美味しい食事

とある中華屋に行った。店内はカウンター席、奥にテーブル席が1席。細長くて、奥行きがあり、狭い。カウンターのテーブルの奥行は週刊誌ほどで、やはり狭い。俺はスポニチにざっと目を通して、フライ麺と餃子を注文した。紺色のTシャツを着た店の親父は50…

行きつけの中華屋

昨日、ただの中華屋が行きつけの中華屋になった。70代手前の夫婦が10席で満員になるこの店を経営している。僕は3年ほどそこに通い、いろんなことがあった。・焼き上がった美味しい餃子を食べ終えてから、皿の上に残る高温で焼かれた結構な大きさの虫の死…

金持ちの女と知りあってしまった

金持ちの女と知り会ってしまった。肉体関係はまだない。何で知り合ったかといえば、仕事を通じてだ。交差点の信号が青に変わり、横断歩道を渡ると、スプリングコートを着た美人がいたことだけは記憶している。彼女は既婚者で、僕よりも10歳年上の44歳だ。黒…

成り行き見せ合いオナニー

成り行きで、スカイプを用いたオナニーの見せ合いをやってしまった。まさに成り行きで、成り行きには葛藤がなく、成り行きになったのは、自分のことはどうでもいいと思っていたからだ。それ自体は別にどうってことはなく、パソコンの画面越しのお互いの下半…

今夜は静かな夜になればいいのに

近所が最近異常に騒がしい。 騒がしい原因はセミの鳴き声でもなく、バカ選挙カーでもなく、 近所のおばちゃんたちの雑談でもない。 近隣から集う「10代後半」の騒音である。 「10代後半」と書いたのは、本当に彼らが10代後半かわからず、 体格や声、騒ぐ時間…

故郷を失った父

14年前に父方の祖母が他界した。祖母の死後、A伯父が祖母の家で続けて暮らしていたが、そのA伯父も8年前に他界。お盆休みになると親戚が帰省し、にぎやかだった祖母の家は空き家になっていた。祖母の家と土地を売って、今は別の家が建っていると父から聞いた…

久しぶりに書き仕事

3月19日。 知り合いのAさんからライターの仕事を頼まれた。 時間がないから手伝ってほしいという。枚数は10ページで2章分。 内容はマニュアルのリライト。 表記ルールはなし。 対象は大人。 納期は2日後。 参考資料は文末に明記。 支払いはよかった。やくざ…

今日の私

重たい体を引きずって、仕事終わりにため息一つ、 昨日の私がウソのよう、疲れが出てくるにじみ出る。 熱いシャワーを浴びてから、コトコト作る今日の夕食、 机の前のパソコン開けて、今日も変わらぬ帰宅後の時間。 朝の光に照らされながら、影と重なる私の…

タカハシフサ(72歳)

老いた女がベンチに腰掛けている。黒く大きなボストンバックを地面に置き、左手は求人表らしいものを持つ。女は背中を丸めながら、時々周りを観察し、下を向く。女はホームレスに見える。鋭い目。僕は女に声をかけるべきだろうか、女は本当に求人表を握って…

シノダヨシキ(67歳)

紺色の背広を着た中年男とスーツを着た中年女が男の隣に腰掛ける。中年女が男と主に話し、中年男が時々合いの手を入れる。二人はタクシー運転手の勧誘を男にしているらしい。男は中肉中背で、白髪混じり頭は年相応に薄い。男はメガネをかけ、ポロシャツ、ス…

ヤマナカジロウ(60代)

きちんと刈られた乱れがない白髪。縁の太いメガネ。はれぼったい手のひら。スラックスに少し大きな半そでシャツ。履きなれた革靴。男は生真面目な人に見える。僕と顔見知りになったチラシ配りのおばさんが「聞いてやって」と少し強引に男を僕に紹介する。お…

ワタリノリコ(65歳)

職安の駐車場へ向かう女を見た僕は、女に声をかける。女は右手に職安でもらった紙の束を持っている。 (今日、職安に来た理由は?)主人が働いてた工場のある部分が閉鎖なったんですよ。今、閉鎖になってるから、主人はどういうの、自分が「辞めます」というた…

ウカイケンイチ(65歳)

男はスラックスのポケットに両手を突っ込み、猫背で職安から出てくる。男は肥満気味で、大きなメガネをかけ、後退したツヤのよい額が目に付く。僕は男と並び、男の歩く速度に合わせて、話を聞く。 (以前はどんなお仕事を?)前は製造業で研磨いうんか、ようす…

ハシモトフサ(65歳)

3月まで公務員の非常勤をしてました。3月で契約が満了やったんやけど、契約満了になる2月頃までは4月も来てくださいと。それが3月になってから「契約満了です」っていわれて。 将来が不安やから、今日、職安にきました、あんた。(女は両手を振ってバツの字を…

アガワユキオ(64歳)

男は肉体労働者を予感させる。顔のほほは削げ落ち、肩幅が広い。筋肉質のがっちりとした体格だろう。手のひらは大きい。指が太く、ごつごつしている。爪は深爪だ。男は青と緑の中間色のような作業着を羽織っている。 (今日、職安に来た目的は?)ええと、目的…

イワサキアイ(62歳)

