よくやった!

我が家の猫は、爪切りが大嫌いだ。
だから私は我が家の猫の爪切りをほとんどあきらめ、
猫がうっかり寝ぼけてるときに爪を切ったが、
そんな機会はめったに訪れず、爪の切り残しもあったし、
日が経つにつれて、切った爪は伸びてくるのであった。


こういう猫の性格からして、私は期待していた。
動物病院でワクチン注射の際に、どんなに暴れるのかを。
我が家の猫はスコティッシュで、獣医はおとなしい猫種だと
思いこんでいるらしい。
獣医が我が猫に注射を打った瞬間、
私の期待は最高潮に達したが、
我が家の猫は
「ニャ!」と
短く、鋭く鳴き、
獣医の「偉い!」という一言を聞いた時、
私は拍子抜けした。


私は困った申し訳ない顔をして、爪切りのことを獣医に切り出すと、
獣医は「いい方法があるんですよ」といい、
大きなタオルを猫の顔にかぶせた。
視覚を遮った爪切りである。
もちろん私は「先生、それは私もやった方法だよ」
とは言わない。プロに任せるだけである。


獣医が我が家の猫の足を触る瞬間まで
我が家の猫はおとなしかったが、
爪切りが爪に当ると、
全身で身をよじり、
「にゃぎゃー」と
抵抗する。


私は「やった!」とほくそ笑み、獣医は
「あ、これはやんちゃですわ」と驚いたが、
「まだあるんですよ。この洗濯ネットに猫を入れて、
足だけ出して」とうれしそうである。
かくして、洗濯ネットに入れられ、タオルで視界が閉ざされた
我が家の猫がおとなしく爪切りされるかといえば、
またもや全身をよじって、抵抗の意思を示し、
次は
フーーーーー!
と警戒音を響かせ、獣医は「この子は大変ですわ。
大変やったでしょ、お兄さん。
もしかしたら、この子、病院嫌いになる
かもしれへんなあ」という。


私は
「よくやった!さすがは我が家の猫だ!えらい!」
と思った。そのわけは
我が家の猫は自宅か病院かという環境に関係なく、
爪切りが誠に嫌いであることが判明したからだし、
獣医のスコティッシュはおとなしいという
思い込みを打ち消してくれたし、
この獣医は私たちが診察室に入るなり、
「なにも立て耳のスコティッシュなら、他にいるでしょう。
捨て猫の里親になるとか」と言い放ち、
私は「はあ・・・そうですね」といなしたが、
獣医は時間をおいて、「スコティッシュは関節の病気があるからね。
別の猫ならないけど。どうしてスコティッシュ?」と
絡んできたので、
私は「縁ですから」と小声で答え、
「余計なお世話だ、バカ野郎」と思ったからであるし、
この獣医は「おにいさん、猫の名前、書いてくれへん?」
と一貫して私をおにいさん呼ばわりし、
職業にものを言わせる無礼者に思えたからである。


かくして、ワクチン接種、爪切り、体重・体温測定、
耳掃除を終えた我が家の猫は病院を後にして、
我が家に帰宅したのであった。