オノユウゾウ(40代)

日によく焼けた男の腹はビール腹で、口調は早口で精気にあふれている。男の両親は金融業界の重役だったこともあり、男は小さなころから金融経済のイロハを学んできたという。かつて大学生だったこの男はバブル時代に株で三千万円を稼いだらしい。

(今日、ハローワークに来た目的は?)今日は仕事探し。失業は1年半ぐらいですかね。前職はコンピューター、IT業界で営業の仕事ですね。会社が業績不振で、支店を閉めて。私が転勤してもよかったんですけど、家庭の事情があって、やむを得ず、辞職。会社から「本社転勤」という辞令が出たんですけど、「自分は事情があって転勤できない」ということですから。まあ、結局は会社都合じゃなくて、自分都合になるんやろうね。

(会社に残るか去るかの葛藤は?)そら葛藤したよ。もう食べられへんぐらい追い詰められたからね。だから、とりあえず辞めたあとは、職安に来ながら、何でもいいからすぐアルバイト。夜勤のアルバイトであるとか、とりあえずお金になることをしましたけど。それでもきついですけどね、今でもバイトしながら生活してますけど。バイトは全然、金にならへんからね、もう食べるだけ。支払いとかも全部遅れるでしょ。

年齢的には僕はそこそこいってますので、やっぱり若い子と比べたら就職の確率はきついですしね。私、もう100社以上は受けてますけど、全部駄目です。あのね、例えばインターネットの就職サイトとかに「自分の履歴書をフォームに全部打ち込んで、登録して、お呼びがかかったら、面接」みたいなところにも何社も登録してますけど、全然、お呼びかからないしね、年齢的にも。だから、スキルがあっても年齢で駄目になるパターンです。

僕はバブルの時に大学生でね。船上セミナーがあったんですよ。ようするに、クルージングしながら就職説明会。完全に売り手市場やって。富士通日本ハムとか一流企業が「どうぞ来てください」って。帰りに手土産渡すとか、セミナーに参加するだけでもう合格とかね(笑)。そういう時代があったから、今の買い手市場とは全然違った。

あとはここでも年齢緩和になったぶん、誰もが会社面接を受けれられるでしょ。逆にいえば、会社側としては実際に20代が欲しいのに、職安で決められてるんは、(男の声が大きくなる)全く意味のない年齢緩和してるじゃないですか。実際、会社に面接行ったら「うちは20代が欲しいのや、申し訳ないけど」ってはっきりいわれるから。よっぽど何かに長けてるとか、スペシャルに近い技術持ってる人以外は。だからミスマッチを助長させてるのは国。それだったら「28歳まで、35歳まで」とか求人にきっちり書いといてほしい。面接に行って、無駄なことが何回もありましたし。

(頭にきますね。)いや、もう怒るのとか通りすぎてますよ。だって、職安の求人表には年齢のことなんて書いてないんやからね。(男は求人表を指し示して)正味、ここにも「年齢不問」って書いてあるけど。一言でも何かうまいこと求人表に書けばさ、「できるだけ30代を希望」とか「当社では20代が活躍しています」とか「当社では女性ばかり」とかいうことを書いておいてくれれば、僕もそこに受けにいかないです。職安で1回、僕が「受けますよ」って問い合わせた時に、何か一言でもね「うちは若いもんしかいいひんし」とか「できるだけ年取ってへん人が…」っていうてくれると、まだ会社を受けられへんかもしれんけど、その分、受けられる会社がはっきりするじゃないですか。会社を絞り込めない問題が一つありますよね。

(そういう事例を職員さんに言ったことはありますか?)職安の職員にこういうことをいっても無駄ですわ、無駄。何回もいいました。そんなことはしょっちゅう、僕だけじゃなくてみんないうてますよ。なんでかいうたら、この人たちはただの公務員やし、命じられたことしかできないじゃないですか。決めるのは全部机の上で決まっていって、現場を知らない厚生労働省のバカ役人ばっかりでしょ。僕は職員の方を「かわいそうや」と思うこともあるんです。どないしても年齢緩和に関する議論はできない組織ですから。厚生労働省は一回ぶっつぶさなかんでしょ。あいつらが税金の無駄使いしてんのやから。確かにね自分から辞めて、失業したわけから、「それやったら会社にしがみつくほうがいいんちゃう」ってみんなはいうかもしれん。けど、僕の場合はやむを得ず辞めたわけやから、どうしても家族で介護せなあかんかったから。母親のばあちゃんがいるんですよ、そのばあちゃんを介護せなあかんから、母親だけでは無理なんですよ。老人ホームに入所して、在宅して、その繰り返しなんですよ。ばあちゃんが帰ってきた時、介抱する人間がいないと。まあ、介護保険で全部できるわけじゃないですからね。あの、在宅介護の部分でもやらなあかんことが、「この部分はどうしても僕がやらなあかん」っていうのがあったんでね。

(そういうことを相談する相手はいますか?)僕は管理職をずっとやってきた人間ですから、楽しいというか使命感を持って仕事してましたんで、それなりのやりがいはありましたね。僕は男なんで、一家の大黒柱ですからね、誰に相談することなく、自分で決断してる。誰かに相談して解決するんやったら、「仕事探してきてくれ」とかそんな女々しいこと僕はいいません。自分の力で、まあ、今までそうやってきましたんで。どんな状況におかれても、誰にも相談したことはないし。連れとお酒飲む時とかね、女性とか車の話になったりはしますけど、失業してるから社会がどうとかいう話はしませんね。おいしくお酒飲む時は楽しい話しますやん。だから、あんまり友達に愚痴はいいませんね。「いい訳したくない」っていう気持ちが強いから、自分の現状は自分の責任やから。それでまあ、食べられてへんけども、貯金崩しながらも、アルバイトやってなんとか生活できてるじゃないですか。だから、ご飯食べてられる間は、苦しいけど、そこまで「クソー」ってのはならないですね。もちろん、面接に落ちた時は腹立ちますよ。そやけど、僕は「次、頑張ろう!」っていう気持ちが強いですね。鬱憤がたまらないことはないけど、僕はそれで感情的になって自分見失うことはないですね。

