講習会

講習会に通っている。そこには先生が1人、アシスタントが2人いる。中年のおばさんたちである。アシスタントAは俺に向かって、「先週イケメン君がいなかったから、先生、やる気がなかったみたいよ」と笑い、先生は「そういうことは逆セクハラですよ」とAをたしなめ、まんざらでもない顔をした。俺はイケメンと形容されたことが不快で、朝から続いていた憂鬱は深まり、俺は下を向いた。

俺は先週のフォローを受けるため、受講生のノートのコピーをもらい、俺の憂鬱は一気に晴れた。ノートがあまりに美しいからだ。四角形のますにピタリと当てはめられた漢字、ひらがな、アルファベット、記号。迷いのない筆跡。こんなノートがあるのか。俺はノートに見とれ、美人の小川さんのノートなんだろうと考え、やる気が、次に知力が立ち上がり、先生の「声」は声に変わって、俺は講義に集中し始めた。

講義前に提出した先々週の宿題が戻ってきた。一つ誤りがあり、俺はアシスタントBから説明を受けた。俺は問題を間違えたので、俺にBの思考回路はない。だから、俺はBの思考回路を自分に増築しようとして、Bに「これはこういうことですか」と確認をとるが、Bは俺の投げた球をスルーして、同じことを「ビー」と説明する。

さっぱりわからん。

俺はBをバカだとみなし、頭の中に岩を置いて、Bの説明を拒否した。自分で調べるか、先生かAに学んだほうがいい。学ぶ側は教える側の言葉を拒否できる。Bの説明はだみ声へ変わった。Bは「説明がどうしてもわからないんだったら……」と言い、俺は無能の烙印を押され、休憩の時間は目の前で、俺はBから離れたかった。休憩になると、俺は小さなため息をついて、外に出て、深呼吸、背伸び、それから肩をぐるぐる回した。その後、先生がこれを板書し、理解が俺に訪れた。教育のインフォームドコンセント。教え手が3人もいるのはありがたい。

帰り際、エレベーターを待っていると、ヒールの足音が聞こえてきた。ヒールをはいていた人は小川さんだから、小川さんだといいなあと思っていたら、小川さんだった。エレベーターの中で小川さんは「どうですか?わかります?」と突然聞くので、俺は小川さんに振り向いて、「面白いですよね」と目を見て、返し、顔を観る。小川さんはよく笑う人なんだろう。目元のしわが印象的だ。他方、小川さんは俺の足元をさっと見る。俺は恥じることがない革靴を履いていたので、小川さんの視線は気にならない。小川さんは「お先に失礼します」と品のある声で別れを告げ、俺は「おつかれさまでした−」と炭酸の抜けたような返事を返した。

小川さんと何かあればいいなと思うよこしまな考えが俺に芽生えたが、外は冬の冷たさで、ああ、寒い。冷たい風がスラックスに抜けて、曇り空が視界に入る。俺はポケットに手を突っ込んで、駅へ急いだ。