女は150センチほどの身長で、体格は小柄だ。その女が職安の駐車場を通り過ぎようとしている。女は白髪交じりで、求人票の束を持っている。僕は女に声をかけ、女の目の前に立つ。僕が自己紹介を済ます前に、女は語りだす。女は話し相手を必要としているかのよ…

ミワカンジ(61歳)

男は「釜ヶ崎」と白地でプリンとされた黒いTシャツにジーパンを合わせる。男は大阪に住んでいるのだろうか。男は男にとって身近なことは聞き取りがたい小声で、逆の場合は聞き取れる声で話す。僕は何度か男に尋ね返す。 (いい仕事は見つかりましたか?)年齢…

カメダタカコ(61歳)

女は公園に入り、再び出るそぶりを見せるが、出ない。女はその動作を数回繰り返す。僕は女に近づき、自己紹介をする。女は「いや、ここでタバコ吸おうか、ハローワークの喫煙所でタバコ吸おうか、迷ってて」と軽く笑う。女はタバコと携帯用の灰皿ケースを取…

ミツイシゲル(59歳)

男は携帯電話を片手に持ち、職安の出入り口で誰かと話している。「今、ここに来ましたから、ええ」。男はサングラスに土方ベスト、薬指に大きなスカルの指輪を身につける。白髭、色黒い肌、骨ばった二の腕。男は160センチに満たず、痩せている。年齢は60代か…

イトウミチコ(58歳)

時刻は18時。夏の太陽が沈み始める。フレアスカートに薄手のシャツを着た女はベンチに腰掛け、カバンから取り出した求人表を眺めている。女の年齢は40代後半ぐらいだろうか。40代の女にはほとんど取材できていない。僕は女に近づく。 (今日、職安に来た目的…

フジワラキヨミ(58歳)

女はキズのない真新しい黒のパンプスに半そでの薄茶色のニット、フレアスカートを身につける。ウェーブの掛かった美しい茶色の髪、手入れが行き届いた肌。上品な身なりだ。女は求人する側なのだろう。女は数十枚の求人表の束を手に持ち、それを眺めている。…

ムラタキヨジ(55歳)

若干削げ落ちたほほ、細長の輪郭、そして年相応のツヤのない髪。男の身長は170センチぐらいだろう。体格は細身。男はベンチに腰を下ろし、背中を折り曲げ、右手に鉛筆を持ちながら、原稿用紙のような書類を前に思案している。男の受け答えは誠実だ。 (今日、…

ウイフジコ(50代)

パーマをあてた女は150cmから160cmの身長、やや肥満気味、たるんだ皮膚とぜい肉で首とあごの境がわかりにくい。僕は女に声を掛け、その距離を縮めようと女に近づき、自分の仕事内容を女に告げる。女は「私みたいなモンの話し聞いても仕方ないで」と遠慮しな…

ミネアキコ(50代)

女は公園の手すりに身体を預けながら、携帯電話でメールを打つ。身長は150cm代で肥満気味。肝っ玉母ちゃんのような女だ。女の片足は地面に対して不自然に置かれている。 (今日、職安に来た理由は?)今日は仕事を探しに来たんです。3月で退職したんで、失業…

サヌキジロウ(58歳)

男はハローワークから出てくると駐輪所に止めていた自転車を押して、敷地外へ出てくる。男はハローワークでとってきたチラシや求人票を右手とハンドルの間に挟むようにして、自転車にまたがろうとしていた。 さっき受付したのが140番なんよ。だから、ものす…

イホリヨウジ(56歳)

男は下を向いて職安から出た後に敷地内の駐輪場へ向かう。男はスラックスに革靴、暖色系のシャツを着こなす。髪の毛のツヤはポマードだろうか。男の動きのない表情、窪んだ眼窩、薄い唇、そしてどす黒い茶褐色の肌が男の表情を暗く見せる。 (今日、職安に来…

スズキシホ(50代)

150cmほどの華奢な女は小顔で面長である。女のおちょぼ口に塗られた口紅。女は肌が白いから口紅がよく目立つ。女は早口で、声が高い。女は僕を警戒している。女は簡単なやり取りで取材を終わらせるつもりだろうが、僕はしっかり聞きたい。僕はいつもにもまし…

ヤマザキナナミ(50代)

女は職安から出てくると、求人表をカバンに入れ、公園のベンチに座る。僕は女に声を掛けると、女は「何で私が求職してるって分かったの」と僕に問う。僕は面喰い、「あなたがハローワークから出てくるのを見ました」と小声で答える。女は僕の回答に笑い、取…

シミズヒロコ(54歳)

グレイのスーツを着た女は、職安から出てくる若い男女に声を掛ける。声の掛け方は「こんにちは、ちょっとお時間いいですか」、「お疲れ様です、今よろしいですか」。女に応じる人は立ち止まり、5分から10分程度立ち話を道路の脇で行う。女は首にぶら下げた身…

ナガヤマヨシコ(54歳)

周囲に田んぼもある職安に女が消えていく。20分後、女がそこから出てきたので、僕は取材を申し込むと、女は「難しいこととかわかりませんよ」と答え、話を聞かせてくれた。 (今日、職安に来た理由は?)前の会社を退職しまして、今日、初めて保険の手続きに…