台風の日

台風である。
午前10時42分。
俺は免許証の受け取りのために、交通安全協会から呼び出しをタイミングよく食らった。
「はいはい、今から行きます」と適当に答えた俺は、しかし行動はまっとうで、約束を守り、
台風のなか交通安全協会まで歩くのである。
どういうわけか、俺が外に出てしばらくたつと、雨風が強くなり、俺は膝から下を濡らしてしまう。

俺を呼びだした交通安全協会のおやじは
「不在通知表は届いてなかった?送料の800円が無駄になったね」といい、
俺にはそれが皮肉に聞こえる。
俺は「どういう了見で800円が無駄になったんですかね。それで稼いだ人がいるでしょう」と答える。
おやじはむっとした顔をして、俺は交通安全協会を後にする……というのは俺の妄想だ。
実際の俺は「はあ、そうですね」と答えて、おやじは肩透かしを食らった顔になる。

そのあと俺は地元の和菓子屋でおはぎを買い、これに合うのは緑茶に違いないが、
ローソンが俺の目の前に立ち、だから淹れたてのコーヒーが俺の頭に浮かぶ。

しかし頭に浮かんだことと実行をすることは別物である。
俺が近くのローソンに立ち寄った理由は
かわいい店員が見えたからだが、どういうわけかその子はレジの奥に引っ込んでしまい、
レジの担当は肥満、長髪の中年女で、残念な気持ちで俺はコーヒーを頼み、金を支払う。

案外にローソンのコーヒーは苦味や酸味が強く、おはぎに合わない。
だから俺は鍋に水を張り、お湯をコトコト沸かす。
アメリカンにしよう。
たった今、お湯が沸き、俺はアメリカンを作るが、ローソンのコーヒーは一向に濃いままで、やはりおはぎと合わない。
仕方がないので、コーヒーを捨て、白湯を作る。

おはぎといえば、おばあちゃんであり、そのおばあちゃんはあの世にいる。
俺はおばあちゃんがおはぎを作って、俺に食べさせてくれたことを思い出す。
俺にとってのおはぎは母のこしあんだったので、おばあちゃんが作った粒あんのおはぎを見て、俺はびっくりした。
おはぎにも色々あるのだ。
おばあちゃんのべちゃべちゃしたおはぎは美味かった。
もう25年も以上の前のことだ。

白湯が美味い。おばあちゃんのことを思い出す。
雨風は一層強くなり、風が涼しい。世の中のニュースはどうでもいい。
こんな日を割と幸せに感じるのだ、俺は。