『てつがくを着て、まちを歩こう ファッション考現学』

本書は哲学者で大阪大学学長の鷲田清一さんによるファッションの考現学、エッセイ集です。以下、面白かった3点。

衣服はけっして外見などではなく、ひとがじぶん自身をイメージするときのそのしかたを映すものであるから、その良し悪しをいわれるのは、そのまま人格の評価を受けるのとほとんど同じ意味を持つ。ひとは服装によって品定めされ、その品定めされることじたいに傷ついてしまうのである(pp84-85)。

バーゲンにはファッションの地顔が出る。ファッション界がいっせいに化粧を落とすのだ。そこには、衣類としての価値ではなく、ファッションとしての価値がいかほどであるかが、露呈する。感謝セールというのはなかなかよく考えてある。売る側からすれば、在庫品を一掃したいけれど、価段を下げると購買層が広がり、イメージが落ちてしまう。ブランド信奉者からすれば、「バーゲンに走る」ことで自意識を傷つけたくない。そこで、「選ばれた人」へのお礼として特別セールという恰好をつける(p218、一部省略)。

目立つ服を着ることで、つまり引き算ではなく足し算で「個性」を表現しようとする。表現(エクスプレッション)とはじぶんを押し出す行為である。が、それはダンディからすれば「弱い」ファッションである。たとえば派手な原色や奇抜な柄の服を着るのは、他人の眼にとまること、他人の視線の対象となることで、じぶんの存在を確認していたいという受身のファッションである(p242)。