もちろん、働かないとお金は入いらないですから、そうなった場合はアルバイトでも何でも自分で。人材派遣のグッドウィルに登録したり、フルキャストとかあるじゃないですか。こういうところに登録してでも、「職が見つかるまでは」と思って、今もここの職安に来てんねんけどね。仕事が見つからない。見つからないというか、「見つけよう」と思たら、人気のないタクシーとか給料ムチャクチャ安い介護職であるとかありますよ。でも、給与が低い。今やってるバイトのほうが所得あるんちゃうかな。介護職なんて手取りで12、13万しかないでしょ。それやったら1日、7000円、8000円のアルバイト、20日やったら14万。その代わり何の保障もないけどね。アルバイトもなくなる可能性あるけど、まだ死ぬまでに長いからね。65歳まではまだ10数年働かなあかんからね。そう考えたら、何でもいいから最低20万の給与があるちゃんとした正社員、社会保険完備。生活は20万でもきついけど、もうそれだけですよ。きつくても何でもやりますよ。まあ、前職が営業だったんで、おまけにずっとIT関係、ソフトウェア関係の仕事だったんで、そっちの仕事が仕事できますよね。だから、まあ、正直それ以外の仕事は…、「何でもやろう」とは思てますけど、実際に何回もいろんな職種受けましたけど、「未経験可」って求人表に書いてあっても駄目なんですよ。じゃあ、「未経験の人と経験者とどっち採るか」いうたら、同じ年代だったら絶対、経験者採るじゃないですか。そういうミスマッチもあるんですよね。「それだったらIT関係、ソフトウェア関係の仕事をもっともっと探してみようかな」って今、行動してるですけどね。まあ、実際IT関係が(男は片手を斜めに下げる)こうなってるからね、今なかなかソフトが売れないでしょ。

(世間にいいたいことは?)僕の立場から社会に対する見方は、まあ、労働市場が厳しいの分かってたし、僕はこんなんいうたらあれですけど、「社会が悪いとか国がなんもしてくれへん」とか、そらいいたい気持ちはあるけど、それを口に出して人のせいにしたくないんですよ、ずるいから。僕はデモとかようやってんの見るから、派遣村とかあれはあんまり好きじゃない。僕も今それと同じ状況やけど、でも、逃げたらあかん。人のせいにするのは簡単やけど。まあ、よくいいいますやん、はいずり回ってでも、アルバイトしてでも別に飯は食えんのやから、どぶ掃除やったって、どんな仕事やったって。だから自分で切り開いていくとか、「軍資金があったら自分でなんか小さい会社でも独立してやるような気概をもたなあかんな」って僕はどちらかというと思ってるぐらいやから。「税金の無駄使いする公務員ふざけんな」とかね、そういうなんはありますよ。公務員の仕事って、民間の仕事と比べりゃ、はっきりいうたらレベル低すぎるじゃないですか。残業もしいひんし、残業したらようき残業代つくしね。昼間に仕事せんと、残業のつく時間になったら仕事して、金稼いだりね。ああいうの見たら腹立つけどね。こんだけ景気悪いのにボーナスだけきっちりもらいよるでしょ。

(100件以上会社から断られて、気概が折れそうになりませんか?)ありますよ、人間やから。あるけど、営業やってたんで、人よりも多分打たれ強いから、人に断られても契約を取るのが営業の仕事ですから。だから、気概が折れそうになったら、「どこが悪いんかな」って修正して、例えば、「履歴書の書き方が悪いんかな」とか「面接の時の応対、一言、一言がやっぱり悪いんかな」とか、自分に対する反省点とか見つけながらですね、「次はまあこうしよう」とか向上心を持つようにしてますね。それに気概が折れそうになったって、「もう明日からアルバイトして、就職活動はやーめた」っていうわけにはいかないですから(笑)。ここの職安にくる交通費だって金がいるわけですから。食べてもいかなあかんし、年金も健康保険も払わなあかんし、そうでしょ。

(将来の生活に対して希望と不安どちらが強いでしょうか?)僕は希望が強いですね。僕はちょっと変わってるからね。不安は今でも不安ですよ、そら。こうやって職安に来て、ちゃんと働ける時がいつになるかわからんけど。仕事が決まって、今のこの生活じゃなくて、普通の、普通の生活取り戻して。ここ最近、旅行も行ってないし。家族に、子どもとかにちょっとしたプレゼントしてあげたりとか、旅行に行くとか、全然してへんからね。そういうなんをきちんとできるように、まず普通の生活を取り戻せたら。それだけが僕の希望なんで。「それができる」と思てますし、人と比べたら大きな夢も、もうないし。

(離職後、家族関係の変化は?)仕事辞めて、経済的に苦しくなってから、家族関係は変ったんですよ。嫁と別居してます。そっちのほうが嫁との関係がうまくいってるしね。もうちゃんと家族が幸せでご飯食べられたら、それでいい。子どもにね、習い事さしてあげたりとか、そういうはありますけどね。今の段階ではそれ以上、いわれへんから、最低な生活しかさせてへんから。