タカムラミツハル(45歳)

男はブルージーンズ、赤色のチェックシャツを身につけ、サッカー用のトレーニングシューズを履く。男の身長は160センチほど。猫背で、小太りだ。男はサッカーが好きで、一時期、小学校のサッカーチームの指導者だったらしい。男は明るい性格で、冗談を飛ばす。「これ(ボイスレコーダーのこと)で録音したら、この僕のナイスボイスが変わるんちゃうの、そんでいいの?」(笑)。

(今日の仕事探しの成果は?)妥協すれば、(男は数秒沈黙する)仕事はありますやん。仕事の条件がいろいろありますやん。それをいくつか、「もうええわ、もうええわ」と折れていったら仕事はある。だから完璧な条件は今、こんなご時勢やし、求められないわね、当然。

(前職は?)これ(男は自分のメガネを指さして)正社員のメガネの販売。その前に僕はタクシーの運転手やってたから、とりあえずもう、タクシーでは生活できひんのがわかったから、そこ辞めて。「とりあえず何でもいいわ」っていうことで、そん時に転職活動してたら、メガネ販売の仕事があって、「タクシー辞める都合ができたな」思て、すっと辞めた。メガネの販売員辞めたんは、転勤が急に決まって。勤務地が遠方過ぎる。これはきつい。自己都合で、2か月ほど前の8月に仕事辞めて。

(現在の労働市場は厳しいですが、辞めることに葛藤は?)葛藤は正直あった。「すぐに次の仕事が見つかるかな、どうやろう」とは思ったんやけど。なかなか難しいですね。求人に来る人たちってね、労働者人口の中の一番末端に当たるわけやんね。だから、労働の用途がひどい。こうやって見て、検索して、仕事があるかないか探すだけやけど。やっぱりひどいね。政権交代になったいうて、何が変わったんやろう。政策の成果がすぐには跳ね返ってくるもんやないねんけど、全然変わらんね。

(離職後、家族関係に変化は?)今、一人モンなんで、仕事辞めても家族ともめ事なかったけどね。

(離職後、どうやって飯を食ってきたのですか?)3か月雇用保険出ませんけど、今までやってきた仕事で蓄えがちょこちょこあったから、それで何とか生活できてるけど。今のままやと、もう体がおかしくなってきてるかな。不摂生。のべつまかなしにタバコは吸うし、イライラしたら吸う。やっぱり仕事があるいうことは、規則正しい生活ができることやわね。それがなくなったら、体はきついね。まあ、ほんで、今までも何回かあったけども、「就職できた」と思て、入ったら、規則正しい生活すら許してもらえへんような仕事もあったしね。

(就業条件は何ですか?)条件的なもんですか。業界はほとんどこだわってませんね。正社員、社会保険がちゃんとついてる会社。勤務地はあんまり通勤に時間かけて、疲れたくないから、なるべく近場で。賃金は18万が最低のラインやね。私の場合は20歳の時に半年間、入院してて、体ぶっ潰してまして。10万人に3人の国指定の特定疾患になって、目も見えず、口も聞けず、ベッドに横になりっぱなしで。それで入院中に自殺願望までいったから、もうネガティブ思考はいらんのや。ある時、「こんな稀な病気にかかった俺は英雄になんのや」という意識が初めてできて、見事、半年後に退院(笑)。医者も驚いてたし、「君の場合は例外やから、国に報告しない。報告したら、予算が切られる」っていわれたぐらいやしね。だから僕ね、性格上ね、ポジティブなんです。僕は希望しかない。人間ってネガティブになったらとことんいくでしょ。最後はあんなとこから(男はビルの屋上を見て)、ヒューっと逝くでしょ。ほとんど不治の病が半年で治ったんやから。だから、体力仕事がほんま駄目。でも結局、「汗かくのが好きや」っていう変な長所があるのかしらんけど、そんな仕事を選んでしまうんやけど、やっぱり体はもたへんな。必要以上の過酷な肉体労働以外ならいい、営業とか販売とか問題なし。二種免許も持ってるし。希望はあると思うんやけどね。ニュース見てても、「この業界、これから伸びる」とか。外でちょっとしたイベント見ても、「こんなんも商売としてやっていけるんや、こういうなんがあるんか」とか新たな発見があったりして、「意外にいい」と思う。だから、僕が性格がネガやったら、「もう日本は無理や、人類が無理なんやわ」ってなって、「どこかの宗教みたいにブッタの再来やとかやらなあかんのちゃうかな」と思うけど、僕はそんなん全然ない。ぼちぼちタバコも吸えてるし、いいかな。

