ヤマザキナナミ(50代)

女は職安から出てくると、求人表をカバンに入れ、公園のベンチに座る。僕は女に声を掛けると、女は「何で私が求職してるって分かったの」と僕に問う。僕は面喰い、「あなたがハローワークから出てくるのを見ました」と小声で答える。女は僕の回答に笑い、取材を許可する。女は「自分はのんびりしてる」と評すが、女の口調はのんびりしていない。女は強い口調ではっきりと話す。

(求職してどれぐらい経ちますか?)3か月近く求職してますね。

(前職は?)パートでファッションホテルのフロントです。自分から仕事を辞めました。職場の環境が変わったから。上の支配人が変わって、勤務時間を変えられず、何ていうたらいいのかな。「勤務時間を変えてくれ」とかいわれたから、それに納得できなかったし。3日で1日休みの24時間勤務だったんですけど、何の理由もなく「8時間にしてくれ」とかいわれて。ちょっと年配者が他の系列の店に行かされたりとか。結果的にはそういうふうになったみたいですけど、私はそういうの嫌だったんで、辞めました。ああいう業界はいい加減な業界なんで、きちっとした決まりも何にもないし。組合とかそういうところがある業種でもないですし、治外法権的などうにでもなるような職場。あなたは中身を知らないかもしれないですけど。こっちも「あんまりいう価値のある相手でもないな」という。労働基準法も全然ね、違う。深夜手当てなんかも全然出ないし、そういうとこやから。こちらが何かいうても多分、通らんやろうから。私は個人的に気が短いんで、「こんなところにいる気もない」いう感じで。上が変わってから、すぐに自分から辞めました。

(この3か月間はどうやって生活を?)貯金で生活してますね。

(女は突然)私が一番いいたかったのは、求人する人の年齢に対する建前と本音のことなんです。「年齢不問」と求人表には書いてあるわけですね、ここにね(女は求人表を広げる)。で、面接に行くじゃないですか。結果はやっぱり「年齢が」っていう形で断られる。表立ってはいわないですけど。なんかね、表面上だけいいような感じ。だけど、「年齢不問」と表記するように変わっても、結果は一緒なんです。むしろ前より悪い、こちらがお金使って面接場所に行く分、無駄な動きをすることになるから。面接に行く時間も無駄になる。

事業所もハローワークから求職者を紹介された時点で、求人する人の年齢が最初から分かってるんですから。でも、ハローワークから依頼されたら、断れないじゃないですか。法律上、「年齢不問」と書かないといけないから。事業所も面接する時間が無駄、こっちも経費と時間が無駄。何回もそれがありました。

(それはハローワークの人にいった?)いったんですけど、「もうこれは法律で決まったんで」って係りの人もいうし。(女は僕の目を見て、投げやりにいう)まあ、あなたにいってもしょうがないけど。なんか「すごい変な法律やね」いうことで。はっきり「男性」、「女性」、「何歳まで」とか、この時点で決まってるほうが私も選べますし。「30代」と書かれてあるのに、50代の自分が最初から行くわけないし。事業所も年齢制限について面と向かっていえない状況にあるでしょ。あるけども、やっぱり話をしていくなかで結果的には、「どちらかというと、まあ、若い方を希望してます」みたいな本音がチラッと。逆に深夜の仕事に応募したら、「実は深夜なんで、男性を募集してます」とか。最初の時点で書いてあれば、行かないですよ。すごくそれが腑に落ちない。

(離職後、どれくらい企業に応募しましたか?)20件ぐらい応募して、面接に行ったんです。実際、その間に就職したところもあるんですけど、自分に合わないところで、1週間で辞めたりとか、そういうなんもあるですけど。その3か月の間にね。もうこれぐらいの年齢になると、若くはないんで、ある程度はもう、時給もそれは少ないよりも多いほうがいいんだけども、時給とかはやっぱり二の次かな。働く業種も限られてきますし、掃除のおばちゃんとかね、食器洗いの…そういうことに段々となってきますよね。必要な休みはあんまり関係ないですね。この年齢になると、「こっちが条件をいえる年代ではない」いうことですね、逆にね。「何でもやりますよ」っていわないと仕事がない。若い方なら、休みが多いとか土日とかいえるけど、ある程度の年齢になると「何でもやります」っていう。企業はね、一概にはいえないけど、若い人を求められるから、しょうがない。そういう中で少しでも自分ができそうな仕事を探す。

(必要な月給は?)月給にすれば、最低でも15万ぐらい。資格も何にもないんで、それ以上は望めないんですけど、それぐらいは生活に必要なんで。

(以前の仕事辞めてよかった点は?)辞めてよかったのはその会社と全然関係なくなったことぐらいで、辞めて見えてきたものってあまりないですよね。どっちかといったら辞めて苦労してるから(笑)。ただ、「働くんやったら、100%じゃなくても、どういう職種にしても自分で納得できるところで働きたい」っていうのがある程度あるんで。まあ、そんな感じですかね、今は。

(仕事を探すなかで、家族関係に変化は?)家族っていっても、夫は亡くなりましたし、子どもは独立してますし。あと親ですけど、それぞれ生活は別々なんで。私の状況は単身と同じようなもんなんで、私が仕事辞めようが、どうしようが私の家族の中での位置づけ、その点は楽ですね。それによって家族に迷惑を掛けてるわけでもないし。でもこのまま仕事が見つからなかったら、家族にも経済的な面でね、迷惑を掛けることがあるかもしれないですけど。

私は能天気なほうやから、あんまり考えてないですけど、やっぱり年齢的なもんで、「年を取った時に、普通に生活、ちゃんと食べていけるかな」っていう大雑把な不安がありますよね。こういう世の中やからね、年金、健康しかりね。

(逆に、希望はどんなところに見出せますか?)希望って聞かれるとね。あんまり抽象的すぎて、答えにくいですけど、自分の生き方はそれなりのものを持ってるので、健康とか経済とかは別ですけど。希望は持ってはいますけど、言葉には表しにくいですね。「前向きにちょっとプラス思考でいく」っていうあれで。具体的に「こうなりたい」とかじゃなくて、「まあ、年を取っても明るく」、そんな感じですね(笑)。

(社会にいいたいことは?)大きいくくりでいったら、みんながある程度働けて、職に就けて、普通に生活できるような体制作り。政治とかの仕組みがどうなってるのか分からないですけど、そりゃ誰だって願ってることは、「みんながやっぱり幸せ」っていったらあれですけど、「そういう世の中になってほしいな」っていうのはあります。亡くならなくていい方が亡くなっていくとかね。そういう問題を制度で少しでも助ける、そういう方向に向かえばいいですよね。