おおさかのでも その3





警官がデモの参加者を誘導。誘導のやり方は妥当だったと思う。警官のそれぞれが声を上げ、両手を広げて、「列を整えてください。少し前に詰めてください」と参加者に丁寧に促す。参加者もそれに従う。参加者や周囲の動きを考えて、警官が敏速に動く。警官がデモのための道を作ってくれる。土曜日の昼下がり、大都市の繁華街。これだけの人数を裁き、交通を管理することは大変だろう。ハンディビデオをまわす警官までいる。ビールを飲んでいる兄ちゃんが道路沿いで警備する一人の警察の肩にぶつかった。これはどうなんだろう。警察はデモを守ってくれる存在でもある。デモに酒は自重したほうがいいかも。




時計はすでに16時を過ぎている。このあたりになると、歩くのが少し疲れてくる。先頭のサウンドカーの速度は歩くそれに比べると早い。その速度に合わせられる人はほとんどいない。だからサウンドカーとデモ参加者の距離が少し間延びする。デモする人もいるし、今日が仕事の人もいる。仕事をしている人たちはデモの様子をニヤニヤと眺めたあと、また仕事に従事。

16時半に浪速公園に到着。そばにいたおっちゃんは「疲れたわ。とりあえず一服させてえな」といいながら、石垣に腰を下し、タバコをくわえる。充実した顔。やがて主催者が「今日はありがとうございました。これを機会にまたみんなで色んなことができたら、面白いと思います。このまま残って今後のことを考えてもいいでしょうし、色々話すことがあると思います。ありがとうございました」とお礼。参加者は拍手。ビートルズのイマジンが流れる。この曲選はちょっと臭い。次々にゴールする参加者たち。ほとんどの人が日陰で休む。中年のおっちゃん・おばちゃん夫婦が「今日はちょっとこの前と比べると少ないなあ」、「ちゃんと宣伝してへんからちゃう」。今回の震災のための募金活動をする人もいる。公園の雰囲気は、これから何かあるのだろうかという期待に満ちる。誰もそこから散らない。主催者は再びマイクを取って、「浪速公園の使用許可は取っていないので、このまま流れ解散です。今日はどうもありがとうございました!」公園周辺でデモを見守っていた8〜9割の警官は警官専用のバスに乗り込んでいる。どうやら、彼らは自分たちの仕事を終えたと認識したようだ。
僕は浪速公園を出て、最寄駅に向かう。プラカードや風船を持っていた人たちはカバンやリックサックにそれをしまい、さっきまでのデモの勢いはどこへやら、ふたたび日常を営む人に戻る。この転身のありようが面白い。

なんばパークスあたりで「ボクシング、ボクシング」と独り言をつぶやく白髪頭で日に焼けたおっちゃんがいる。彼は誰に声をかけているのだろうか。その先には小太りなおっさん。見るからに怪しい雰囲気。そばを通り過ぎると「ボクシング買うで」と独り言。片手には30枚ぐらいの千円札。彼らはダフ屋だろう。僕は貰った風船をカバンからはずし、右手に持ちかえる。その処分を考えながら、歩く。突然「パン!」という音。風船が割れる。周囲のびっくりしたなあという声。僕はわびる。僕もびっくりした。こうして、おおさかのでもは終わった。