魑魅魍魎 出版ネッツ関西主催 新年会&名刺交換会

1月21日、出版ネッツ関西主催、大阪市中央区OMMビル20階東天紅・コンフィデンシアで行われた新年会・名刺交換会。参加者は100数名。参加者の肩書きはデザイナー、コピーライター、ライター、カメラマン、イラストレーター、企画編集者、ノンフィクション作家、翻訳家、校正者、営業部課長等。パーティーの形式は立食型。レポートは以下の通り。

魑魅魍魎。決して明るくはないオレンジの照明の下で、老若男女たちが蠢めく。熱気が会場に渦巻いている。ほてった会場。エネルギーの塊。誰が景気がよいのか。誰が権力を握っているのか。誰と誰がどういう力関係なのか。誰が誰に何を話しているのか。知らない顔、あの人は誰だろう。私は誰に営業するのか。相手を見定めること。視線があらゆる角度に飛び交い、ぶつかり、交差して、すれ違う。

末は博士かと思わせる白髪交じりのチャイルドカットの中年男に近づく人は誰もいない。スーツを纏った大勢の中年男はスーツを纏うがゆえに、どれも同じ顔に見えてくる。膝から下がジップ式のレザーパンツを身に纏った180cmを超える若年男は手持ち無沙汰だ。かと思えば、ライトブラウン色のロングブーツを履き、ナチュラル系ファッションで装う中年女がいる。帯締めをビシっと締めてキメている着物姿の中年女はすでに他の者と談笑している。全身をブランドで身を固めた社長婦人風の中年女は7cmほどのヒールを鳴らして、自身のオーラを振りまく。限られた人だけが彼女の元へ近づけるように。

男のファッションはおおよそ3つに分類できる。昔購入して着崩れたSPA系、スーツは立派だが足元が頼りない系、最後に服も着こなしも髪型も崩れていないカジュアル系である。前者2つが7割を占める。つまり、男たちの多くが身なりに気を使わない。他方、女のファッションはスーツ姿が多いが、それぞれの顔がよく映える。化粧を念入りに施し、服のディテールと色で奥行きを演出し、髪の毛をきちんと手入れしているからだ。つまり傾向として、女たちの多くは相手のための、他者から見られているというファッションであり、男たちのそれは自分のための、他者の視線を気にしないファッションである。僕は他者の視線を気にしないファッションを好まない。他者の視線を気にせず、他者を一方的に見るという態度が気に入らない。お前はちゃんと見られている。僕はお前を見ているのだ。

会を開くに当たり、主催者側が一人ずつあいさつを始める。去年の出版業界はどうやら好調だったらしい。面白い話を聞かせてくれる。しかし、何人目の方の話は内容がない上に長い。僕の隣にいたデザイナーの顔が少しずつゆがみ始める。とっとと乾杯しろ、飯が冷める。僕はデザイナーの顔色を伺いながら、小声でデザイナーと会話していると、若い女から睨みつけられてる。睨みつけらる理由は理解できない。しかたなしに僕は会話を止める、新参者だからだ。

そのうちにビールで乾杯である。新参者は愛想が大切だ。僕は直ちにビンビールを手に取ると、デザイナーにビールを注ぐ。デザイナーも僕に気を使うが、僕はアルコールを飲めない。車を運転するからだ。どうしてこんなに立派な会場なのにテーブルにウーロン茶一つもないのだ。僕は取り残される。

乾杯。

この合図で参加者は渦になる。いかにして自分が相手側を巻き込むかという渦。いかにして自分は相手側の渦に巻き込まれるかという渦である。そうしないと自分は手持ち無沙汰になる=会場に浮くことになるし、おまけに今後、仕事を得られるかどうかもわからない。自分を売り込むのだ。

