ヤマナカジロウ(60代)

きちんと刈られた乱れがない白髪。縁の太いメガネ。はれぼったい手のひら。スラックスに少し大きな半そでシャツ。履きなれた革靴。男は生真面目な人に見える。僕と顔見知りになったチラシ配りのおばさんが「聞いてやって」と少し強引に男を僕に紹介する。おばさんはこの男との会話に疲れたようだ。僕は自分の目的を男に伝える。途中から、男は自分の物語を語り始める。

あの仕事ないからな、50すんでるさかいに。ほんで、仕事あるのは駐車場管理とかねトイレの清掃。あんなんばっかりやからね。だから清掃とかあんまり行きたないし。今まで、ウェスティン都とかの駐車管理とかね、あれは行ったんやけどね。あれはホテル自体が広いからね。ほんで、「地下駐車場行って」とか「2階、3階いって」とかいわれるとね、端から端まで歩かんなんしね。ほんで、それ一日に何べんもそれいわれると体がついていかんし。特定の場所だけでよかったらええんやけども、距離的に「あっち行け、こっち行け」いうて、一日5、6ペン走らんならんかったんからな。無線で何かいわれても、電波の入りが悪うて、怒られたりとかね。あこらのお客の言葉使いがね、もうしょっちゅうやられてばっかりやった。「どこどこの会館はどっちや」とか聞かはるさかいね、「ここで車置いてもろうて、フロントで聞いてください」とかいうたんやけど、「ちょっと言葉使いが荒い」とかなんやかんやいわれたさかいに。ちょっとのことでケチられるさかいに。ほんで、こちらからもう「体力的にもたんから、辞めさせてもらいます」いうて、2か月で辞めたけどね。あこ四条のとこも行ったけど。試用期間いうんかな。交通費もつかへんし、日給とか時給もつかへんし。採用やられるまで、ただ働き。こっちが何日もガソリン代やら交通費やら食費やらみな考えたら、赤字きついさかいに、ほんでこっちから辞めたんやけどね。せめてね、交通費とか何がしかつけばいいんやけど。交通費もつかんわ、日当もつかんわね。ほんで、職安で世話になってもうたセブン・イレブンかて、面接行ったんやけど、建物自体がなかったし、原っぱ、空き地やったからね。ほんでセブン・イレブンの事務所に電話入れたら、「ああ、そうでしたね」いうてバカにしたような返事やったし。自分で「ほな、もうええわ」いうて。その日に、前の会社行っとった奴から電話あって、「こうこうで、忙しいさかいに、説明を聞きに来てくれへんか」いうてたさかいに、ほんで行ったら、「パートでも結構ですし、雇ってもらえたら、寄せてもらえます」いうて、「ほんなら来てくれるか」いうことで、僕は4年半ほどそこに行ったけども。

(そこでどういうお仕事をされてたのですか?)充電器を作る会社やけどね、各部品を作る管轄があるさかいに、そこで働いてて。全般的に去年の末ぐらいから仕事がヒマになってきたようなことを自分で感じてたから。ほんで、「ぼちぼち何やなあ」思てる矢先に、「もう、仕事なくなってきたから、辞めてもらえるか」って声掛けられたさかいね。会社におっても、そこらの現場の掃除とかそんなんやってても、それ以上ヒマになるんやからね。「しゃあないな。仕事ないのに粘ったところで、粘り損やなあ」と思たさかい、「もう、結構です」いうて、辞めたんや。僕が聞いてた時点で、僕が3月いっぱいで切られて、6月いっぱいでまた二次の派遣が切られて、10月頃に社員を減らしていく話しやったから。そら、僕がここ5年ほど前か派遣で入る前はもっと切られてるからね。

親が障がいやからね。お袋から「具合悪い」とか電話掛かってきたら、僕が帰らんとどうにもならへんからね。ほんで、ちょいちょい帰らんなんことあったさかいに。「あんまり時間的に硬い会社もなんやな」思て、毎日あらかたここに来とるけど。年齢的なこともあるし、自分の思うような職場がないからね。僕も長いことここに来とるさかいね、雇用保険が今月で終わるからね。一生懸命ここに来とんのやけど、一日座ってても同じやさかいね、帰るんやけど。親が家におるさかいに、またいつ親から電話掛かってくるやらわからんし、食事の用意もやっとかんならんし。

