重なる

どういうわけだろう。理由はわかない。予定のある日に限って、仕事の依頼が舞い込む。重なる。

内容は表のリストを埋めること。手間がかかる単純作業だ。僕の作業速度は1時間につき30リスト。明日までに300リストを作成しなければならない。現在、60リストまで作成。単純作業の特有現象の凝りが発生する。

休憩を挟む。

ナッツ入りのチョコレートをかじり、緑茶を味わう。深く、ゆっくりと息をはく。それをじっくりと吸い、肺にいきわたっていることを意識する。何度か繰り返す。体内の足先から手先まで十分な空気がいきわたる。太ももの筋肉を十分に伸ばし、全身で背伸びをする。ググっ。手のひらを重ねて、指を組み、それを胸ではなく外側に、思い切り伸ばす。そして、両手を目いっぱい広げて、腕の筋肉を伸ばす。身体から力が抜けて、ようやく頭が弛緩する。

近所でノラ子猫の声が聞こえる。か細くて、何かを求めるような声。僕がその声を「何かを求める」と形容した理由は、僕もノラ子猫同様に、何かを求めているからだろうか。それとも僕は十分に満ち足りているからこそ、その声に反応したのだろうか。何かを分け与えるために。

リスト作成は長い戦いだ。長いが、決して終わらないというわけではない。いずれにせよ、いつか終わる。

追記:3月23日午前6時半。僕はたっぷりと酸味の利いた甘いベイクドチーズケーキを食べたいと思う。生地を咀嚼し、唾液と混じりあった舌にからみ付くようなねっとり感を味わう。ほどよい甘みと飽きのこないチーズの酸味で疲れをほぐしたい。
アアア。大きなあくびが出る。僕は朝の冷たい空気をたっぷり吸い込まされ、左目が涙をこぼす。

9時。妙に楽しい気分になる。理由は不明。心身の疲れが消える。作業はだるいが、あまりに愉快だ。ラブサイケデリコを聞く。彼女たちはこういう気分のときに作曲したに違いないと確信する。メロディーが僕の身体によくなじむ。もっと僕をその曲に乗せてくれ、乗りたい。

不安も雑念もない。珍しいことだ。集中力と全能感が身体を支配。あるいは逆か。僕は淡々と作業をこなす。なぎさ公園を散歩している情景が頭に浮かぶ。あれほど贅沢な時間はなかなかない。

作業を続けるうちに、この気分がずっと続いてくれるのだろうかと不安になる。11時半に作業終了。昼寝。