すでに浮いた数名は食事がある中華バイキングコーナーで列をなす。僕の腹は減らない。4500円の会費の元を取るために昼ごはんを抜いて、意気揚々に楽しみにしていたのに。それどころか食事を取りたくない。焼き飯、中華焼ソバ、エビチリ炒め、白菜の炒め物、フルーツのメロン、パイン等々。どれも美味しそうだ。胃に鈍痛がする。どうして。緊張しているのだろうか。火照った身体を冷ましたい。僕は杏仁豆腐を食することに決める。これならさっぱりしてるし、実際にさっぱりしていて、喉越しがいい。喉をゆるゆると通り抜ける冷たい杏仁豆腐。美味しい。

先輩のライターが僕を様々な方に紹介して下さる。「彼は陶磁器に強いから、○○さん、何かあったら紹介してあげて」「○○さん、彼はガクサン系は駄目みたいだけど、何かあったら教えてあげて」等々。僕は彼女に頭が上がらない。そもそもこの人がいなければ、僕はここにいない。

僕は彼女に従い、人の間をすり抜けながら、あちこち廻る。僕は人の足元を見る。僕は人しぐさや表情の観察をする余裕は1ミリもなかったが、靴を観察する余裕ならある。靴なら僕の視線と相手の視線がぶつからない。案の定、多くの男の足元は美しくない。ゴム底が明らかに磨り減った革靴、靴のフォルムが崩れた靴、くたびれたスニーカー、汚れたスウェードのチェッカーブーツ…。まさに反面教師。

それにしても誰もがよく喋る。喋って、喋って、喋り散らす。しかも大声で、大声でだ!声が大きくないと相手に聞こえないからだ。口、口、口、口、口、口、口、口、口、口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口…パクパクパクパクパクパクパクパクパクパクパクパクパクパクパクパク…人々の口が開いては閉じ、開いて閉じ、また開いては閉じる。言葉は欠片となって、重なり合い、ガラクタ山をつくりはじめ、会場を埋め尽くす。僕はガラクタ山の隙間から顔を出して一息つく。そしてまたガラクタ山へ戻る。僕も喋る、論理とか事実の整合性をはしょって、飛躍させて、確認せずに喋り続ける。口からでまかせ。でまかせの嵐。

突然(まさに突然だった)、ある中年男が僕に喋りかける。君はライターみたいだけど何を書いていて何に関心があるのどこに住んでいるのこういう仕事は興味があるそういえば○○さんこの仕事はきつかったよだって3日で問題集一冊校正しなあかんかったしえしんどくなかったかってアハハハハでも僕はプロだから慣れてるしアハハハハ。彼の話し方は句読点がない。呼吸し忘れているのだろうか。口がずっと動く。僕は彼に合わせて早口を真似ようとするがムダだと気が付く。彼は言葉に反応する速度が異常に速い。脳みそと口を結ぶ通路が短いのだ。僕はこの人の渦に飲み込まれている。テトリスのブロックが最高速度で空から降ってくるけれど、それを処理できそうにないからゲームオーバーになるような感覚。こいつはテトリスの達人だ。窒息しそうだ、誰か助けて。そうこうしているうちに、別の人間が間に割って入ってくる。僕は渦からはじき出される。

ある女が僕を値踏みする。女は僕の名刺を見て、尋ねる。何の本を書いているんですか。女は僕が何の本も出版していないことを知ると鮮やかに別の場所にむかう。その態度は当然だが、僕の存在を関心から無関心へシフトさせていく態度は悲しい。逆に関心を持ってくれるある男もいる。彼は僕から話を引き出す。僕は喋って喋って喋りちらす。モノを通じて社会変化を見るという視点は彼にとりどうやら面白かったらしく、連絡を入れるという。ただ参加しただけ、今年に引退するという人もいる。この類の人は仕事を多数抱えている、または稼ぎ手としての配偶者がいるため余裕がある。だから、あれこれ動き回らない。特定のテーブル周りで落ち着いて雑談を交わす。

僕は人生で初めてこのようなイベントに参加させて頂いた。このイベントを一言でいえば、タイトル通り魑魅魍魎。

エネルギッシュな人々にもまれきった僕は疲れきって帰宅する。面白いことに帰宅するなり腹が減る。