イトウミチコ(58歳)

時刻は18時。夏の太陽が沈み始める。フレアスカートに薄手のシャツを着た女はベンチに腰掛け、カバンから取り出した求人表を眺めている。女の年齢は40代後半ぐらいだろうか。40代の女にはほとんど取材できていない。僕は女に近づく。

(今日、職安に来た目的は?)職探しです。仕事はしてるんですけど、午前は仕事してるんですね。午後やってる仕事が不景気で週休4日制みたいな感じに5月ごろからなってるので。それだともう生活していけないから。ということで、新しい仕事を探してるんです。家族は娘と二人だけ、(女の声量が下がる)主人はいないし。

(業界は?)京都のお惣菜の製造です。

(就業の条件は?)就業条件はねえ、京都の最低賃金が720円でしたっけ。それでも仕方ないから、「働くところがあれば、働きたいな」っていう感じですね。高ければ高いほどにこしたことはないですけれど。時給が高ければ、資格も持ってなきゃ、駄目ですしね。私は何も資格とか持ってないから。それで年齢もありますし。もう、だって、あれですよ。私が朝働いてる会社なんて、60過ぎたら自給が30円も下がるんですよ。そんなん賃金下がるなんていうことね、ふつう、年数働いたねえ、それだけ仕事上手になるわけだし、賃金上がっていくわけでしょ。ところがね、その年齢的にもどこでも働けるとこないですから、みんな仕事辞めないじゃないですか、60過ぎたら。それを見越してか知らないけどね、。今、時給750円ですけど、60になったら720円の最低賃金になるんですよ。納得いかないですよね。でも「そうでもして働きたい」っていう人がほとんどですからね。だから、そういうのは泣き寝入りじゃないですけどね。もちろんパートだから、組合もないですしね。雇用保険はついてますけど、4時間だけですから、社会保険は全然ついてないです。60前後になるとね、社会保険をつける会社はないです。社員として採用する会社はないですね。4時間もしくは五5間で社会保険に加入しなくてもよいような労働体制を取ってる会社ばっかりです。

(社会保険はどうしていますか?)今の収入で、健康保険、年金を納めることができてないですよ(女はそういい終えると、自嘲気味に笑う)。年金はまず免除の申請をしてね、免除してもらってるし。国民健康保険の保険料なんてどんなに高い!去年はまあまあ仕事あったからね。去年の収入に対して保険を掛けるじゃないですか。年の収入は約200万以内ですよ。ということは、200万で保険料は21〜22万なんですよ。そんなんね、家賃も払ってるから、家賃ないんだったらそんでもいいかもしれんけど、家賃払ってるとね、(女の声がうわずる)いくらも残らないじゃないですか。そうすると生活なんてできないですよ。本当に大変ですよ。

(役所には相談を?)区役所にね、「こういうわけで生活できないし、今、収入が減って、週休4日制みたいなことになってるから、保険を少し免除してほしい」というとね、「去年のあなたの収入がこれだけやったから、できません」っていわれて、「でもね、家賃払ってね、こんだけの収入でね。あなたたちはね、こんなんで生活できると思いますか」、「そりゃ難しいでしょうね。そやけど去年の収入はこんだけあったんやから、保険代を払ってください」、「じゃあ、払えないですよ」っていうと、「じゃあお給料差し押さえますから」って(女は僕に親しみを込めるように)いうんだよ。

(女は言葉に力を込め、ゆっくりとした語り口で)びっくりですよ。それで、「今年ね、その収入減ったっていう証拠の明細を過去3か月にわたって持ってきてください」っていわれたから、持って行ったんです。けども、「このぐらいの収入の減りだったら」っていって、たったの2万円しか免除できなかったんですよ。それじゃあ保険料払えないから、でも何とか頑張って。自分の食べるもの減らしてでも、払わなくちゃなと思って、月々1万円ずつの新しい支払い書みたいなものを作成してくれたから、何とか払ってはいるんですけど、生活なんかできない状態です。

(娘さんは?)娘は成人してるけど、病気がちで働けないんですね。そんなん誰も助けてくれないし、自分が働きゃなきゃいけないし。友だちとかとはこういう話をしますけども。

