イホリヨウジ(56歳)

男は下を向いて職安から出た後に敷地内の駐輪場へ向かう。男はスラックスに革靴、暖色系のシャツを着こなす。髪の毛のツヤはポマードだろうか。男の動きのない表情、窪んだ眼窩、薄い唇、そしてどす黒い茶褐色の肌が男の表情を暗く見せる。

(今日、職安に来た目的は?)えー、今日は職を探しに。職はないですね。前職は管理職の正社員です。業界はいわゆる宅配業務といいますか、新店の立ち上げというか。「自分で独立してやろうかな」という感じで思ってたんですが、ただ今こういう景気的な状況になったので、独立するには難しいということで、まずはどこかで勤めてしばらく様子見ようかなと。

(求職期間は?)半年ぐらいです。面接までは行ってますが、年齢的に断られています。面接に行くまでの段階で年齢で落とされることも多いです。就職的な募集には「年齢不問」っていう形で書いてますけども。こちらから問い合わせしまして、実際の年齢をいいますと、「実はウチは年齢は40歳まで」とかいう形。面接までにいくまでが難しいかなと。あと、年齢をうたってない求人情報誌がありますけど、その年齢的なことで「きつい」とかどうとかいわれて。ようは全然、本人と合わない。

(それをいわれた時の心境は?)非常にあの、自分の心が少し落ちると、気が落ちるというようなことになりますね。

(年齢差別に対してどう感じますか?)そうですねえ、(男の声が大きくなる)自分では体力、気力とか十分、「まだまだ現役でやれる」と思うのに、会わずに電話だけで断られたことに対して非常に憤りを覚えますね。「仕事がきついんですよ」という。そのきついんですよに対してあなたは耐えられるかどうかを実際、試してみたりとかしない。

(企業に何件のアプローチを?)今は履歴書を郵送したりとか、6件ぐらいにアプローチしてます。

(生活はどうやって?)今は貯蓄の食いつぶしで生活してます。家族としたら、どっちかいうたら、「自分に合ったような仕事を根気よく見つけたらいいやろ」ということなんですけど。自分の中では葛藤が非常に多いですね。自分はあの、私はこうサラリーマンしてまして、40歳で脱サラしましたので。それで何かを自分でやりたい。独創性とか色んなアイデア生かしてっていうことで、やりかけたんですが、実際には世間は甘くない、なかなか独立が難しい。

その中で企業に勤めてて、管理者としてやってきて。管理者となれば、いよいよストレス、イライラがある。会社のトップクラスとの葛藤もあったりとかして、そういうことで辞めざるを得ないことも多々あるなかで、企業にまた勤めよう。そしたら今度は受け入れてもらえないという葛藤がある。正直いいますと、やっぱ、「もう20歳若ければ」とかいうような思いが、跳ね返ってくることが非常に多いなと。年齢的な負い目をヒシヒシと感じますね。特に就職、こういうハローワークで年齢差別にあったりしますと。これは私に限ったことではなくって、私以上にもっと老齢者の人がもっと厳しいだろうと。

(政治にいいたいことは?)政治を動かす力のある人たちが、我々業界でいえば、当然定年を過ぎたような人が動かしてる。で、現状、40代のバリバリの人で実際に「こうしたほうがいいんだ」と分かってても、実際にはそんなに力を持って、なかなかママ成らん、意見が通らないという世界ですよね。だから、本当は70代の人であったりとか、代表職を退けばいい。でもそうならない。そういうことに対してなんか残念だなあ、と。どなたが国の代表になっても、あまり日本の政治は変わらないんだろうと痛感してますけど。「若い世代がトップに成り代わるような日本の国政になってもらえたらいい」と思います。