ライター面接

僕はライター募集の仕事を見つけて、メールで連絡を入れる。1時間もしないうちに先方からの返事。こんなことは初めてだ。先方はいう、一度お会いしてお話させてください。

面接会場は大阪の地下鉄から徒歩5分。僕は会場に到着する。待ち合わせ時間まで残り40分。僕は喫茶店を探すが、ご飯もののお店ばかりで、見当たらない。

焦る。格好を鏡でチェックしたい一方で、あまりウロウロすると迷うことになるからだ。携帯を見る。時間はあと20分。僕はコンビニを見つける。すみません、お手洗い貸して下さい。

ネクタイがよし。鼻くそがなし。髪型はよし。あれ?、ボタンダウンの襟にくっきりとシワが…し、しまったー!いや、先方はここまで見ないはず。僕は腕時計を身につけて、準備万端。悪くないスーツ姿。僕はツカツカと足元を鳴らして、会場に向かう。

会場の内線番号を鳴らす。僕は話す内容を事前に準備してたし、練習もしていた。つまり自信満々だった。けれども、僕の口は急にざらつく。ラ、ライターの間山といいま、申しますが、○○さまはいらっしゃ、ええと、ご面接のお約束、にしました、のです。

僕は冷静に焦る。これではオレはバカだと思われる。どうしてオレはどもるのだ、おかしい。他人と話すことが少ないからか。いやいや、そんなことはない。あ、また、間違った。

担当者が会場へ僕を案内する。掛けてお待ちください。僕がここで先に掛けたら、仕事を頂く可能性が下がる。僕は先方がくるまで立つ。扉が開く。

先方の顔立ちはブログで拝見するよりもつややかで、若い。先方は既に両手に名刺を用意している。僕は名刺を慌てて取り出す。名刺入れにぎっしり詰まった僕の名刺。手際よく名刺を取り出せない。目下の僕は名刺を下にして、先方に差し出す。オーバーアクションぐらいが調度いい。

僕は先方がイスに腰掛けたことを見届けて、腰掛ける。このとき先方はあきらかに僕の腰掛けを観察していた。学生時代にある陶磁器ギャラリーの社長から言われたことがある。そういうところを人は見てると。社長、ありがとう。

以下、先方の言葉。東京のライターさんが言ってましたが、ライター業界も段々と縮小してるみたいですね。東京のライターさんは実績物を持っていらっしゃいましたが、あなたは。何を書いていらっしゃいますか。いつからライターを始めましたか。弊社のHPに対してどのような感想をお持ちですか。どれくらいの経営者にインタビューをしたことがありますか。陶磁器で生計を立てようと思わなかったのですか。以前はどんなお仕事をしていたのですか。今、おいくつですか。大学はどこ出身ですか。趣味はなんですか。

先方の質問に僕は回答する。先方はそれをノートにメモする。先方が僕に仕事を説明する。僕は緊張してノートを開くタイミングを逃してしまった。どちらがライターなのかわからない。これはまずい。僕は先方の声量と同じ声量で、先方の言葉をオウム返しし、先方のいったことを上手にまとめて、そして言葉を先方に投げ返す。会話を頭にメモするための会話。そうしないと言葉を忘れてしまう。何よりも、このライター大丈夫か?という先方の思いを払拭させたい。僕は先方のブログ記事に対する質問をさりげなく入れる。

次第に気持ちに余裕がでてくる。僕は先方を観察する。ステッチが入ったスーツのラペル。バランスも取れたスーツとインナーの袖。靴はシワがない。ネクタイのノットはおそらくダブル・クロス・ノット。ネクタイは十分に締められていないから、比較的リラックスしているのか。

面接は30分で終了。会場を出る前に先方は僕の足元を見る。僕は足元を手入れしいるから、全く問題がない。

今日はお越しいただきましてありがとうございました。先方が頭を下げる。僕もそれを真似る。ここから先が印象的だった。先方は、僕が頭を上げるまで、頭を下げ続けたからだ。目下の僕にこの行為。僕はこれをなぜだかわからないが、格好いいと思った。と同時に、もうお会いすることはありませんよ、という先方のメッセージのようにも思える。僕は自分の気持ちを先方のあいさつに投影したからだ。この面接の手ごたえをつかめなかったという気持ちを。

僕はその日のうちにお礼を兼ねて、面接の内容を確認したメールと実績原稿を先方に送る。が、返事ナシ。これはダメだったか、と僕は落ち込む。翌々日に先方からお返事をいただく。どうやら仕事をさせて頂けそうである。歓喜