『日本やきもの史』

『日本やきもの史』という本をご紹介。監修は矢部良明さん、肩書きは郡山市立山美術館長です。本書は8名の執筆者による縄文時代から現在までの「日本」の陶磁器の概説史です。以下、面白いと思った3点。

明治前期における窯業生産の特色の一つは、東京や横浜、名古屋、大阪などの輸出港に近い大都市に、絵付け専門の工房ができた点だ。背景には、西欧への輸出量を増大させるカギとして、「絵付け」が重要視され、西欧の嗜好に合ったデザインが政府主導で模索される状況があった。維新後に職を失った浮世絵師や南画家などを、積極的に陶画家として採用したために、「曲面に描かれた絵画」とでも形容していいほど本格的な絵画意匠が描かれた(p128、一部省略)。

西欧の陶芸界では、1880年−90年代にデザインとしてジャポニズムの影響を受けたアール・ヌーヴォー様式、装飾技法として「釉下彩」、「結晶釉」という新たな技法が展開された。同時期に西欧の絵画界では、印象派の画家たちが色彩表現に革命的な変化をもたらし、陶芸家たちもデザインや色彩の表現形式に変革を成し遂げていた。この様式は明治30年代の日本陶芸界で本格的に受容される。「釉下彩」の導入は「上絵」を装飾技法の主役していた江戸時代以来の日本の焼き物を大きく変えたのである(pp138−139、一部省略)。

日本陶芸界は昭和15年政府が公布した「奢侈品等製造販売制限規制」、いわゆる「七・七禁令」で決定的なダメージを受けた。これは規格以外の物品の製造販売を統制し、金襴手のように金や銀を使う陶芸作品などを贅沢品として禁止した。しかし伝統技術が絶える心配が生じ、芸術または技術保存上特に必要がある場合には、商工大臣の許可を得て、制作できることとなった。これが一種の優遇措置として行われた「芸術保存」いわゆる丸芸と、「芸術特殊工芸技術」いわゆる丸技の認定である(p160、一部省略)。

本書は社会の変容と陶磁器が密接に関連していること示唆します。不思議な現象が一つ。本書も例に漏れず、陶磁器の戦後史はメジャーな陶芸作家の歴史です。これは一つの社会的な現象です。なぜそうなるのか。

戦後日本の陶磁器業界のあり方を変えた決定的な要素(他にもあるのだけれど)は技術の近代化。60年代から70年代におけるガス窯、自動成形機、プリント技術などの登場です。これが安価な大量生産品を可能し、ロクロ師、窯焚き師、絵付け師など各工程の職人を消滅させます。技術の近代化が陶磁器産地の関係をガラリと変えました。なぜこれが議論に乗らないのか。

将来の課題。

日本やきもの史

日本やきもの史

  • 作者: 荒川 正明,金子 賢治,佐々木 秀憲,伊藤 嘉章,矢部 良明
  • 出版社/メーカー: 美術出版社
  • 発売日: 1998/10/16
  • メディア: 単行本
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