スズキシホ(50代)

150cmほどの華奢な女は小顔で面長である。女のおちょぼ口に塗られた口紅。女は肌が白いから口紅がよく目立つ。女は早口で、声が高い。女は僕を警戒している。女は簡単なやり取りで取材を終わらせるつもりだろうが、僕はしっかり聞きたい。僕はいつもにもまして、話しを聞きだすための方法を意識する。身振り手振りによる大袈裟な同意、女と似たような声量、そして相手の目を見てうなずくこと。

(今日、ハローワークに来た目的は?)今日は仕事を探しに。前職はパートで事務をやってました、業界は農業関係。前の仕事は体調が悪くなったので、自己都合で辞めました。辞めるその時点では、葛藤はなかったです。体調が悪かったから、辞めるのに踏ん切りがつきましたから。三か月後に失業保険でましたよ、失業保険を納めてたので。

(どうやって食いつないでましたか?という問いに女は不服そうな顔で)仕事辞めてから、私は主人の扶養家族に入ってますので、それで食べてますけど。

3年ぐらい休職してますかね。最近、リーマンショックでね、主人の収入が減ったのでね。あたしも働かなきゃってなったので。面接行ったんは3、4件ぐらいですかね。自分で嫌になって面接をお断りしたのもあるし、向こうからもちろん年齢的な面とか面で、面接までいかなかったこともありますしね。履歴書だけ出して、終わったっていうのもあるから。求人表は「年齢・性別不問」って書いてあるけれど、実際には違ったり、そういうのはあります。

(女は急に饒舌になる)面接まではいかなったんですけど、ハローワークで電話をしてくださるでしょ。そしたら「何歳まで」っていわれるわけですよ、例えば「40歳までです」とかね。そしたらもう50代になると駄目なわけですね。(女の声が大きく、高くなる)でね、ハローワークの求人表も見にくいんですよね。「雇用均等法も良し悪しやな」って私自身も思ってますのでね。昔やったら、求人表の性別も「女の人は女の人、男性やったら男性」とはっきりしてたでしょ。今やったら、求人表の性別見るのだって、男性も女性も分からないじゃないですか。警備員さんなんかでも「女性はOKなのか、それとも男性のみしか駄目なのか」って性別不問やからね。どの求人表をチェックしても、行ったら省かれる場合もあるし。だからその辺がね、就職するって難しいわね。検索自体もややこしいしね。すごい膨大な求人の情報量やし。
私年齢がいってますので、そういう給与、休日、就業形態の面での条件でのこだわりを現在いっていられないですし。ただ、自分の職種に合うもの、もちろん立ち仕事っていうのは無理ですし、掃除関係も嫌だから、そういう贅沢な面はあります。今まで事務っていう机の前に座って、事務職でずっとやってきたのでね。そういう意味では「ちょっと贅沢かな」とは思ってますけど、そんな中から仕事を探していくということですね。

「もういいですか。お名刺いただけますか?」と女が言う。僕はボイスレコーダーをしまい、女に礼を述べる。女は笑みを浮かべて「あなた、おいくつ?学歴は?」と僕に問う。「年は28で、院卒です」女は回答に満足したらしい。一方的な質問が女には不愉快だったようだ。「そんならいいわね、ウチの息子も国立に行ってるんやけど。まあ、将来が心配やわ」と女は言い残し、去る。