(就職することに対する焦りはありますか?)「就職の焦りはない」といったらら、ウソやね。ある。でも、あんまり焦ると、絶対変なんにまた、わけのわからん仕事になるし。何も仕事ないけど、やっぱり仕事を選びたいわね。それが怖いんやね、今、一番。「この仕事でいいわ、採用もろたし。ほんならそこ行け」って、行ったはいいけど、「こんなもんあかんやんけ」って入社してから思うんが、怖いね。最近、そういうな職場が1件あったからね。今んところ、週に1回、2回は面接に行ってるわ。

(求人表の条件内容と実際の面接で条件の違いはありましたか?)ありました。9割の募集は女性です。上の人間が頭から「これが女性がやる仕事なんや」って決めつけて、回してるんやね。初めから「男性もどうぞ」というてる割には、男性に対して採用する気は正直全くなしで、とりあえず杓子定規にやってるだけで。最初に会社の概要とかを説明してもらってる時に、「会社の大まかな形態はこうです」という感じで、人事の採用員が説明して。「ああ、やっぱりなあ」というあきらめやね。その企業は有名なおはぎ屋さんですわ(笑)。大阪の梅田に本社あるから、僕は大阪までわざわざ行って。うわ、やっぱり大きな会社はすごいなと期待したけど、「やっぱりそうなんか」って。あそこはアルバイトでは男性も使ってはるけれど、メインは女性で回してはるからね。ですから、賃金は基本ある程度抑えられる。男入れとくと、やっぱりそれなりに賃金ベースアップせなあかんのかな。あとは売り上げ次第で、ステップアップしていく会社。ある意味、閉鎖的な会社やね。あとは職安の職員さんを通じた電話でほとんど断られるね。「うちとこは若いんですわ。店長が30過ぎなんですよ」っていうのでね、「それじゃあ、もういいですわ」いうて。話にならへんようなら、電話切ってもらう。「申し訳ない」という感じでいわれたら、そこまで気を使ってもらう必要もないし。こういう差別を職員さんにはいいますよ。でも、「こればかりはねえ。業者さんの都合もありますからね」っていうね。逆に「年齢・性別不問」っていうから、僕らみたいな45、50歳の人間が応募する。業者さんも結局、職安の人に「年齢・性別不問にしてください」っていわれてるから、「不問」にしてるんやろうけど。電話とかで断るんやったら、最初から年齢・性別を明記したほうがいいんかな。結局、傷つくのは我々、求人者の側やからね。業者さんも都合があるんやから、それは考えなあかん。

(職安の職員さんに対する評価は?)職員さんはもうちょっとぱっぱっと早く仕事してもええかな。職員さんはこっちの聞きたいことを理解してるはずやから。そやね、ここの職員さんはよう仕事やってくれてる。

(世間に対していいたいことは?)今の自分の立場を生み出したんは自分なんやから、世間とかにモノをいうたところで、仕方のないことやしね。自分の現状は自己責任でとらえてます。まあね、「政権交代頑張れよ」といいたいね。政権交代して、あれだけ有権者を喜ばしといて、「交代した割には何の変化もないやんけ」では正直あかんのやからね。雇用にもっと力を入れるべきやね、予算削減いうてんと、もっと見るところ見たら、削減だけでは今の日本よくならんよ。雲を使うような、夢物語のためにお金を集めてもどうしようもないんやから。夢なんかいつまでも続くもんやない、夢は目を閉じてる時だけに見るもんやからね。