(将来に対する希望は?)もうないですよね。だってそうですよ。そんな微々たる収入で、「国保料を払えなかったら、給料を差し押さえに行く」っていうし。そんなもん、「笑うしかない」っていうか。差し押さえれるもんなら、差し押さえてほしいよね(女は力なく笑う)。ああいう人たちにとって私らの存在なんか、関係ないですもん。前は15から16万ぐらいの収入だったんですけど、今は12万ぐらいです。12万だときついでしょ、家賃を払わないといけないしね。

(就職活動は進んでますか?)男女雇用機会均等法でしたっけ。求人表に性別、年齢差別を書いちゃいけないみたいなね。でも、求人表にそういうことを書いてなくて、面接に行けばね、年齢やら性別やらで採用されないとかね。あんなのは全然意味ないですよね。最初から「年齢はこれ以下」とうたっておいたほうが、こっちも仕事探しやすいしね。わざわざ駄目な面接に行く必要もないしね。採用する側が交通費を出してくれるわけじゃないですしね。男女平等なんてことは絶対にないんだから、年齢も性別もきちんと書いてくれはったほうが仕事も探しやすい。「とりあえず、面接に来てください」っていうじゃないですか。ほんで行くと、「ああ、申し訳ありません。うちはもう35歳までしか採ってないんですよ」とかっていわれて、「はあ?そんなんいうんだったら、最初から書いとけよ。最初から年齢聞いといて、『面接来てください』っていうなよ」みたいな、そんなんありましたね。

(今のお話しをを職安の職員さんにいうことはありますか?)そういえば、そんなことをいわないですね。あたしもそんなに職員の人に相談してるわけじゃないから。2年前に今の仕事に入ってね、5月から探してるけど、なかなかいい仕事がなくってね。今日、久しぶりに相談をしたのですけどね。今日の担当して頂いた職員さん感じよかったですよ。ハローワークに行けば、ハローワーク自体に権限、権威というか、「とりあえずちゃんと対応してくれる」っていうのはありますね。

(1つのパイを巡って50人が競争をしていて、他の49人を蹴落としてでも就職したいですか?)そういう気持ちはないですね。だって、蹴落とすという立場にいないから。仕事探してる人はそんなことをしないし。私は就活してる若い人たちとまた違うじゃないですか。雇用する側のいいなりですよ。「年齢的に駄目」っていわれれば、ああそうですか。「時給はこのぐらいです」っていわれたら、ああそうですか。納得せざるを得ない状況ですよね。だから、時給下がっても働くしかないですよね。

(世間にいいたいことは?)税金をもっと安くして欲しいですね、市民税、府民税、それから国保税ですか。あと、年金も一律8万円だとかうたって、今選挙やってますけど、やっぱりきちんとしてほしいですね。税金を全く取らないっていうのはあれですから。そういう状況を見てね、例えば、たったね150万から200万台の収入でもね、持ち家に住んでる人と家賃払ってる人では違うじゃないですか。そういうのをね、「考慮してほしい」って私、悔しいから、区役所の人にいったんですよ。そしたらね、「1件、1件そういうなんを調べるわけにはいきません」っていうのよ。だからね、それもね、すごい憤慨したんです。だって、その収入の中でね、家賃も払ってやっていくとなったら、大変じゃないですか。そんなんをね、1件、1件ね、調べるわけにはいきませんからって。光熱費、食費と家賃、それから国保税とか、ちょっとの借金を払って、残る生活費は2万とか、2万5千円とかね。どんだけ大変かって。

(こういう状況で色んな葛藤があると思いますが、どんなことをお考えになりますか?)家も実家もあるし、「帰ってこい」っていわれるんですけどね。「こんな生活してたら、帰ったほうが楽かな」って思うじゃないですか。「どうしようかな、でももうちょっと頑張ってみようかな」って。出身がここじゃないですから、関東と東北にね、私の実家と結婚した時の家があるんですけど。そっちに帰れば、家賃も払わなくてすむから楽ではあるんですけど。毎日それを考えますよね。「どうしようかな、帰ろうかな、頑張ろうかな」って。理由はあえていえばね、京都が好きなんですよ。なんていうんですかね、若い時、京都にいたんで、5年か6年仕事もして、住んでたのでね。それで、「京都好きだから」という理由で、京都に戻って来たんですけれど、やっぱりね、こういう状況だからね。「好きだけでは暮らせないのかな」って思うんですけどね。