風邪にて

世間が寒い寒いといっていた。僕は寒さをそれほど感じなかったから、この言葉を聞くたび、何いってんだ、こいつと思った。

昨日から本当に寒くなってきた。僕は僕の中の寒さの基準を修正しようしまいかをボーっと意識下においていたら、ついに悪寒が走った。そのとき僕はユーチューブで情熱大陸を見てた。

僕の風邪をひくパターンは2つ。就寝して意識のないまま、布団を蹴飛ばす。寒いから身体が勝手に目を覚ます。このときに意識して布団を身体に掛ければ、朝、目がきれいに覚める。面倒くさいから、眠たいから、布団を身体に掛けないまま眠ることがある。その場合、風邪を引き、3日ほど寝込む。これが1つ目。

2つ目は昨日のようなとき。風邪をひきそうだとわかってるのに、重ね着をしなかったり、意味もなく映像を見続けたり。ようするに自分の行動が意識化されるほど、身体がさむがって、声を上げているのに、それに従わないとき。

お湯を42度に設定したお風呂に首元まで浸かった。1時間ばかり浸かりたかったが、身体がだるくて40分で上がった。身体のおかしさが取れなかったから、湯冷めしないように、さっさと歯磨きをして、化粧水を顔の皮膚につけて、尿素クリームを手に塗って、ポロシャツの上にダウンベストを着て、寝た。寝汗が結構出た。

7時半に目が覚めて、カラカラになった口をゆすぐ。頭を左右に振る。後頭部と首の間に何か詰まった感じがあった。まだ体調が戻っていない(熱があるときはいつもここが詰まる)。また寝て、起きるを繰り返す。

14時まで布団でダラダラする。こんな日も悪くない、とは思えない。体調が悪いと考え方も狭くなるし、悪くなる。部屋も汚れているし、洗濯物もたまっている。今日は遠くへ出かける予定だったのに。時間を無駄にしている。これはよくないので、カーテンをダーっと開ける。光が飛び込む。僕はノロノロと起きあがる。昨夜よりも体調はましだ。

近くの中華屋で好物の皿うどんを食べようと決めて、出かける。中華屋の扉には「準備中」の下げ札が下がっていた。しかたがないので、僕はラーメン屋に行った。

野菜ラーメンとチャーハンのセットを食べる。いつもよりも美味くない。だから残そうかと思った。身体の具合が悪いと飯も楽しくない。僕はそれらを無理に腹に詰め込む。おなかがいっぱいだ。汗が出てきた。

腹が膨れた身体で階段を上がっていたら、八木一夫の「ザムザ氏の散歩」が高い評価を得ている理由がよくわからなくなり、誰か一人ぐらいこの作品を180度違った視点で論じてるはずなのに、それが表に出てこないのはなぜなのかと疑問に思う。これでは八木帝国ではないか。歴史の豊饒さは批判なしには成り立たない。

近所のスーパーで水を買って、インターネットでだらだと時間を潰す。まさに潰した。本は読めなかった。瞼がやたらと下がってくるし、目が乾いて、痛い。読む気が失せた。

「夢の香り」という映画を見ているうちに元気が出てきた。腹は減っていなかったが、日も暮れて来たし、今度こそ中華屋で皿うどんを食べよう。僕は中華屋に向かう。バイトの高校生らしい人が店にいた。だから行くのをやめた。そいつは髪の毛がぼさぼさだし、制服のズボンのすそを地面にすっているし、おまけに身体もでかいから怖い。ようするに、そいつは典型的な高校生だ。僕は高校時代の自分をそいつに投影したから、そいつが嫌いだ。嫌いな奴に見られながら食う飯はあまり美味くない。

景気づけにユイを「君のラジオ」で聞く。よい2つの曲を見つけた。1曲目は外国語で歌われている。格好いい。

2曲目は素人が歌っている。まるで僕の知り合いの誰かが歌ってくれているかのようだ。プロはプロであるがゆえに、一般人とは断絶している。素人は逆だ。妙に親近感がわく。