今夜は静かな夜になればいいのに

近所が最近異常に騒がしい。
騒がしい原因はセミの鳴き声でもなく、バカ選挙カーでもなく、
近所のおばちゃんたちの雑談でもない。


近隣から集う「10代後半」の騒音である。
「10代後半」と書いたのは、本当に彼らが10代後半かわからず、
体格や声、騒ぐ時間で判断したから。
尋ねようにも、怖い。


1階はピロティだ。
早い話がたまり場である。
人が交差して、世間話をするたまり場は大事だ。
ただし、やかましいのは例外で、
それは僕にとって迷惑である。そこに彼らがたまる。


21時ごろから3時にかけて、
(1)原付のバカでかいエンジン音
(2)壁にサッカーボールをぶつけて響き渡る音と振動
(3)突然の雄叫びと笑い声。
(2)、(3)は突然という点で、俺はそのたびに驚くし、心臓がドキっとする。
そこに加味される(1)。


上記がそろうと、寝つきが悪く、寝たとしても目が覚める。
イライラする。俺は彼らを憎むが、どうしようもできないし、
他の住民もなにもできないから、彼らの騒音は続く。
俺は布団の中でそのまま眠る。
その時はよく夢を見る。夢を見ている時は睡眠が浅いという。
本当だろうか。


という日々が続いて、途切れて、また続いていた。
俺はある日、通報しようと思いつき、迷った。
なぜなら、


(1)警察が現場に来た時、彼らがそれに運よく気付き、
そこには誰もおらず、
通報者=俺はインチキだというレッテルを警察から張られる怖さ。

(2)俺の着信履歴が警察に残って、登録されるのだろうかという怖さ。

(3)警察から名前や住所を聞かれたら、嫌だなという思い。


今思えば、取るに足らない迷いだが、これを振り払えなかった。
彼らだって騒ぎたくて騒いでるわけじゃないだろうし、
俺は寛大な大人でいたいし、
職質された時の警察の無礼な態度が嫌いだしなどと理屈付けをして、
通報しなかった。


この迷いは夜中に響き渡った彼らの奇声によって晴れた。
俺は頭にきて、通報した。
電話はコール音がなる前に警察とつながる。
不思議な感覚だ。


若い声の警官「事故ですか!?事件ですか!?」
俺「あの、えー、すみません…
そういうのではなくて、近所の子たちが騒いでて、眠れないので…」
若い声の警官「その場所の住所は?あなたの住所と名前は?」
俺「○○市○○区○○1−1○号○○室で、
名前は間山裕文といいます。騒いでるのはここの3棟です」
と答え、住所と名前を聞かれたので、嫌だなあと思った。
若い声の警官「相手の人数は?高校生ぐらいですか?」
俺「ちゃんと見たわけではないので、5人ぐらいですかね。
そうですね、多分高校生ぐらいだと思います」
若い声の警官「ちょっと待ってください。地図で確認します。
わかりました。すぐに行くように要請します」
俺「すいませんが、よろしくお願いします」 


と答えて、電話を切った。


あっけなかった。
次も騒ぎがあって、通報しようとして、戸惑いがあった。
「名前や住所をいわされる」ことが嫌だったからだ。
2回目以降は騒いでいる場所の住所は聞かれたが、
俺の住所や名前は聞かれなかった。


今では当たり前に通報するようになった。
通報後15分ぐらいで静かになる。
通報前の俺は「騒げるのは今だけで、しめしめ」と布団でほくそ笑み、
実際に通報すると正義の手先になった気分がして、
軽い興奮状態。気分は結構いい。


通報して15分後、「くそー!」という叫び声が夜中に鳴り響くと、
俺は「やったー!」とかみしめて、静かな夜が訪れる。


通報したときの警察官の対応の仕方はどの人も同じだが、
緊張感は警官によって違う。
ゆるい人もいれば、締まっている人もいる。
それから夜勤は男の警官だけだろうなと思っていたら、
ある夜の通報で女性の警官が電話に出て、驚いた。
俺の頭の中では夜勤の警官=男という図式があったから。


不思議なのは9号棟もある大きなマンション群で、
結構な数の住人が暮らしているのに、
俺以外に多分、誰も通報していないことだ。
みんな報復が怖いんだろうか。
この規模のマンション群なら彼らも誰が通報したのかわからないのに。
なんと情けない。


俺は通報を呼びかけるビラをつくって、投函しようと妄想する。
例えば、こんなビラだ。


遠慮はいらない、通報しよう!


俺は、彼らが騒音を出すたびに、通報した。
彼らも頭に来たのか、通報後、一度静かになって、
その後また集まって騒音を出すという行為に出た。
騒音は過去最大級のものになった。
俺はこの状況が恐ろしく、一晩に2回も通報する勇気もなく、
結局、他の住人も通報しなかった。
彼らの騒ぎは4時過ぎまで続いた。


これがあまりにひどかったらしく、
住人から苦情がでたらしい。
昨日、俺はマンションを巡回している警備員にたまたま会って、
思いきって声をかけた。


この警備員は独特の雰囲気があって、近寄りがたい。
近寄りがたいが、彼らの騒音も、何の対策も打たない管理会社も、
その雇われ人としての警備員にも頭に来たので、
俺は彼に静かに話しかけた。


俺「あの、最近、夜中うるさいんですけど」
警備員「すごかったらしいですね。苦情も入ってます」
俺「警備員さんだけじゃ無理ですよね。
警察に通報してくださいよ。僕もしてますので」
警備員「警察は22時からじゃないと排除しないそうです。
それまでの時間だと注意だけだとか。
通報されてるんですね。よろしくお願いします」


警備員は親身になるふりをしつつ、他人事だった。
お前、金もらってんだから、仕事しろよ!と突っ込みたくなったが、
考えたら、この人にとって仕事は金を稼ぐための手段であって、
仕事に命を捧げてたら、警備員なんていう職業を長く勤められるわけがない。
地道に苦情を管理会社に入れて、110番通報をするしかないのか。


今夜は静かな夜になればいいのに。


追記(6月1日)


夜中に騒ぐたんびに通報をしていたら、
騒ぐ頻度がグッと減ってきた。これで安眠できる。
これからも続ける。