イシハラマサシ(49歳)

男は歌手のあがた森魚と作家の中島らもを合わせたような顔だ。背筋がスラリと伸びる男はTシャツにジーンズ。水晶のブレスレッドを2本左手首に身につけている。男は取材を遠慮気味に断るが、遠慮気味に断る人にはあと一押しで取材が開かれるものだ。

(今日、職安に来た目的は?)職探し。失業してます、もう、かれこれ2年ぐらいなります。

(前の業界は?)リサイクル、古紙回収業ってあるでしょ、そういう関係の仕事。2年前は景気がよかったから、僕の決断で辞めました。そん時は後悔なかったしね。僕は1人もんやったから、まだ家庭とかあったら、そういうことにはいかへんけどね、ネバリがないっていうかね。まあ、僕、ダンボール回収をやってたんですわ、2トン車ぐらいかな、それ乗ってやってたんですけど。そのトラックが中古で古いんですわ、会社に1台しかなくて。他のトラックとか、あるんですけどね。だからそのトラックが古くて、調子悪くて、いろいろ故障するんですわ。エアコンついてないんですわ。夏場に入る時期にもう、やっぱ、1日中乗ってるからね。結局、エンジンが運転席の下やから暑いんですわ。熱こもって。だから「夏はこれではやっていけない」って会社にいうたんですわ。そやけど、会社は「そのトラックを新しく買い換えるのはできひん」っていう。これまたクーラーつけたら、10万、20万やったらええんですけど、お金の費用がそんなもんごっついでしょ。ほんまはその会社にいたかったけどね。

(仕事辞めるときに葛藤は?)葛藤っていうかね、まだその時、景気良かったし、「また職探ししたら、あるんやろうな」ってそういう考えで。失業保険もらいながら、次の仕事探してたわけですよ。で、やっぱり自分のやりたい仕事がなかったら途中で、こう挫折するでしょ。だから、職安に行ったり、行かんかったり、長いこと続いてね。建設業とか、ほんまはね、そういうのがよかった。2年の間にアルバイトなんかをやってた。去年の景気悪くなった事件から、仕事がなくて、もらえなくて、いろいろあってね。去年の10月だから、もう結構なりますね。仕事ないんですわ、ほんまに。年齢的にもね、経験とかね。即戦力になる人しか採ってくれんしね、経験なかったら採ってくれへんしね。これからどういうふうにして生きていったらいいのか、戸惑っとるんですわ。

(将来に対する不安は?)不安はありますよ。「人間はやっぱり、働いて仕事して、人間が生きている価値がある」と思うんですわ。誰もしなかったら、動物、ネコや犬と一緒でしょ。生活意欲、働く意欲、結局、生きる意欲もなくなるんですよ。こんな状況やから、やっぱり、毎日生活していく張り合いがない。

(前職を辞めてから、どうやって生活を?)まあ、貯金おろしたり、バイトしたりで、もう貯金も果たして、その2年間は食ってましたね。アパート住んでるから家賃も払わなあかん。生活費もろもろ、1か月で12〜15万円必要ですわね。食べていくのに、年間で140万から150万いりますね。不安で不安でしょうがないですわ。

(そういう不安を語れる友だちはいますか?)相手はおらへんですわね、親はいない、兄弟ぐらいしかいないしね。どっかで話し相手探したらあんやろうけど、ないしね。

(就業の条件は?)給料は手取り20万かそこらはいりますね、うん。保険もなかったらあかんし、休日も別にそんなにあるだけで。正社員で、派遣とかいろいろあるけどね。みんなどうしてるんかな。「いずれかは景気はよくなる」と思うんですけど、その間がね、やっぱり長いでしょ。来年もどうなるかわからへんね。そこまでやっぱり、生きこたえていけるか、自分、やっぱり心配なんですよ。体も調子よくないしね。昼間やっぱり、夜型生活のリズムになるしね、仕事ないとね。働らかないとあきませんわ、人間あきませんわ、ほんまに。精神的にもイライラするしね。昔はどんな仕事でもあったんやけどね。

