空飛ぶたこ焼き

空飛ぶたこ焼きを見たから興奮している。


空飛ぶたこ焼きは、
たこ焼き屋のちいちゃんが焼きあがったたこ焼きに
串を入れて、ひょいとひょいと舟に入れるあの瞬間のことで、
その時、たこ焼きは確かに空を飛んでいた。


ふわ、すとん、ふわ、すとん、
ふわふわふわ、すとんすとんすとん。


ちいちゃんが串を操る一連の動作は
才能あふれるサーカス団の若者のように軽やかで、
たこ焼きは空にひょいひょいと一瞬、舞う。
たこ焼きはまたちいちゃんにそうされるのが
当然だと言わんばかりのたたずまいで、
見事に舟の中にやわらかく鎮座している。


そういえば、
ちいちゃんがこの店に来たのはいつ頃だろうか?
と記憶を探ってみるが、ちいちゃんは平均的な容姿で、
そんな人物がチェーン店のエプロンを着ると、
その店から全く浮かず、なじむ他ない存在になってしまい、
だから、思い出せない。


とにかく俺がそれに気がついたのが昨日であり、
ちいちゃんはただのちいちゃんではなく、
ちいちゃんはいつの間にか
たこ焼きパイロットになっていたのである。


たこ焼きは今日もちいちゃんによって、空を飛ぶ。