ばい〜〜〜ん

階段を上るとき、
人ごみだと思える平坦な道を歩くとき、
ある男は瞬間的に加速する。

1歩、2歩の瞬間的な早足。
それは後ろから歩いている人や
並んで歩いている人にはわからぬものであり、
特に子どもなぞには決してわかるまい。

あれ?
いつの間にか距離ができている
という不思議な歩き方。

車を加速させる時、アクセルを踏み込む。
それと少し似ているかもしれない。

そのような男を見かけたら、
男は平静を装い、加速するさいに
次のようにいって、少しうれしくなって、
自己愛に浸る。


ばい〜〜〜ん


男はいう。
「中年になると、立ち上がるときに、『よいしょ』っていうじゃない。
それと似てるんだよ。時には『ぼい〜ん』とか『あい〜ん』とか
いってんだけど。やっぱり『ばい〜ん』が俺の体に1番ハマるんだよね」。

その男とは私のことだ。
こんな中年男が世の中にはいるのだ。