『モードとエロスと資本』

『モードとエロスと資本』という本をご紹介。著者は明治大学特任教授の中野香織さん。専門は服飾史です。本書は服飾史家が見たゼロ年代以降の欧米、日本のファッション史の概説です。以下、面白かった3点。

ファッショニスタに根強い思い込み、「ワードロープ更新」という暗黙の前提事項に変化をもたらす契機をつくったのは、ファッション界の女帝として長年君臨する、米『ヴォーグ』誌の編集長アナ・ウィンターである。つまり、長い間、なぜか恥ずかしいとされてきた「同じ服を着まわす」ことは、ゴミ減らしが急務となり、経済状況が厳しくなった現代においては、時流に合ったファッション宣言とみなされ始めているのである(pp21−23、一部省略)。

21世紀にはいり、高級ブランドと激安ファッションの間にあった垣根が取り払われてしまった感がある。垣根の崩壊は、2004年11月に始まった。スウェーデン発のファスト・ファッション・チェーン、H&Mが、シャネルのデザイナーもつとめるカール・ラガーフェルドとコラボレーションしたコレクションが契機だった。このニュースは革命的な事件として日本のメディアでも大きく取り上げられた。価格は大衆向けなのに、特権的な商品を提供する。そのコンセプトは「マスクルーシブ」と名付けられ、以後の消費トレンドを左右するきーワードとなった(pp152−153、一部省略)。

デザイナーのエルザ・スキャパレリは、ショッキングピンクという色を誕生させ、服の止め具としてはじめてファスナーを使用して、人々を驚かせ、喜ばせた。いまはふつうに身の回りにあるショッキングピンクもファスナーも、お目見えした当初は、「シュールな」ものだったのである(p175、一部省略)。

モードとエロスと資本 (集英社新書)

モードとエロスと資本 (集英社新書)