って。だから完全週休2日になんのかな。

というのは、他の施設ね、例えば、ショートステイとか特養、ああいうなんと一緒ですわ。1日休みがあってほんでもう1日。6勤できないんですよ。休日面とかはローテーションのやりくりで、日曜日に休み取りたい人やったら、早目に申し出て。休日面は優遇されてるんちゃうかな。その施設に社員として入り込んだら、保険とかも完備されてるし、福利厚生もね、ほとんどが病院系列やから、「それも充実してる」と思うし。

具体的にどんだけの介護の資格いうたら、ヘルパー二級とか。介護福祉士とか国家試験なんですよ。そうなると、その仕事に従事して、丸3年は実務経験がいるんですよ。もっと上を目指すためにケアマネージャーを取る人も多いし。ケアマネージャーになると受験資格が5年になるんでね、あれも国家試験やし。3年、5年となると年齢的に後半の人やったら、いろいろな面でしんどいんですよ。例えば、シングルマザーで頑張ってる人とか、これから介護職に興味を持って取り組んでいく人がようきいはる中で、なんとかならへんのかなと。年の試験も1回じゃなくて、春夏秋冬の年4回とか。そうしたら受験者数も多いけども、その分ようき資格を持って現場で活躍しやすい、飛躍できるんでね。学科試験とか実地試験も実際のとこ、大阪まで試験を受けにいかなあかん。大阪まで行って、試験を受けるいうのはね、なかなか距離も離れてるし、仕事に従事しながらとなるとね。だから京都でも十分、国家試験が受けれますよ、そういう仕組みを作ってほしい。ヘルパー2級の場合は、地方自治体が運営しているその中での資格であって、また国家試験と違う。関西一円で、そういうなんを何とか取り組んでもらえへんかな。

(これまでどうやって飯を食べてきましたか?)「自分から辞めます」いうて辞めたんやから、自己都合やし、最初の3か月は雇用保険ないからね。そこんとこは、今まで勤めてた貯蓄を切り詰めながら、生活してたんでね。実家におればね、食・お風呂も別に心配ないねけど。そやけど、いつまでも生活切り詰めに執着するのも、親として、心苦しいとこあるやろうし。特に母親がね、それをもろに感じとるんやけど。母親も高齢やから、ほんで体に障害も持ってるで、葛藤とかそういうなんひっくるめていろいろありますわ。極端な話、収入源を断たれるのと、親父がこういう一番大事な時に倒れて、そやけど本人は治ったらケロッとしとるからね。そんなもん記憶が飛んでしもうたか知らんけど。「大変やった」という事態も、あんまり飲み込めてないからね。そやからそこで苦労はしてますけどね。「ようまあ、奇跡的に助かったな」と、今となったら不思議でしゃあないけどね。それで本人が、毎月医者で受診してるなかで、食生活とかの面で自粛とか節制したらいいねんけど、それもなかなか。やっぱりそこは自分の我を通しよるから、なかなか難しい。小さい子どもやったら、なんぼでも怒って、育っていくと同時に知識も得て、ええねんけど。

一旦、大人になってしもうたら、その例えば、線路でいうたら、曲がった線路を元通りに戻すのは難しいでしょ。もう、それと一緒ですよ。生き方自体を曲げられへん。本人はどう思てるかわからへんけども。今、うちの母親と私、息子の支えがあるから、親父は通常の生活が何とか送れてる面があるんでね。なかなかそれを分かってくれない。

失業保険も、私、派遣会社から派遣されて、その施設に行ってたんで。そやさかいに正社員で行ってないからね。そこがややこしいんです。失業保険はちゃんともらえてたんですよ、もらえててんけど、あくまでも派遣なんで。ほとんど社員と同じ扱いやったけども。失業の手続きとかが社員の待遇と違いますからね。賞与はもちろんあらへんし。どっかで「ああ派遣さんやから」とか、まあちょっとね口に出す人もおれば、口に出さんと目で訴えるようなとこもあったし。社員さんもようやってはったけどね。私いた施設はわずか1年未満やったけど、ようしてもらいましたわ。

