ライター面接

今日は契約ライターの面接。待ち合わせ時刻は16時。20分前に現場に到着。僕のいでたちはダウンベスト、アイロン掛けしたBDシャツ、チノパン、そしてドレッシーなワークブーツ。歯を磨いたし、髪の手入れもしたし、鼻くそもついていない。外見で嫌な印象は持たれまい。

待ち合わせ場所はショッピングセンター内の喫茶店。館内に配置された監視カメラの数々。僕は店の前でただ待っているだけで、こいつは悪いことをこれからしそうだ、と目をつけられているようで、いい気がしない。喫茶店の近くは女性の衣料店があるから、女性の出入りが多い。時々、店員が僕を観察する。不愉快な視線だ。

僕は気遅れせずにすむよう、今日の相手の性別、世代、人数を想像しておく。

相手は16時ちょうど現れる。スーツ姿の男女だ。一方は20代後半から30代前半、他方は30代。はじめましてのあいさつを店の前で交わして、店内へ。僕は先方を上座に座らせ、それから着席する。

女から名刺を頂く。肩書きはマネージャー。男は名刺を忘れたと苦笑いをし、名前をいうが聞こえない。どうやら女のほうが男よりも偉いようだ。

女は何にしますか、と僕に聞く。女が3名分の飲食料金を支払うことを示唆しているような問いだ。おごられるとロクなことはない。僕はそれを経験則で知っているが、実際におごられるかどうかはまだわからない。

僕はカプチーノを、男はブレンドを、そして女はアイスコーヒーを注文する。

僕は相手の声に耳を澄ます。声に何かが宿っているかどうか。それを相手に対する判断基準としよう。女の声は低く、しゃがれた声だ。男の声は時に小さく、時に明快。両者の声は何かに追われているような気もしないではない。以下、相手の語り。

うちは県内を盛り上げたい意識で、ウェブ版のフリーペーパーを立ち上げました。ようやく土台が固まってきたところです。広告主さまは既存のフリーペーパーのお店や商品の簡単な説明では物足りなくて、お店とか商品を掘り下げてほしい層です。そういう方たちは横のつながりがあって、既存のフリーペーパーって面白くないよねっていう意識があって。うちの記事はお店の紹介にしても掘り下げてます。広告幣間がそれを見ていただいて、バックアップして頂いたり、面白いから単に支援するわというお声を頂いたり。だから、うちのHPの記事にファンがいます。

記事は大体2,000字で1万円からです。慣れていただいたら、料金を上げます。交通費、その他の経費はこちら持ちです。記事作成の流れは2つです。ライターさまが記事企画→ウチがそれ検討・取材先にアポ取り→ライターさまが現地取材・記事作成。ウチが企画→ライターさまが検討・ゴーサイン→ウチが先方にアポ取り→ライターさま取材・記事作成。この二つです。記事の納期は大体10日前後とお考え下さい。ノルマは一切ありません。3週間に一本のペースでも結構ですので、ウチは連載という形でライターさまにご依頼をしています。

主婦目線の記事でお願いします。広告主さまは飲食、美容、ファッション業界が中心で、それを利用する層は主婦です。だから、例えば飲食だと、大の男が食べて十分に足りる量なのかどうかとか。あんまり他のフリーペーパーにない情報をまとめて載せたいです。作り手の考えも含めて。お送りします契約書に問題があれば、契約なさらなくても結構です。そのときはおっしゃってください。全ては契約を交わしてからですから。

僕は相手の言葉に積極的にうなづき、反応し、笑う。面白いですねを繰り返す。僕は請求書の有無や振込みを確認する。

女は案の定、会計を持つといい、さらに「お車代」を渡す。僕は女に押し切られる。これはどう考えればいいのだろう。どちらにしても、相手のこの意図はわからない。こういうときは、エイやと相手の懐に飛び込むか。いや、逃げ道もほしい。全ては契約書を読んでからの結論だ。