タカシマノボル(44歳)

男の二の腕は筋肉で盛り上がっている。僕はハローワークの駐輪場の隅っこでタバコを吸うこの男に「ライター貸して頂けますか」と声をかけ、男の隣で一服する。中年警備員が僕らを見るが、何もいわない。男は自動販売機に向かい、「飲むか?」と僕に尋ねる。男は10分ごとにタバコを吸い、飲み終わったコーヒー缶にそれを捨てる。

まあ、その職種によっても時間帯とか全然違うよ。土木関係なんか「8時から」って書いてあるけど、現実的には「もう、6時半から来い」とか「1時間前に来い」とか。残業代はつけへんし。手取りは経験あれば、それで出すけど、足元みてきよる。今、求人者が多いからな。「人を選ぶ」いうかな。パッと見て、一人一人値段が違う、メチャクチャですわ。で、ちょっと突っ込んでくる奴には、「こいつはあれやな」と思ったら、値段上げる、下げるやね。仕事終わる時間は「30分では残業にならん」いうて、もう1時間以上超えへんかったら、「うちはもう金払えん、残業は1日のうちの時間に見なす」とかいうて。えらい、もうサービスやで。労基とかには行きませんでしたけど、給料払わへんかった時は、それは行きましたで。そら給料払ってもらわれへんとな、生きていかれへんしな。

(就職活動の進展は?)今年の2月ぐらいから人がこんな仰山くるようになって。とにかく、この中から1つ見つけたらいいんや。まあ、なんちゅうかな、目を皿のようにして、毎日、最新求人で探していく。昨日まで見た求人は分かってんのや。だから、昨日以降のやつのことは頭の中に入ってるんやから、まあ何でもパートでも短期労働でも何でもいいやん。それを最新求人、最新求人で、自分の好きな製造行きたかったら製造、運輸通信行きたかったら運輸通信で。その最新求人、最新求人で毎日押していく、そんで探す。金曜日の求人は月曜日に載るから、月曜の朝に行ったモン勝ちで、1分1秒を争うんや。「何ぼから何ぼまで」いうて、賃金書いてある求人表ありますやん。大概、最低の賃金いうてくる。それで、あの3か月の試用期間を書いて、800円から1000円書いておいて、800円でずーっと使うねん。汚いやん。だから、今は会社が金を回すことができない。あの、それだけ従業員に金支払わなあかん。会社はそういう金を持ってるんやけど、すぐにそれを出してしまうと、やりくりができないから、従業員への支払いを、給料日の期日を、月末締めの20日払いとか、1か月後にするとか。それで生き残ってるんや。それでも左前になってきたら倒産する世の中や。今はな、なかなか考えてまっせ。そらもう求人、見たら、分かる分かる、「ここはそういう業者や」とかな。わからなくても、電話で話聞いてら「ここはもうアカンな」いうて、その業者の求人表がずっと載ってるわ。

ほんであこでタバコ吸ってる人らいるやろ。(男は職安の出入り口に設置された喫煙場所を見る。数人の男女がそこでタバコを吸っている)あれもな、職安で求職中のつもりが、いつの間にか、職安に来て「仲間」と話すために職安にくるという「職安族」になる人いますねん。

(職安の職員の対応はいかがですか?)前はものすごく横柄な職安の職員おったけどな、いうてみればほんま公務員で、そんなような感じやったけど、最近はましになったんとちゃう。まあ、こういう時代やからさかい。昔はそれだけ仕事ありましたやん。今はもう20代で生活保護、ホームレスいるし。京都駅でも20代でホームレスいますやん。1号線でも20代のホームレス歩いてましたもん。そんな時代やからね。日本人は戦争に負けて、焼け野原から立ち上がってきた。それから見れば、もう、電気も水道もないわけでもないしね。ただ、今の時代が昔と違うのは、昔はみんな貧しかった。貧しい中にも貧富の差がなくて、そっから時代がこうよくなってきて、物価が、給料が上がってきて。そういう段階で上がってきたわけや。それが今は、モノが、道路が、建物ができあがって、社会はもう携帯電話、パソコン、コンピューターの時代やん。それに輪をかけて仕事がない、コミュニケーションも少ない、そこが問題や。まあ、役人は役人で、麻生さんやないけどね。タクシーの運転手を捕まえて「月300万になるんちゃうか」いうて、聞いてたいうか。全然、その、民間を理解してないというか。あの人が育ちええやん、麻生御殿に住んで。億の資産もって。振り返れば、橋本内閣で平成9年に消費税5%にしましたやん。それでガーンと景気落ちましたやん。それで持ち直した時に。小泉さん、郵政民営化いうて。自分の思想ばっかりをやって、ロクな経済対策をうたへんと。日本人はそれにだまされたいうか。派遣を認めたのも小泉さん、自民党。そういう過ちを二度としてほしくないし、その証拠にオイルショック以来、貿易赤字ですよ。大変なことですよ、これ。何も売れないですよ。

(世間にいいたいことは?)時代やね。昔はその1本の仕事で、寄らば大樹の陰やないけど、永久就職みたいな時代がありましたやん。もう、そんな時代は消え去ったいうことや。はっきりいうて、「みんなそうや」と思いますけど、誰も金持ってる奴おらへんし、その日食べていくのがやっとの時代やないか。いかに自分があぶれんように、季節ごとのパターンで生きてる人もおるしね。俺も祇園うどん屋の生地の製造したり、運輸したり、現場で働いたりな、いろいろして顔を作る。こっちの仕事がない時にあっちの仕事をする、うどん屋の生地の製造って夏場はあかんから、そのシーズンは前やってたとこで働くとかな。パート2、3件かけ持ちしてる人も現実にいてるしね、ここで。安定してるのは国家公務員で、ボーナスも60万、70万、80万でますやろ。我々、民間人はそれができないんやから、そうなってきたら、どうやって食べていくかということや。だから、臨機応変に生きていくことやな。そのやっぱ、企業はこっちを見てもらわんとな。働いてみんとわからんでしょ、向こうもこっちもね。企業自体がそのなんちゅうかな、100人かかえてりゃ、十ぱ一がらみになってきますわ。面倒くさいし、100個束ねて、1個置いといたらええわみたいな、乱雑な扱いになってくる。だから、みんな社交辞令で、もう全部それで押さえてしまう。何もこう、話し合いやコミュニケーションしてるけども、実は話し合いにならんちゅうことや。とりあえず、5人ぐらいの企業いうたら、やっぱ人を見る目が丁寧やん。