『さすらいの女王』

『さすらいの女王』という本をご紹介。著者は中村うさぎさん、作家・エッセイストです。本書は中村さんのエッセイで、タイトルから類推してもファッションの匂いはほとんどありませんが、読みすすめていくとファッションに関係する部分があります。中村さんは安野モモコさんの『脂肪という名の服を着て』という漫画を概説します。

「太ってたら、ずっとバカにされ続けるんだ」と考えたヒロインは、痩身エステに通い、食べ吐きを繰り返して、急激に痩せていく。ところが、痩せた彼女を周囲は受け容れるどころか、女友達に「気持ち悪い」と罵られたり恋人に捨てられたりして、ヒロインは周囲から散々な拒絶に遭うのだ。その挙句、「私が太ってないと、周りの人々が安心しない」と考えた彼女は再び元の肥満体に戻り、痩身エステの女店長から「あきれた!あなたの身体なのよ!」と言われる(pp30−31)。

つまり、ヒロインは他者の視線を通じてしか、自分の身体を判定できない。中村さんは自らを省みて、この話を他人事ではないとエッセイを締めくくります。

この話はファッションにも関係すると冒頭で僕は言いました。なぜか。僕も含めてファッション好きはファッション雑誌、広告のコピー、お店のスタッフ、メーカーの思惑等に踊らされた帰結として、衣類を購入するし、そういう業界の思惑を知識化し、すれ違う他者のファッションを心の中でボソっと批評します。そうすると、僕らが衣服を本当に選択しているといえるのか。むしろ、僕らは本当の選択など出来ないのではないか。ファッションの流行史はそのいい例ではないでしょうか。つまり、こう言い換えることができる。

ファッションが好きな僕らは「あきれた!あなたのファッションなのよ!」と言われるヒロイン自身なのです。

さすらいの女王 (文春文庫)

さすらいの女王 (文春文庫)