ライター面接

とあるビルのフロア。フロアの奥まった場所にその会社はある。駅から5分と近い。今日で2社目の面接。ハローワークのHPで「ライター」検索をすると、ここが新着情報として引っかかった。前回のライター募集の面接は不合格。不慣れだったからだ。学んだことがある。それは質問の内容。だから受け答えは大体出来る。面接時間3分前に会社の扉を開ける。笑い声と話し声が響く部屋。若い声だ。左手には革靴、スニカー、パンプス等が入れられた靴箱。少し汚れた壁、間仕切りは黒色。にごった部屋。どうやって先方を呼べばいいか悩む。手元にベルがある。「御用の方は鳴らしてください」。

「チン、チン」とベルを静かに鳴らす。強く鳴らせなかった。先方を不快にさせたくなかったから。笑い声と話し声が満ちるこの部屋に、ベルの音が届いたのか不安になる。もっと強く押せばよかった。私服を着た若い女が出てきて、入り口右側の間仕切りで仕切られた応接間に僕を案内する。靴を脱ぎ、グレイのスリッパを履く。靴をぬいでも、恥ずかしくない。それなりのブランドネイム、値段、そしてフォルムのある革だから。こういう時にブランドモノは効力を履く者に対して、発揮する。ああよかった、いい靴履いてきて。

イスが四つ。それにあわせたテーブルが一台。これも黒色。テーブルの上には手帳が二つ。二名が僕を面接するのだろう。ありがたい。僕はどこに座ればいいかはっきりする。と思っていたところにストライプのスーツを着た20代後半の男が一名、薄手のロンTを着た30代前後の女が一名。僕はテーブルに気をとられていたから、驚く。さっそく二人は名刺を僕に差し出す。僕は名刺を持っていないから、気後れする。二人が着席してから、僕もイスに座る。履歴書、職務経歴書、作品、そしてハローワークの紹介状を二人に渡す。男は履歴書を簡単に眺め、女は作品を読む。女がおそらくライターだろうと思って、名刺を見るとその通りだ。作品は雑誌テイストにしてあるから、ウケは悪くないはずだ。二人は質問する。

メルマガはどれぐらいの人数を出していたのか。メルマガで客を集客すると以外で大切にしていたことは何か。メルマガで苦情はこなかったか。メルマガで評価されたことはあるか。この作品の記事を書き上げるためにどれぐらいの時間を使ったのか。例えば、うちで300文字を書くとしたらどれぐらいの時間がかかるか。人と接することは好きか。文章の訓練はどこで受けたのか。どうして陶磁器に詳しいのか。やってみたい企画はあるか。どんな雑誌を読んでいるのか。文章での言葉の使い方は大丈夫か。どんな媒体に書いているのか。文章を書く上で気をつけていることは何か。あなたはどんな性格の人間か。今、緊張しているか。

僕は文節を区切って、落ち着いて話す。二人は僕に質問があるかと聞く。僕は求人表どおりの待遇かどうかを確認する。うちはこの求人表の通りですよ。みんな定時で上がれるようにしてますし。だけど、雑誌を出す前は残業がありますね。それから僕は二人に言う。もし、僕が御社のライターとしてちょっと厳しいならば、僕を外注ライターで使ってください。二人は僕のこの提案に狼狽する。後日連絡をすると男がいい、僕はよろしくお願いしますと答える。スリッパから靴に履きかえる。僕は迷う。地面に座って、靴を履けばいいのか。それとも中腰で靴のへらを使って履けばいいのか。こういう時って決まりごとがあるのだろうか。面接時間は25分。思った以上に短かった。