車掌の微笑

帰宅時の電車。
車掌が俺の座席、左隅に乗車してきた。
車掌は背筋を伸ばし、毅然と立つ。
車掌のはっきりした化粧と制服がよく合っている。
俺は読みかけの本を読み始める。

「ひゃく」
「ひゅーく」

なんだろう、この音は。
音の方向にはおばさん、おじいさん、車掌がいるだけだ。
おばさんもおじいさんも寝ている。
いびきだろうか。
俺は本を読む。瞬間、強くまぶしい。夕陽が向かい窓から差し込んだ。
俺は鞄からサングラスを取り出そうとしたが、ない。
家に忘れてきた。

「ひゅく」
「ひゅーく」
「ひゃ」

また音が聞こえる。音から判断するに、これは若い女のしゃっくりである。
若い女性は車掌しかいない。
俺は本を読もうとするが、音の出どころが気になり、
車掌をわずかだけれども、見つめた。車掌は毅然としている。

「ひゅーく」
「ひゃー」
「ひゅ」

やっぱり車掌だ。
車掌は俺の視線を気付いた。それはそうだろう。
彼女は視線を泳がせて、「や、ばれましたか」と微笑し、
再び車掌に戻ったのであった。