我が家に来た猫

「よろしくです!」と
そのブリーダーは別れ際、僕に言った。
「こいつとずっと一緒に楽しくいてやってください」
と僕は解釈した。ブリーダーはこいつの晴れの日を
お別れの意味を込めて、シャンプーで応えた。


僕らは地下鉄に乗り、
僕はこいつの名前を決めかねていた。
たまお、あめお、みゃんおう、梅吉、梅子、うめお、むっちゃん・・・
それで僕は時計を見たときに
「きっと家に着くのは7時ごろだろうな」と思った時に名前を決めた。
うちに着く時間が7時。
彼女の名前はななに決まった。


ななは一度も鳴くことなく、
我が家にたどり着いて、1時間半はバックから出てこなくて、
バッグのヒモをガジガジと噛み、
それから部屋をじっくり見分した後、
少し落ち着いたのか。次に走り回って、
またたびをまぶした爪カキで爪とぎをして、
段ボール箱やらプチプチやらをかじり、
僕はベルトや空のペットボトルを使って、ななと遊んだ。
ななの甘噛みの癖は今も続いている。


僕は餌と水とトイレを用意したが、
ななは餌と水は取らず、トイレはどういうわけか
ななの一つの居場所になっていて、僕は
「あんた、そこはトイレだよ。なんでそこんにいんの?」
といっても、ななに通じない。
ななは玄関の土間が好きらしく、片隅に身を寄せていた。


僕が風呂からあがって、ななは僕の足に体をこすりつけてきた。
僕は椅子に座る。ななは僕を見上げていたので、抱いて、
それからななを撫でた。ななはゴロゴロと喉を鳴らしているのか、
鼻をならしているのか、それとも先天的に鼻が悪いのか知らないが、
ゴロゴロという音がしていて、猫の本に寄れば、
これは甘えたいということらしい。


とにかく我が家に猫が来たのだ。
知らない生き物と同居している不思議。
なんだろうか、これは同棲初日のようなぎこちない感覚だ。