ライター面接

再び面接である。場所は京都のあるスターバックスカフェ。待ち合わせは15時半。先方はあるメディア業界の方。僕は先方に履歴書を送ってあるし、幾度かメールのやり取りもしている。だから、僕の緊張感はいつもより薄い。15時に先方から電話。その電話番号は僕の携帯には登録されていないが、おそらく先方だろう。○○さんですか。○○です。取材が押しています、1時間遅れます。すみません。

1時間待ち!?1時間も待ってられない。遅過ぎる。僕は頭にきて、口調が鋭くなる。待ち合わせ場所に着いていますけど…先方は驚いて、たじろぐ。しかし、僕は仕事をいただこうとする身、態度を急変させる。そうですか、了解いたしました、ということは4時半ごろですね、大丈夫です、ええ、ええ、お待ちしてます。先方は安心して、ではのちほど、と電話を切る。僕は時間をもてあます。待ち合わせ場所に向かうために、喫茶店を出たばかりだからだ。男が僕の肩にぶつかり、前に歩を進める。殴り飛ばしてやりたい。僕は苛立っていたが、この事態とどう折り合いをつけて、面白くするかを考える。いや、返ってこれでよかったのかもしれない。

僕は書店に向かい、「仕事をスピーディーに片付ける!」と銘打たれた経済誌をペラペラ捲る。各界の有名人による仕事の片付け方のインタビュー記事。仕事を出来る人と出来ない人の違いまで書いてある。仕事をさっさと片付けることは有意義だろうが、可能性として考えられることが一つ。戦後の機械化による家事は主婦を家事から解放すると期待されたが、実際には、清潔観念の上昇により家事から解放されるどころか、かえって家事労働が増えた。つまり、仕事をさっさと片付ける、次の仕事、次の仕事、次の仕事…周囲の仕事の処理速度が上がるほどに連動する仕事、仕事、仕事…にならないだろうか。実際に、それが終業時間を短縮できれば、仕事をさっさと片付けたい気持ちも生れるだろうが、実際はどうなんだろう。時計を見る。約束の時間まであと25分。僕は書店を出る。

15分前にスタバ前に到着。それらしき人が携帯を取り出し、耳に当てている。僕の携帯は振動しない。その繰り返し。5分前。携帯が振動する。○○と申します、○○さん、今どちらにいらっしゃいますか。○○です、今、お店の前にいます…という会話が繰り返されたあと、先方も僕もお互いを確認する。歳は40代前後ぐらい、中肉中背。グレイのスーツ。そのトーンに合わせたネクタイ。店内は満員だったが、たまたま席が空く。コーヒー片手に席に着く。

以下、先方の言葉。あなたの履歴書を読んで、こんな人がいるんだなあと驚きました。うちの社員は元々、この分野に強かったわけじゃない人ばかりで。今、うちは人の募集を掛けてるけど、地方の方はあんまり採用してません。それで、とりあえず動いてもらえる場として考えているのは関西・中部圏かな。そのあたりがちょっと弱いんですよ、うちとしては。関西は大きな消費地だから、その辺もふくめて。だから、そこをお願いできればいいかなと。ここに参考となる記事にしるしをつけてますから、それに目を通しておいてください。取材の質問のテンプレートは指示しますが、まあ、記事に目を通しておけば大丈夫だと思います。今、どれくらいの数を抱えてて、失礼ながら、生計はどうなってますか。うちとしてはできれば、今後、お仕事をお任せしていきたいと考えてますから、できればうちに時間を割いていただけると助かります。大丈夫ですか。今、モノ作りってよくいいますけど、モノ作りだけじゃダメなんですよね。百貨店やら量販店やらの乱立してるし、モノ余りの時代だから。どうやってモノを売っていくかを考える方向にシフトしてますね。機会があれば、百貨店なんかのディスプレイを見ておいてください。これから大きく変わります。

先方は僕の目をまれに見て、話す。他方、僕は先方に僕のことを知ってほしいから、先方の目をよく見る。取材しているような気持ちで先方の話を聞く。同じ声量、オウム返しにうなづき、端的にまとめて言葉を返す。聞き役。1時間ばかりの面接。