『Lucie Rie ルーシー・リーの陶磁器たち』

本書はルーシー・リー作品集であり、9名の執筆者がルーシー・リーの様々な側面を伝えたエッセイ集でもあります。とりわけ彼女の弟子たちが伝える彼女の側面が面白い。以下、面白かった3点。

ウィーンの応用美術界において、女性であることの代償は極めて大きかった。ルーシー・リーが陶芸を学んでいた1920年代には、優秀な(芸術家)女性が注目される機会が増えてくる。アドルフ・ロースやユリウス・クリンガーといった批評家たちは、言葉の刃でもって女性芸術家への攻撃を開始する。ウィーン工房は「ウィーンの女ビジネス」や、ひどいときには「ウィーン雌ぎつね美術工芸所」などと名前を揶揄された。こういった批判は、男性の芸術面での優位性が脅かされることに対する、さらに女性が自立することに対する、不安の表れにほかならなかった(p20、一部省略)。

ルーシー・リーが主にボタン作りを手がけていた40年代半ば、私は彼女のもとで働くという貴重な体験をした。作陶をするときの彼女は、まるで聖杯でも作っているかのように穏やかな表情をしていた。ボタン作りは生活の手段だった。ルーシーはひとりでいることを好み、それはそばで見ていてもよくかわかったが、周りの環境が彼女をひとりにはしてくれなかった。客のつまらない御託を聞きながら、ルーシーは部屋中を落ち着かない様子で歩き回ったものだ。質問にも低い声でつっけんどんに答えて、苛立ちを隠そうとはしなかった。ルーシーの才能はまだほとんど認められておらず、そのせいで彼女は自信をなくしていたのだ(p26)。

自分が作りたい作品の体裁や焼き上がりについて考えなさい、そして、必ずしも規則にしばられることなく、それを実現する方法を見つけなさい、と先生(ルーシー・リー)は私たちを励ましてくれた。目的達成のためにはいかなる手段も許されるのだから、と。こうして先生は、陶芸の初心者が陥りがちなテクニック至上主義から生徒たちを解放してくれたのだ。先生は女性の私たちに貴重な手本を示してくれたのだ。ひとりでもちゃんと生きていけるのだということを、自分の工房を持って陶芸家として生活していくことが可能なのだということを、身をもって教えてくれたのだ(pp34-36、一部省略)。

ルーシー・リーの陶磁器たち

ルーシー・リーの陶磁器たち