ミワカンジ(61歳)

男は「釜ヶ崎」と白地でプリンとされた黒いTシャツにジーパンを合わせる。男は大阪に住んでいるのだろうか。男は男にとって身近なことは聞き取りがたい小声で、逆の場合は聞き取れる声で話す。僕は何度か男に尋ね返す。

(いい仕事は見つかりましたか?)年齢があるから、やっぱり60を超えたら、仕事がないのが多いですよね。実際それが一番多いんちがうかな。結局、ハローワークの募集かて、「59歳まで」が多いでしょ。年齢不詳もありますけどね。自分に合った仕事を見つけるために年齢制限にあってしまっては、60過ぎたらないですよ。食べていかんなんし、厚生年金をもらろうかて、まだ61やし、あと4年先やし。政権変わっても、仕事どないかしてやらへんと。やっぱり、景気良うならへんかったら、仕事もないし。僕ら、製造業やから、仕事余計ないですよね。だからいうて、「営業せえ」いうたかって、行けんことはないんやろうけど、営業する年齢ちゃうし、そういう面では難しいですね。

(今は失業中?)うん。7月いっぱいまで働いて、8月からまるまる活動してます。やっぱり定年に近いから、「辞めてもらおうか」という形ですわね。自分も年を感じるから、会社は若い子ばかりやからね。順番的にいうと、自分で自覚して、自分で辞めざるをえんような年齢に達してくるから。定年退職金がない会社やったから。僕は退職金の要求はしてるはしてるんですけどね。だけど、そういう制度がない会社やから、「どうかな」いうて。まあ、上の人は考えてくれてるみたいですけどね。だけど、退職金をすぐパッと出すいうことには。自分が権限を持ってるわけじゃないし、会社の偉い人が持ってるんやな。

(以前のお仕事の業界は?)服飾の業界やね、小さい会社やから工場の名前はいいません。実質、解雇は会社都合やけど、自己都合で退職。

(葛藤は?)葛藤しますな、やっぱり。ある程度の貯えはあるからね、やっていけるやろうけど。先は不安ですよね。「厚生年金とかなんぼ欲しい」とかは別に思わんけど。

(退職をご家族に言うことにためらいは?)家族に会社辞めることをいう時は、なかったよ。「還暦も過ぎたら、あくせくせんといいんちゃうか」って。子どもも大きいからね、結婚して孫もおるような年やから。辞める時には、家族のモンは初めから感じてるから。「そろそろ足洗ったら」という形で。自覚せなしゃあないね。自分が元気で仕事やっても、結局、若い人に任していかへんかったら、企業伸びひんし、年寄りばっかりやってたって、そんなもん前に進まへんから。ただ、働く意思はある。我々の年齢の人間いうのは多いですやん、「何があっても仕事せなあかん」いう気持ちが。それが若い気持ちに繋がるんちゃうかな。だから、フラフラしてるとあかん。一生懸命、仕事を探さなかったら、雇う側も「この人年より若いな」思たら、使こうてくれはるし。まあ、「負けへんように、生きていかなあかん」いうことですわ。

(ハローワークの職員さんをどのように評価していますか?)昔のハローワークと違ってね、言葉ジリをつかんで、どうのこうのやったりはしないし、差別もしないし。今のハローワークはやっぱり丁寧にね、相談してくれる。そういう職業を必死になって探してくれてはるから。まあ、丁寧さからいうたら京都は大阪には負けるけどね。大阪はもっと丁寧に相談に乗ってくれる。そら、橋下知事さんのおかげかもわからへん。

(仕事がない?)大阪と京都で仕事探してもないね。実際に、募集が少ない。第一、衣料関係自体が少ない。僕は大阪の谷町で仕事してることが多かったから。大阪の服飾のメーカーさん自体がやめてるでしょ。今はもう拠点が中国やから。だから、我々には仕事は回ってこない。不況の転換期は大方もう20年ぐらい前になりますよ、もうぼちぼちきたんはね。我々が独立して商売やってる時分はものすごい景気のいい時でしたからね。何やっても、もうけたけど。製造業で仕事なんぼでもありましたからね。だから、どんなええ商品でもばーっとできたけど、景気が15年から20年でおかしくなってきたから。結局、日本の働く人の人件費が高い。

(仕事が見つからないと気持ちがめげませんか?)気持ちはめげんな、もう、めげてられへん。だから、振りむいとったらあかん。やっぱり常に前向いて走らんと。もう不景気やから余計に。「なんでもしようか」っていう気になったら、できるから。自分が技術持ってても、手放してもいいやん。土方しようが、職業に関わらず、やるんやったら、「自分が働きたい」と思えば、簡単に就職できるよ、年齢もあるけど。

(雇用の条件は?)夫婦二人で生活するだけやから。家内は60過ぎてるから年金を、はよもらってるからね。僕と家内だけやから、「別にあくせくせんでいいよ」っていうから、雇用の条件的には全然何もないですわ。やっぱり、人間、贅沢いうたらきりがない。甘んじなとこでは甘んじなあかん。妥協せなあかん。自分の生活のランクを上げたいのは分かるんやけど、今の不景気の時代に仕事あるだけでもいい。やっぱり、働くことに意義があるのであって。「生活やっていかれへん」いうたかって、それはそれなりに新聞配達するなり、何か他のアルバイトをプラスすれば、4、5万にはなるんやから。年齢からいうたら、僕ら「820〜830円、800円もあればいい仕事や」と思いますよ。そらもう670円とかいう会社でも、会社がそれしか出されへんのやから。「この年齢やから、時給にこだわらないんだ」と思いますよ。自分の子どもみたいに若い子にも偉そうにいわれるし。「それもはいはい」って聞かなあかん年やし。それは仕方ない、時代の流れやからね。

子どもさんもっておられる若い20代、30代いうたら、大変やよ。今の若い子らは不平不満、ものすごいある。ただ、それをいうか、いわんの差で、もうあきらめ。だから、「景気ようなる」いうたって、末端の人間には不景気が続いてますやんか。日本の国を支えていかはる30代、40代の方たちの給料を上げていったらなあかん。おっちゃんらはほっといたらいいねん。自分の人生を生きてるんやからね。今の政権がこれからの世代の雇用のことを長期的に考えてあげへんかったら、生きるスベをなくしてしまう。それは議員や役所の責任やし。

(将来に対する不安は?)不安は別に感じてない、うん。それはもう自分自身が納得して人生を生きてきとるから。今更、世の中に不平不満はない。落ち込んでたらあかんと、今こそ、石ころ拾ってでも、頑張らんとあかん。それが積み重ねで自分のためになるだけやからね。人のために働いてるんじゃなしに、自分自身が生きていかんならんのやから。誰に頼っても、人のせいにするのもあかんやろうし。今までの貯蓄と奥さんの年金で食べてる。だから、そういう計画性がちゃんとあれば、しんどい目しないですやん。だけど、計画もないと「金一銭もないねん」いうのは、そら自分自身が悪いわけですやんか。毎日食べていかんなあかんのやから。それが一番問題。それはしたらあかん。

自民党も敗れて、時代も変わると思うよ。日本はもう官僚やから。官僚は驚いてると思うけど、それをどう組み替えてくれるかや。やっぱり景気変わるのは5年以上掛かる。今の民主党政権がずっと続いていったら、たいしたもの。社会は自民党時代よりもようなる。自民党も「これではあかんな」思て、考えを変えるやろうし。期待は大きいけど、あんまり大きな期待はしんほうがいいよ。そんなに変わるもんじゃないもん、変わるんやったらうれしいよ。