僕がヘルパー2級の学校行って、取ってから、実際に現場に出てみるのと、現場とマニュアルとはまた違いますからね。まず、現場が優先。場数ん場踏んで、成長して、経験を積んで。福祉の仕事、介護は施設で働くと利用者さんの最後の死命まで迎えるからね。介護職に携わるんやったら、つきもんなんでね、人の死が。それまで運送屋とか建築土木の仕事もやってましたけど、ここ一番、人とのふれあいで自分自身も勉強になるしね。高齢者の方は大先輩に当たるから、モノがなにもない時代に、人生80年、90年、またそれ以上生きてこられたから、そういう人の話はものすごリアルやし、実体験。僕ら戦争を知らん世代やからね。うちの親もそういうなことありますけどね。大正生まれ、中には明治生まれの方もおられるやろうし、昭和何年生まれの人とかいろんな人がいやる中で、昔と現在の違いも語り継がれていくし。

私ねパソコンが無知なんで、それを何とか訓練校で学びたいんですわ。パソコンは介護の総合職だけじゃなしに他の仕事の総合職でもいるんですよ。今回はその選考に漏れて、行かれへんかったけど。訓練校の授業は通知で合否の合を受けられた方に今週から始まってるんですわ。8月、9月、10月と教室に行って。11月、12月は、受けたハローワークから実習で各企業に行って。それによって雇用状態が生まれるんで、だから「ここの会社に勤めてましたよ」っていう証明もあげてもらえるし。そういうふうに考えとったんやけど、「選考に漏れてあかんかったから、もう1回トライしたろう」思て。それで勉強したり、それなりに過ごしてるんですけど。合間あったら求人の閲覧を見て、求人の募集をある程度は把握しとかんと。

(将来に対して希望と不安どちらが強いでしょうか?)やっぱり不安ですね。今、実家から離れて暮らしてるんですよ。「何が不安か」いうたら、極端な話、父と母がおって、母に先だ立てるのが一番つらい。やっぱり親父が先に逝ってくれたら。ま、「逝ってくれたら」っていい方悪いけど、そこんとこで「父親と母親の違いが出てくる」と思うんですわ。簡単にいうたら、「どこに貯金があって、蓄えがあって、生命保険があって、どのタンスにパンツ一枚入ってて」っていう。母親は家全体を知ってるから、「それはどこの家庭の人でも一緒や」思いますわ。それで、うちの母親はどっちかいうたらストレスためがち。障害も持っとるんで。外に一人で出歩くのも難しい。そうるなと家でストレスもどんどんたまっていくし、それを何とか私が回収してやりたい。たまに外の空気も吸わしてやったりとか、行動起こしたりとか。私ね、突然、仕事辞めて、こういう生き方してるけど、母親のことが一番の気がかりかな。もし、母親が亡くなった時に、「私に万が一のことがあったら」と事前に聞いてるから。周りの人もいるし、ええねんけども。私、一人っ子なんで、兄弟がいないんですよ。兄弟がいれば、場合によっては上とか下なり協力しあっていけんねんけど。「兄弟がいたら心強い」と思うんやけども。

(世間にいいたいことは?)自分も努力して頑張らんとあかんけど、まず国やね。国が変わらんことには。30日の総選挙に向かって、いろんな党が公約立ち上げて、やってはりますけど。何々の党やから、何々とかいうてんと。そこんとはガッチリとスクラム組んで、「国民が第一」っていうフレーズよく聞くんやけども、他の党と手を組んで。外国からも「日本大丈夫か?」って見られてるんちゃうかな。2年もたたんうちに、日本の総理が2人、3人と代ったからね。ややこしい隣の北朝鮮からもつつかれて。だから、マニフェストとかわからんでもないけど、国民の立場にもっと立って、日本国のためにね、北は北海道から南は沖縄まで、もっと雇用とか介護とか福祉を重点的に。全国で派遣切りとかされてるし。派遣で切られる人はそんだけ勤めてきてはって、いずれは正社員にさしてもらえるとに頑張ってやってきてる人らやからね。そういう人に一方的に「もう雇用契約結びません」っていうやり方は、企業側も試行錯誤して、早いことやめてもらって。自民党の麻生さんもようやってはるし。景気第一やね、景気がようならんと、アメリカの有名なとこが破綻するんやからね。今は昔では考えられへん時代やね。みんなが笑えへんからね、ゆとりもないし。とにかくそれが一番願ってることですわ。