(求人表の募集と実際の募集で違いはありましたか?)「年齢不問」って書いても、「何歳以下じゃなかったらとあかん」とかありますわ。内容が全然違うとかね。実際、僕が面接行って、話聞いてみると、求人表と話が全然違うんですね。ここに出している以上は、「年齢をいくつまでしか採らへん」とかはっきり書いてもらわんとね。こっちも時間とって、気を使って、交通費使っていくのも困るしね。あと、「未経験でもよい」とか、面接に行ったら「経験がないとあかん」といわれて。「ちょっと待てや」って、そういうのがあるんですわ(笑)。最初から「経験者希望」ってはっきり書いてたらいいんやけどね。

(そういうことを職安の職員さんにいったことは?)職安の人にそのおかしいことをいったことはありますよ。「会社がこういう面接の求人を出してるんやさかい」ってね。職安の人も「困ります、ちゃんとはっきりとしたことを書いてもらわなあかん」っていってましたよ。

経験だね、経験なかったら、採ってくれませんわ。肉体的に重労働だと余計ですわ。力仕事はできれば避けたいけど、生きるためにはそういうわけにはいかへんしね。僕、一回、空き缶の回収をやってたんですわ。近所でやってる人がいたんでね。「あれやし、もうなんもなかったから、やってみようかな」って。去年ぐらいかな、おととし。まだ缶の値段がよかったからね。(僕は男の話に引き込まれる。男は空き缶拾いを生業としていたのか。そんな話はテレビの世界でしか知らない。僕は男の話に積極的に相槌を打ち、なるべく質問をせず、聞き役に回るように心がける。)

(その仕事は個人的にしていたのですか、それとも業者として?)業者としてではなく、個人で。1週間に3回かな、ちょっとでもお金あったらいいしね。収入も何にも入ってこんかって、それやからしゃあないしね。それをやる時は自分のプライドがだいぶ邪魔しましたけど。でもね、プライド気にしてたら何でもできひん。浮浪者っちゅうかね、よう公園とか橋の下とか住んでる人が多いでしょ。最初は、「そういう人たちがやってる仕事」としか思えへんかったしね。周囲からもそういう目で見られるしね。恥も外見もなく集めてましたわ(笑)。本当はそういう仕事やりたくない。それは「最終手段や」と思ってね。そういう状況やったさかいね。空き缶を中国に持っていくでしょ、いろんな建物を建ててた北京オリンピックのために。それが終わって、アメリカのサブプライムローンで値段が下がって。一番高い時で業者1キロ、190円で取ってくれたんですわ。それが最低で40円になったんですわ。それから、空き缶集めとってもしゃあないし、1年ちょっとで辞めたんですわ。で、いろんな一緒に集めてる人たちがよういわはるんですわ、「こんな仕事、空き缶回収するよりも、他の仕事探せよ」って。僕もね「職安に行っても、仕事ないんですわ。仕方なくやってるんですわ」って答えるんですわ。「それもわかる、わかる」って答えが返ってきます。自分がやりたい仕事があったらいいんやけどね。

(面接はどのくらいの数をこなしましたか?)面接は5、6件ぐらい。やっぱり、面接行ってみて、「厳しいわ」ってあるしね。早いこと仕事が見つかったらいいんやけど、どうしようかなほんまに。(男は顔面をゆがめる。男の顔は泣きたいのか笑いたいのか判別がつかない)もうたまりませんわ。何のために生きてんのか…、ほんまに思いますわ。働かんと、金も入ってこんしね。

(以前の会社に戻ろうと思うことは?)何回かずっと前に働いてた会社に戻ろうとしたことはあるんですけど。そこに行ったらよかったんですけどね、いろいろしがらみが、なんやかんやあったから、行けなかったからね。こういう状況になって、「やっぱりその時にその会社の面接をもう一度受けたらよかったんかな」って考えてますわ。

(世間に対していいたいことは?)政権が変わることの希望はありますよ。社会がようならなあかんしね。こんな暗い社会になったらあかんし、いくらなんでも(笑)。ほんまは派遣とかなくしてほしいよね。結局、あれ小泉政権の時なったでしょ。だから、あれ切り捨てなん。何年かしたら派遣も正社員にせなあかんでしょ、でも派遣切ってね、また再雇用してね。そういうことするさかい、あかんのや。