ミツイシゲル(59歳)

男は携帯電話を片手に持ち、職安の出入り口で誰かと話している。「今、ここに来ましたから、ええ」。男はサングラスに土方ベスト、薬指に大きなスカルの指輪を身につける。白髭、色黒い肌、骨ばった二の腕。男は160センチに満たず、痩せている。年齢は60代から70代ぐらいだろう。男は弱々しく見えるが、身につけるモノがそれを隠そうとする。男は僕が自己紹介をすると、話だした。

半年ぐらい失業してる。前の仕事はパートの清掃業。今もパートで探してる。パートしかできんから、年齢的に60に近いんで、来年もう60になる。今年で59。来年やったら還暦迎える年やからな。

俺が12月の末ぐらいから食中毒かかってもうて。仕事が1月7日ぐらいから始まっとったんやけど、1週間から10日ぐらい寝込んでもうて。ほんで、会社に連絡入れんの忘れとったんやな。あとから電話しても、そういう連絡してないんやから、相手も嫌がるんもんな。それからもうずっと、ここのハローワークに通いづめ。その時はもう、「自分が悪い」思た。やっぱり連絡入れてないだけに、あれでもちょこちょこ連絡入れとったら、まだ復帰できとったかもわからん。そらもうしゃあない。まあ、迷惑もかけてる。信用も掛かってるから。こういう仕事は信用第一や。

(今はどうやって生活を?)今、役所に世話になってる、保護受けてる。それで何とかしのいで、家賃も払て、アパート借りてるから。仕事、はよ見つけなんだら、追い出されるから。今、そういうなん多いやろ、派遣切りがあってから。俺らみたいなパートなん、簡単に首切るやん、「もう要らん」いうて。ほやから、早うね、ちょっとでも稼げたらいいね。ほたら、パートと役所の両方から金もらえる立場になるから。パートで12万までやったら、役所の金がナンボカか引かれるけど。ほたら、何とかコツコツ貯められながらも、やっていけるやん。今ははっきりいうて、何もしてへん状態やから。

夏場はちゃんと食わなあかんし。食べれん時もあったけんな。役所の金って12万そこそこやんか。どうしても家賃払ろうて、光電に1万近くの金払ろうて、何やかんやいうたらそんなに残らへんやんか。米なんか買うたら5千、7千円やんか。おかずだけでも安いとこ探しに行ったって、2千円、3千円するんやもん。12万ぐらいやったらな、しんどいもんな。そやけど、「仕事早く探がそう」思ても、仕事ないし。そやさかい役所にも今、電話したとこなんや。そら、向こうも分かってるから。仕事探してる意志があれば、簡単に追い出すことはできんから。「活動してますよ」という報告しとかな、お金止められるし、「あの人は真面目に仕事探しやっとんかな」って疑いがかけられる。そしたら信用なくなるかもわからへん。下手したら、お金が止まるだけやなしに、家も出なわからん。俺、野宿したことあるけど、また野宿せなあかんなるやん。それは嫌やから、今こうして1週間に1回か2回必ず役所に連絡してる、「面接受けたけん」いうて。

(早く仕事したい?)仕事をしたい意志は強いで。その気なかったら、ハローワークなんか通わへんで、また野宿せなあかん。仕事に就かな、今みたいな部屋あらへんがな。ちゃんとこっちがやることやってんのやから。(男は早口で、語気を強める)仕事見つからんのはしゃあない、俺が悪いんじゃない。俺はちゃんとハローワーク行って、面接受けとんのやけど、向こうは断るから、しゃあない。なあ、脅迫して仕事やっていいわけにはいかんやろ(笑)。

(ご家族は?)家族は松山や。俺、元々、愛媛の松山の人間やから。もう、京都は3年ぐらいか。その前は大阪で仕事しとったんや。それで何気なしにこっちへ来てから、路上生活して、役所のお世話になったんや。NPO法人の人が手を貸してくれて、役所に保護を俺と一緒に頼んでくれて。そんで今の生活、なんとかやってる。ほやから、はよ仕事見つけなんだら、追い出される立場やから。65以上の人やったら、自然に足も動けなくなるんやろうけど、まだ5年も6年もある。だから、「まだ仕事いける」いうて。最低、64までは探して、仕事しとかな。ほらもう、年金もないはずやから。そら不安はあるで、こういう状態やから。そら自分がクビになったんは誰も悪ない、自分が悪いんやから。そやけど、好きで病気になったんやないし。じゃけん、タダで役所の金もらうん、違ごうてないし。

昔は、40そこそこまでは鳶やっとったんや。ほんで、今は違う仕事を探してるわけやな。もう、鳶はできんから。じゃけん、(男は建設中の商業施設を見上げて)こういう細いとこでも上がれることは上がれるんやで。鉄が相手やん、建築のやつは。あそこでもやっとるリレーの足場、クレーンとか。もう、できん、無理。腰痛めてもうてな。タマカケと足場の免許は持っとんのやで。

(求職条件はなんですか?)条件はない。ここの京都は求人見とったらな、大体1時間800円や。その仕事でもいいわ。

(業界のこだわりは?)ない。年齢的にも上がってる、今の若いもんみたいに動くような仕事できんし。腰痛めてる人間なわけやから、どんな仕事でもやるというわけにはいかんけど、ようは自分の場合は軽作業、清掃業しかできひんやん。こうやって座ってるだけでも腰痛いんやからな。じゃけん、腰ぐらいじゃ役所も金おろしてくれんがな。そやけん、ずーっと仕事があったら、安定した家もあるんやから、そっちでずっといけるわな。まあ、自分の場合は宿命やろうな。年金ないやんか。手に職つけてないし。まあ、鳶職で手に職つけとったけども、もう鳶はできんから。もう一からパートの仕事探して、足が動けけなくなるまで継続的に仕事できたら、あとは勝手に福祉の世話になるやろうけど。それまではやっぱり地道に働いて、頑張らなしゃあないわな。

(今の悩みは?)「悩みはない」いうたらウソやわな、やっぱ年が年やけえ、寂しい。友達もおらんけんな。兄貴3人おるけど、俺らは他人と一緒やけんな。親だってもう、縁起悪い話やけど、逝ってるかもしれんしな。もう30何年帰ってないからな。親族とはもう交流ない、今さら、会ったってな。(男は沈黙する)娘がおんのやけどな、心残りはその娘に一目だけでも会いたい気持ちはある。もう離婚して、俺の子どもじゃなくなってけども、血は今でも繋がってるけんな。