(月の給料はどれくらいをお考えですか?)「給料20万ぐらいはなるべく欲しい」思てんねんけどね。前の会社で残業代込み、総額30万ぐらいでなんやかんや引かれて25万ぐらいあったやん。「最低それぐらい欲しいな」と思てんねんけど、あらへんからね。「上見たらキリない、下見たらキリない」いうやつでね。ぜいたくいうたらキリないやけども。「衣食住やろう」思たら、20万は最低欲しいし。ここで雇用保険もらっとってもね、ほんなん10(とお)ぐらいでは、衣食住ができひんさかいね。今まで蓄えた銀行の貯金、つぶしていってるけどね。ギリギリの線やさかいに、気はせいてんねんけども、思う仕事がないさかいに。自分一人やったら、3食食うてた飯を2食にやって、切り詰めるとか、1食にするとか。今まで僕は飯食うとったけども、今はパン食1枚で一日生活やってるもん。腹は減っとるけども、その「減った」いう感覚があらへんもん。「パン1枚食うたら、今日、一日これで終りやな」と思うぐらいで。この何か月で12、13キロ痩せてるよ。前、70キロ手前まであって、肥えとったさかいに。今55、56キロしかあらへん。親にも「食べるもん食べんとあかんで」っていわれるけど。でも、やっぱり自分のことより、親を食わさんとね。体力なくなってきてるさかい。自分は食わんかっても、親には標準の栄養のつくもん食わさして、「一日でも長く生きてもらおう」と思てるさかいに。やっぱりお袋見て、何やったりしたら、月に20万ほどいるやん。「一日食わそう」と思たら、おやつないのも寂しいやろし、一日おやつだけでも1千円ちこう使うし。それにおかずや何やかや、なんぼ安く見積もっても、3千円ほどいるからね。「お袋のためにすき焼きやったろう」とか「鍋やったろう」とか思うさかいに。でも、毎日そんやるわけにはいかんさかいに。僕かて年がら年中、漬物と水だけで生活できひんからね。介護やってても、家は自分のものでも、食べさせなならんし。

(面接はどれくらいいってますか?)この5か月間で2、3件面接に行ったけども、求人募集の項目自体が違うさかいに。その1か月や2か月間の駐車管理の募集に行っててもね。「結局うちとこかてね、一から教えんならんし、また日にちが掛かるさかいに、結局右から左に使用できひんから。手当て出すのもね、それでは困るしね」、「条件合わんかったら、面接受けたけども、ここで断らさせてもらいます」と僕がいったりね。相談員に相談して、相談員が「そうですね」とはいわはるけども、ほんで仕事見てくれはるけどもね。その僕のいう条件に合うとこがないからね。しゃあないさかい、毎日、朝一番に、朝9時か10時頃に来て、1時間閲覧できるパソコンぱーっと見るだけ見て、帰ってるんやけど。週に求人データを変えるいうけど、ここかて一週間にいっぺんぐらいやんか。大体、見ても毎週同じ求人データばっかりしか出えへんからね。そら、僕のいうてる条件が横着なことは横着やけども。お袋を見ながら、そこそこの収入があるような仕事がないしね。この近辺でバイクで30分か1時間ぐらいの勤め先やったらいいけども。求人データ見ると亀岡、宇治とか城陽とかああいうとこばっかりやしね。会社から「右から左に帰っていいわ」ってOKもらっても、その通勤に1時間も2時間も掛かってたら、そのうちに「何分前に誰々がお亡くなりになりました」そんなんばっかりやしね、兄貴ん時も親父ん時も最後見届けられへんかったさかいに。僕が四条の松尾の近所に行っとった時分やけども。タクシーで帰っても、やっぱり30分は掛かったさかいに、その間にあかんかったからな。そんで、「会社が近くで、条件にあったところで」と思うさかいに。ただ、もうお袋も93歳やからね。こんなこというたらいかんけど、やっぱり最後は見届けたいし、その勤務の間に電話もうても、「あかんかった」いうんやったらね。僕は一人やったら自分の生活だけやっていけたら、大阪でも城陽でもかまへんのやけども。今のお袋が日に日に弱ってきとるさかい。

姉かて、所帯持って子どももおるからね。やっぱり所帯の衣食住もやらんならんから、おかあちゃんのことばっかり見てられへんからね。僕が、はよ職安行って、はよ帰っておかあちゃんの飯やったらんならんから。これからスーパー買い物行って、作って、食わさんならんから。ほんで、フロも早い時間に入れたらんと。「眠たい」やら「エライ」やら「暗くなってからフロ入る嫌や」いわれるさかいな。毎日、食わして、介護やって、寝んのが午前1時か2時頃や。ほんで起きんのが午前5時や。「眠たいなあ」と思てるけど、介護と生活をやっていかんならんさかいに。ほんでもバブルの前期、首切りようあったやんか。その時分にいっぺん切られた時には1年6か月何あもんせんだからな、ここに来ながら。

「どうやって生活していくのか」を余計に思うさかいに、毎日、頑張ってきとんのや。ただ、面接なんやいうて、向こうが「この人はアカン」と思たら、その場で「オタクとは合わんさかいに」いうてくれたらええけど。「検討させてもらいます」いわれて、1週間なり10日なり経ってからね、やっと返事くるからね。そんなこといわはるさかいに、僕もその気あるから、「そういうてくれはるねやな」って思うし。ただ、1週間なり10日なり待ってる時間がもったいないからね。「僕はこの会社に期待してええもんや」と思うさかいに、仕事探さんと介護ばっかりやってるさかいにね。

(相談できる友だちは?)心安い友だちがいるけども、今、社員かて切られるいう話やさかい。ほら、僕らのこと思うより、自分らのこと生活のこと考えなんさかいな。ほんで、僕のこと思ててくれてても、自分の個人的な状況を考えなんわな。