私は猫を迎え入れる

今週の水曜日に猫を迎え入れる。
丸顔のスコティッシュフォールドである。
私はこいつを迎え入れるにあたり、ベッドから食事皿まで
評判のよいものを一通りそろえた。
私はフローリング保護のためにどれがよいかさんざん迷い、
結局クッションフロアを注文して、壁の爪とぎ防止に
大判のプラスティック板で対応することに決め、
この1週間はなんだかんだで寝不足になった。


私の金も時間もかわいい猫のためだ。
私は猫の名前をどうするのか通勤や帰宅途中でぶつぶつつぶやき、
帰りはホームセンターに立ち寄り、必要な道具や
餌などを吟味していた。
それは私にとって楽しい時間であり、
こいつと元気で長く一緒にいたいから、私の中では当然の行動である。


よく聞く話と違って、
私はこいつに一目ぼれしたわけはない。
直感的にいいなと思った猫は隣のゲージにいた。
鳴き声も耳におさまる。
ただ、この猫は長毛のメスだった。
毛の掃除が面倒で、
長毛のしっぽに猫のくそが絡むのは嫌で、
長毛に潜むノミのイメージも短毛よりも強く、
避妊手術代はオスの去勢のそれよりも高いから止めた。


ブリーダーは「短毛のこいつは噛み癖がありますよ。
猫をはじめて飼うなら、扱いやすいのはおとなしいこっちの長毛の猫です」
というアドバイスをもらい、
私は自分の直感とブリーダーのアドバイスに従わなかった。
仕事を終えて、疲れて、帰宅して、元気をくれるのはどちらだろうかと
考えたとき、長毛の猫はきっと私に寄りそい、
私と静かな生活を過ごしてくれるだろう。
他方、短毛の猫は元気があって、
こいつがいれば、少しにぎやかになるだろうなと思った。
そういうわけで私は、金がかからず、掃除が楽で、
意外性という打算で、短毛の猫を選んだ。
むろんこいつだって売り物である以上、猫並みにかわいい。


今日、2度目の対面を果たしたとき、
元気いっぱいのこいつはオスではなく、
実はメスで、噛み癖はやはり続いていた。
私が先週、短毛のこいつに初めて会ったとき、
まさか噛むとは思わなかったが、
なぜかといえば、それは私に噛みつかなかったからで、
他方、ブリーダーに噛みつこうとしていた。
私は今日2度目の対面で甘噛みされた。
ブリーダーは「甘噛みでも、大きくなったら
猫の顎が成長するので、噛まれることになる。
甘噛みの時に指を喉まで入れれば、
甘噛みをやめますよ」と説明し、私はそれにならった。


そうしたら、こいつは2本足になって、興奮し、
両手を広げて、子猫のくせに
飼い主になろうとしている私に対して
私の「猫」らしからぬ姿勢を見せつけた。


「お前のために色々なものを用意して、
迎え入れる準備をしているのに、なんだそれは」と
いう気持ちが私の胸に渦巻く。
もちろんそれは、ブリーダーがいる手前出せない。
きっと私の表情はゆがんでいただろう。
「こいつじゃなくて、隣の長毛の猫にすれば
よかったんじゃないか」という一瞬浮かんだ疑念は
しかし広まらない。
長毛の猫はソールドアウトという張り紙が貼られて、
ゲージの中にいたからだ。長毛の猫は私を見て、
「にゃあ」
と鳴き、おとなしく伏せていた。


私は水曜日に短毛のこいつを迎え入れるわけだが、
帰宅した後、この猫と上手くやっていけるのだろうかと
少し心配して、それは、この猫が見せた私に対するあの態度。
同様のことが起これば、私は気分次第でこいつを
つねったり、デコピンしたり、餌をあげないかもしれない。
私はその時に見せるこいつの表情を「楽しい」と
感じるかもしれない。私はそれが怖い。


私がこの猫と初めて会った時、「うちに来るか?」と
問うと、「にゃあ」と鳴いた。
今日、私が手付金をブリーダーに支払って、店を出ようとした時に
私に向かってだろうか、「にゃあ」と鳴いた。
私がこの猫を気に入っている理由はこれであり、それから
こいつが私の手の甲に乗せた足の裏のぷにぷにとした肉球の感触である。
私とお前は出会うべくして、出会ったのだと思いたい。
私はお前に早く会いたい。