爪切りが激烈に嫌いな猫

今日猫と帰省する。
猫爪による迷惑が親の家で最小限になるよう、
俺は猫の爪切りを済ませたかった。


俺は家から最も近い動物病院に行った。
ここへ一度行ってみたかったのだ。
待つこと30分。


受付「今日はどういった理由で?」
俺「爪切りです」


10分後
ようやく名前が呼ばれた。


獣医師は額から後頭部にかけて毛がなく、
小麦色の肌で、腹がぽっこり出た160㎝ぐらいの
男だった。年は40代前半だろう。


獣医師「お待たせして、すみません。純血種ってねえ、爪切り嫌がるんですよ」
俺「そうなんですか」
獣医師「この子、爪切り嫌がるんですか。一人では無理なぐらい?」
俺「一人では無理で、暴れます」
獣医師「じゃあ、猫の前足の付け根を指をリング状にして、持ってもらって」
俺「わかりました。こうですね」
獣医師「そうです。そんなに暴れる?」
俺「それはもう暴れます」


獣医師は立ち上がり、診察室を出た。
獣医師はエリザベスカラーを手にして、
猫の首まわりにぱちぱちハメていく。
楽しみで仕方がない。
エリザベスカラーは初めてだ。


猫は獣医師の膝の上に乗せられて、
獣医師が前足の爪を1本切ると、
獣医師の顔を見て、


フーーーーー!
と威嚇し、2本目に移行した時、


フーーーーーーー!
フーーーーーーー!
フーーーーーーー!


威嚇連射。
一貫して変わらぬ爪切りに対するその態度。
獣医師は大きく深呼吸をして、息を吐深く。


獣医師「これはすごいですね」
俺「そうなんですよ」
獣医師が爪切りを続けようとすると、
猫が


ksjgさkjかslじぎおじwwjlsfsl;s!


という大声を診察室に響かせ、こんな大声は今まで聞いたことがなかった。
その大声が俺の心に染み入る。
なんていい声なんだろう。


受付のスタッフがたかが爪切りに一体何事かと
ガラス越しに診察室をうかがっている。
この大声は待合室にも届いているに違いない。


お前、待合室では「にゃあ」と穏やかに鳴いて、
他の犬どもがワンワン威嚇しあってるときも、
お前だけはおとなしくて、品がよかったのに。
俺はおかしくて、笑いだした。


俺「あんたもっと静かにしい。そんなに嫌なんか(笑)」


猫は獣医師の両手で抱かれていたが
ジタバタしているので、


獣医師「これはちょっとすごいですね。
もう、カバンに入れましょう」


といって、猫をカバンに戻し、
俺はバックのチャックを閉めた。




獣医師「ここまで爪切りが嫌いな猫だと、毎日1本ずつ
猫が寝てるときとか機嫌がいいときに1本ずつ。
18日かけて、切っていく」
俺「はい(笑)」
獣医師「そうしないと、もう爪切り=嫌なものっていう
意識も出てきて、難しくなっていくと」
俺「わかりました(笑)。どうもありがとうございました」


俺は猫を入れたカバンと右手で持ち、左手で
診察室のドアを開けて、待合室で待機する。
猫はおとなしい。待つこと5分。


受付「間山さん、今日はお金、いりません」
俺「どうもありがとうございました」
猫「・・・」


俺は動物病院を出て、猫に言った。

「お前、よくやったな。獣医さん撃退したんやで。
偉いわ。もうあそこの病院は行かんとこうな。
お前が避妊手術受けた獣医師の先生は
お前の爪切り、3分とかからず、爪切ってくれたな。
助手の人がお前の注意を上手くそらして。
今日はいいもん見せてくれて、ありがとう」


猫は冷房の効いた部屋で
俺の足元で横になって、腹を見せて、眠っている。